10話 奇妙な精霊
俺は肩を貸してもらって馬車まで運んでもらった。一応大丈夫と言ったが、丁重に扱われた。この感じは久しぶりだ。生きていることを実感する。
「お前、あの超加速は体に負荷がかかるのか?」
「え? あ、ああ……」
最初に絡んできた男が言う。
「凄かったぜ。悪かったな、疑って」
「いや、適切な判断だったと思う」
「そうか……まっ、頑張れよ。お前ならすぐに等級が上がるさ」
ギルドに罠にかける魔人が現れた事を報告した。遺跡にあったものは一度、ギルドで登録される。高価なものならギルドが強制的に買い取るが、あまり値打ちがなさそうなものはもらえる。
報酬の銀貨1枚をもらうと宿屋に戻る。不安な顔のモニカが迫ってきた。
「アルベール……あれって私を助けた時の……」
「うん……」
ハッとしたモニカが手をとった。老婆の言葉を思い出したのだ。しかし、手相を見ても分からない。
「だ、大丈夫だって。こうしてピンピン動いてる……」
「……駄目だよ。明らかにおかしい……あの状態。ヒールでも治癒できないしっ」
「……」
「できれば……使わないでほしい……」
「そうそう!!!」
(……体に異様な負荷がかかっているのは分かってる。でも……俺には力がない……ッ)
「……分かった。なるべく使わないようにする」
モニカがほっとした表情になった。
「良かったー……」
「……って。そうそう?」
「え? 私そんな事言ってないよ。今のはアルベールが……ぇっ」
「ん?」
剣を見ると足のない黒いクラゲのような生物がくっついていた。
「ス、スライム?」
「いつの間に……」
手で払おうとするとひらりと躱す。それは剣から離れて浮いていた。
「やめてよー」
「な、なんだこいつは……」
「まさか、精霊とか?」
「いや、どう見てもスライムじゃないのか?」
精霊は伝承にある。生物から無機物、あらゆるものに宿っているとされる不思議な存在だ。モニカが言う。
「でもスライムは飛ばないよ。絶対に精霊だよ~」
「そうそう。そんな感じのやつ」
「うわ……怪しい……」
「ぷにぷにだよ?」
「知らんよ……ってまさか、あの洞窟で頭に響いた声は……」
「僕だよ。君が手に取ったことで顕現した感じ」
「じゃあ。貴方がアルベールを助けてくれたのね。ありがとう」
「ふふーん!!」
「でもなんで俺なんだ? 他の人には聞こえてなかったような……」
「いやー。多分この人で良いかなって」
「適当だな……」
「記憶もあいまいだし……」
その時、脳内に声が響いた。
『その能力……使う度に寿命が縮んでるよ』
(ッ……どのくらいだ)
どうやらモニカに聞こえないように気を使ってくれたようだ。
『分からない……僕起きたばっかだから。力が出なくて……』
(呪いの方ではないのか……それが聞けただけでも。助かったよ)
「ねぇ。精霊さんのお名前はなんていうの!!?」
「あー、なんだっけ?」
「……ぷに助、だな」
「ええー。そんな適当な」
「ぷにちゃんで」
「じゃあぷにで」
名前はすぐに決定した。
「そうだ、ぷに。アルベールの呪いを解く方法分かる?」
「聖域にいけば浄化できるかも」
「本当か!!」「場所忘れたけどね」
「……」
念のため地図を置くと、体の一部が伸びた。少し離してクルクルと回す。
「この辺じゃなーい。よく分からないけど」
「すごい!! あのおばあちゃんが言った場所と同じっ」
「適当で偶然かと……」
(でも聖域とかそういう関連を辿っていけば辿り着くっ……)
『あ、僕聖剣だから優遇待遇でよろしく~』
サラリととんでもない事を言い出す。
(聖剣なのか!! 嘘だろ? 四本しかないんだぞ?)
『え~。それは君たちの探索不足だし~』
(でもギルドもこれを聖剣だとは!!)
『はっはっはー。僕の魅力に気がつけないとは~』
胡散臭い。しかし、ぷには嘘という気はないようだ。
(……じゃあ何本くらいあるんだ? 覚えてなければいいや。他の聖剣にもスライムがくっついてるのか?)
『先を読むとはやるねぇ……まあ、多分付いていると思うよ。僕みたいに可愛いのが』
(……そうか)
モニカがジッとこっちを見ていた。
「どうしたの?」
「ああ、ちょっと疲れが……」
「それじゃあ早く寝ないと!!」
こうして仲間?が増えた。一段落すると急激に眠気が襲う。ベッドに潜るとすぐに眠ってしまった。あっという間に翌朝になった。心配していたが、体の調子が良い。