5話 出会い
四人の男が目の前を横切った。そして、遠くから悲鳴が聞こえた。
「なにかあったのか……いかないと……」
駆け付けると傷だらけの女性が、自身に<ヒール>をかけていた。
(ロックブリザード……駄目だ。俺とこの子じゃ勝てない……ッ)
その時、その子と目が合った。
「駄目っ。金等級じゃないと勝てない!! 逃げて!!」
彼女はそう言った。だけど俺の体は逆に動いてしまった。剣を抜き、魔物に切りかかる。刃が通らない。尻尾で振り払われた。それだけで吹き飛ばされ、地面に転がった。
(……癒し……彼女が回復を……)
「ぐ……」
刻々と魔物が近づいてくる。俺は痛みを堪えて立ち上がる。
(彼女を連れて逃げないとッ)
「逃げるぞ!!」
俺が引き付けていた間に彼女は回復したらしい。その言葉に同意して走り出す。俺もそれを追う。その時、土の壁が目の前に現れ、動きを止める。振り向いた彼女が言う。
「後ろ!!」
魔物の目の前の地面から氷の杭が出現した。さらにすぐにその前に杭が現れ、地を這うように迫りくる。俺はそれを避ける事ができない。背後には彼女がいたからだ。
「私は気にしなくていいから避けてッ!!」
(……あれを……使うしかない……)
片眼に六芒星の模様が浮かびあがる。その瞬間、氷の杭が停止した。すぐに彼女を抱えると、土の壁を避けて逃げ出す。
そして、氷の杭が動き出した。
「え……? 嫌ァ離して!! どうしてッ? ってなんで抱えられてるの!!」
「話は後だっ。悪いけどこのまま逃げる!!」
「あれ? なんで? う、うんっ!!」
先ほどの力は時間停止。短い間、停止した時間を俺は動くことができるようだ。強くなれなかったが勇者パーティーに食らいつけた理由だ。
その時、俺が吐血してしまった。体から力が抜けて転んでしまう。これは体に負荷がかかるのが弱点だ。
「大丈夫!! <ヒール>
この能力でのダメージはヒールでは何故か癒されない。
「ごめん。立てる?」
「大丈夫」
無理して起き上り、逃げようとするが俺たちは止まる。
「崖……!!」
その背後から魔物が迫りくる。
「くっ……」
「どうするの……土と氷で逃げ道を塞がれる……」
「やるしか……ないか……」
「え?」
「ごめん!!」
もう一度彼女を片手で抱き寄せ、崖から飛び降りた。彼女は悲鳴をあげる。
もう一度時間停止を使う。これには二つ使い方がある。一つは先ほどの停止した時の中で動く。もう一つは動けないが意識できるようにすること。こっちの方が負担は少ない。
木の枝を見つけるとそれに腕を伸ばす。腕が痛いが我慢する。その時、枝が折れた。三度ほど使い衝撃を和らげ、地面に落ちた。
負荷が少ない方とはいえ、流石に連続で使うのはきつかった。意識を失ってしまう。彼女はヒールをかけているとある事に気が付いた。
「分かった……そういうこと……」
目を覚ますと焚火の音が聞こえた。先ほどの金髪碧眼の女性が背を向けていた。彼女はガサガサと小さな鞄の中からなにかを探していた。
「お互い、無事だったみたいだな……」
「助けてありがとう。生きてるなんて不思議なくらい!! それよりちょっと待ってて。呪法にちょっと詳しいから」
「……なにを?」
「君……呪われてるよ。さっき助けてもらったのに嫌な気持ちになったの。それでもしかしてって」
「呪われて……?」
「あったあった」
魔導具とは違う呪具と呼ばれる変な人形と、<アンチカース>という解呪の魔法を組み合わせるらしい。
「それは嫌悪の呪い……必要以上に冷たくされた覚えはない?」
「……多分、あるかもしれない……」
背中に手を当てると、強い光を放つ。呪具に黒いものが移ると壊れた。
「うん。これで……」
「これが原因だったなんて……いつのまに……」
「……とはいかないみたい」
「え?」
「腰にある呪い……これは私には対処できない……」
「ッ……もう一つ呪いがっ?」
「うん。これは強力……なにか腰に攻撃を受けなかった……」
戦いを思い出してみる。すると一つ思い浮かんだ。
「あ……リッチ……でもくらったのは一回だけだ」
「……私が解呪したのは呪法としては未熟だった。おそらくかけたのは初心者ね。憎悪は強かったけど」
「……残ってる方はどんな呪いなんだ?」
「ごめんなさい……そこまでは分からない……」
(思えばあの時からパーティーの足を引っ張るようになった……弱体化という線が濃厚だけど……)
「ありがとう。それが分かっただけでも。それに解呪も。心から感謝する」
「私も助けてもらったからお互い様!! あ、ええっと……私はモニカ。君は?」
「アルベール」
「それじゃあさ!! 一緒にパーティー組まない?」
「え?」
「私……見捨てられちゃったの。ギルドに報告して脱退するつもり」
(さっきの人たちか……)
「ごめん。俺は今呪われてるから。一緒にいると危険だ」
「だからじゃない!! 私は最高の僧侶になるのが夢なの!! それは放っておけないよ!!」
「解呪の方法を一緒に探してくれるのか?」
「うん」
「ありがとう……なんてお礼を……」
「ほら!! せっかく一つ良い事がったんだからもっと笑って!!」
「あ、ああ」
できる限りの笑みで返すと、それがぎこちなかったのか、笑われた。
こうして呪いを解くための旅が始まった。