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転生一九三六~戦いたくない八人の若者たち~  作者: 紫 和春


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第95話 絶望の航海 その三

 一九三八年十一月二十五日。

 第8艦隊は、沈没した艦の乗組員を救助するのに精一杯であった。救助だけに丸一日以上を費やすほどである。

「自力で泳げる者は引き上げました。それ以外の兵士は、もう……」

 部下は悔しそうに、ハルゼー少将に報告する。

「……救えない兵士がいるのは仕方ない。兵士はその命を国に捧げることを仕事としているからな。しかし……」

 そういってハルゼー少将は、持っていたマグカップを床に叩きつける。

「ジャップに一方的に殺されることは想定していない! こんなのはおかしい!」

 そのまま椅子に座る。

「こんな状態では、我々はなぶり殺しにされているようだ……」

 一つ溜息をつき、少将は参謀に言う。

「大統領に、もう一度作戦の中止と撤退の許可を進言してくれ。まぁ、おそらく駄目なのだろうが」

 それを聞いた参謀は、部下に連絡するように指示する。

 ハルゼー少将は半ば諦めていた。その上で考える。

「この状況に陥ったのは何故だ? 何が悪かったんだ?」

 ブツブツと考え、そして思いつく。

「そうだ、パールハーバーだ。あそこを奪われてから、何もかも上手くいかないんだ」

 ゆっくりと立ち上がると、命令を下す。

「パールハーバーを攻撃する」

「イエッサー。しかしそれは、元よりフューリアス作戦に含まれていることですが……」

「いや、攻撃だ」

「は?」

 部下の胸倉を掴み、怒鳴り声で命令する。

「パールハーバーをッ! 二度と使えないほどにッ! 徹底的にッ! 攻撃するのだッ!」

 大統領からの命令はハワイ諸島の奪還だが、これに背く形になる。

「そっ、それでは大統領の指示は……」

「そんなもの知らん! 攻撃だ! 徹底的に攻撃だ! 弾薬が底を尽きるまで攻撃をするのだ!」

 その命令により、第8艦隊は被害を顧みない攻撃をすることになる。

 翌日。オアフ島南方二五〇キロメートルに第8艦隊がいた。

 すでに戦艦に搭載されていた観測機が、偵察状況を伝えている。

「ジャップはパールハーバー内に停泊しているようです。航空機は駐機しているものの、飛んでいる機体はないとのこと」

「よろしい。攻撃機を発艦させろ」

 正規空母に残っていた雷撃機と爆撃機を順次に発艦させる。その数一二〇機。

 雷撃機は帝国海軍艦艇を、爆撃機は各種物資が保管されている倉庫のほうへと向かう。

 ここに、アメリカ海軍による真珠湾攻撃が開始された。

 そこに連絡が入ってくる。

『敵航空機の発進を確認』

 どうやら、日本側もどこかで見ているらしい。地上に配備されていた戦闘機が上がっているようである。

 一方で、護衛任務を与えられたアメリカ側の戦闘機は、およそ五十機。圧倒的に数が少ない。しかし攻撃機の数が多い。数の暴力でゴリ押すだけだ。

 真珠湾まで十キロメートルの所で、九八戦と邂逅した。早速空中格闘戦が繰り広げられる。

 九八戦は攻撃機のことを狙うものの、その後ろからアメリカ戦闘機が狙う。九八戦は数発ほど攻撃機に弾丸を放つと、すぐに回避行動に移り、次の攻撃機のことを照準に入れる。

 九八戦の大編隊は、攻撃機の隙間を縫うように飛行し、その片手間に攻撃機へと射撃していく。攻撃機は割と密集状態にあるため、適当に射撃してもどこかしらに命中する。

 だがそれでも墜ちるのは数少ない。雷撃機は真珠湾の入口に侵入し、爆撃機は物資保管庫へと針路を取る。

 雷撃機は海面スレスレまで高度を下げ、速度を落とす。この状態が一番危険な状態だ。照準している間に、旧型の九六式艦上戦闘機がやってきた。兵装は七.七ミリの機銃であるが、集中攻撃されれば機体やキャノピーに穴が空く。これにより、数機が墜ちていく。

 それでも残った雷撃機は魚雷を投下し、その場を離れる。魚雷は真っすぐ進み、帝国海軍艦艇へと向かっていった。

 そして大きな水柱が上がった。

 それを見た雷撃機のパイロットが違和感を覚える。

「水柱が思ったより手前で立っている……」

 その時、帝国海軍艦艇の手前に何かが沈んでいるのが見えた。

 よくよく目を凝らして見てみると、艦の形をしている。そして理解した。

「あれは……オクラホマ……!」

 帝国海軍の真珠湾攻撃によって撃沈された、戦艦オクラホマの残骸である。魚雷攻撃を受けた際に、防御できるように仕組んでいたのだ。

「むごいことしやがって……!」

 その雷撃機のパイロットは怒りを覚えるが、その直後に攻撃を食らって撃墜された。

「ある種の冒涜を感じるだろうが、残念ながらこれは戦争だ。利用できるものは全て利用させてもらうぞ」

 岸壁に停泊していた第一艦隊旗艦の長門の艦橋から、山本長官がそう呟く。

 一方で、物資保管庫を狙っていた爆撃機は、九八戦の執拗な攻撃を受けていた。

 水平爆撃にしろ、急降下爆撃にしろ、狙いを定めるためにはある程度速度を落とさないといけない。その瞬間に九八戦からの射撃を食らうのだ。

 さらにあらゆる方向からの攻撃により、操縦がままならなくなる。それも被弾を増やす要因となった。

 結局、アメリカの真珠湾攻撃は大した戦果を上げることもなく、その大半を撃墜されるのだった。

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