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転生一九三六~戦いたくない八人の若者たち~  作者: 紫 和春


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第86話 南沙諸島海戦 中編

 第一〇六任務部隊が第三艦隊のことを発見した時点で、両艦隊は約六十キロメートル離れていた。

 お互い、偵察機と潜水艦からもたらされた情報だけで、敵の位置を探ろうとしている。

 そんな中、第三艦隊は編成を変えようとしていた。

「水雷戦隊を先行させろ。戦艦と重巡洋艦は後ろから砲撃を、水雷戦隊は接近して雷撃させるんだ」

 近藤中将の指示の元、名取率いる水雷戦隊は最大戦速で艦隊の前を行く。

 一方の第一〇六任務部隊だが、取れる手段は一つしかない。

「前進せよ。今は距離を詰めて砲撃するほかない」

 いくらなんでも、六十キロメートルも先にある目標を攻撃できる砲はない。今は最大射程に収まる距離まで接近する以外ないのだ。

「最大射程範囲に入ったら、直ちに砲撃を行え。そのためにも、偵察機には着弾観測も行ってもらう」

 偵察機は新たな任務を背負う。しかし、最大射程での射撃の散布界はとんでもなく広い。射撃した所で、命中などすることはないだろう。

 それでも、サクソン少将からの命令である。やるほかない。

 偵察機に着弾観測させようという動きは、第三艦隊でもある。

「この艦に搭載されている水偵を着弾観測に使おう。ついでに霧島の水偵も一緒に飛ばして、確実性を高めるんだ」

 こうして、比叡と霧島に搭載されている九五式水上偵察機を、射出機で発艦させる。二機の複葉機が、大空を舞っていく。

「さて、後は前進していくだけか……」

 数十分後。両艦隊の距離は約三十五キロメートルにまで近づいていた。水平線の向こうに、お互いの艦橋が見えるくらいの距離である。両艦隊は反航戦で近づいているような状況だ。つまり、側面を向いて全ての砲で攻撃できるわけではない。

 だが、ここから攻撃を開始しなければ、敗北に近づくだけである。

「砲撃戦用意」

 サクソン少将と近藤中将は、ほぼ同時に攻撃命令を下す。

「一番、二番砲塔で攻撃。後続の戦艦にも同様の命令を」

「了解。一番、二番砲塔は前方にいる敵艦隊に照準。右十度。仰角最大」

 第三艦隊所属の戦艦四隻は、前方にある主砲を敵艦隊に向ける。

 これは第一〇六任務部隊の戦艦も同じだ。しかし、こちらはたった一隻しかいない。それでも、やらなければやられるだけだ。

「主砲、照準よし! 装填完了しました!」

「射撃開始」

「撃て!」「Fire!」

 ほぼ同時に、主砲から火が噴く。しかし、帝国海軍のほうが数が四倍である。

 砲弾はしばらく空中を飛翔し、やがて落下していく。

 そして着弾。第一〇六任務部隊からの砲撃は大きく外れているのに対し、第三艦隊からの砲撃はほぼ正確で、一発は戦艦の前を進んでいた重巡洋艦のすぐ横の海面へと吸い込まれたのだ。

『我が方の砲撃は挟叉、命中範囲にあり』

 九五式水偵から、着弾観測の報告が上がる。

「ならば良し。次弾は位置関係修正の上、偏差射撃を行うこと」

「了解。方位盤、再度測距を行い、相対位置を割り出せ」

『仰角二百下げ、左右そのまま』

 方位盤の指示通り、主砲の角度を二百メートル分だけ下げ、再照準する。

「うちーかたーはじめ」

 再び砲撃。これを接近している間、両艦隊が行っていく。

 両艦隊の距離が二十キロメートルを切ったくらいの時だ。そろそろ重巡洋艦の主砲の最大射程距離に入ってくるため、両艦隊は重巡洋艦に攻撃命令を下していた。その直前に砲撃していた砲弾のうちの一つが、第一〇六任務部隊の戦闘を行く軽巡洋艦に命中したのである。

「敵艦に命中を確認しました!」

「ようやく当たったか」

 近藤中将は少し安堵する。

 一方で命中した軽巡洋艦だが、戦艦の砲撃に耐えられるわけがなく甲板を貫通し、機関室の直上に着弾した。さらに運の悪いことに、ボイラーに命中したことで砲弾の信管が作動。艦の内部から爆発したのである。その爆発により舷側に大きな穴が空き、機関室に大量の海水が流入。ボイラーの熱により一瞬で水蒸気を化した海水が、水蒸気爆発を起こしたのだ。

 当然の如く船体は耐えきれられるわけもなく、竜骨(キール)もろとも真っ二つに折る。軽巡洋艦はものの数分で沈没していった。

「巨大な爆発を確認。弾薬庫でも吹き飛んだんでしょうか?」

「爆発した原因はどうでも良い。今は敵艦隊の一隻が沈んだことに喜ぼう。ただし、そこには死んでいった兵士がいることを忘れるな」

 近藤中将はそんなことを言う。

 その間に、第三艦隊の水雷戦隊は第一〇六任務部隊まで十キロメートルを切る場所まで来ていた。

「我が帝国の魚雷は優秀だからといって、それを過信してはいけない。確実に、的確に敵を葬り去ることができる位置まで接近するんだ」

 水雷戦隊の司令官である大佐は、そのように忠告する。

 水雷戦隊は最大戦速で突っ込んでいく。速度は三十ノットを超えており、ボイラー室は一種の地獄の様相を呈していた。

 第一〇六任務部隊は水雷戦隊のことを確認しており、反撃を開始していく。

「クソ、奴ら正気か!? まっすぐ敵艦隊に突っ込んでくるなんて!」

「攻撃だ! 攻撃するんだ!」

 駆逐艦での数では負けているが、砲が優秀ならば迎撃は容易だろう。五インチの主砲から、砲弾が速射されていく。

 それに対して水雷戦隊は、全く変針することなくまっすぐ接近する。

「なんだアイツら! 死ぬのが怖くないのか!?」

 駆逐艦の艦橋にいた士官が、双眼鏡を覗きながら叫ぶ。

 第一〇六任務部隊の中で一番近い艦艇まで五キロメートルを切った。水雷戦隊は、第一〇六任務部隊の右側からまっすぐ突っ込む。

「今だ! 魚雷発射用意! 反転しつつ魚雷発射せよ! 魚雷は発射管一基分でいい!」

「とーりかーじ!」

 先頭を行く名取から順番に、左に舵を切る。魚雷発射管は右舷側に旋回し、照準を合わせる。

 そして舵が効きだして、艦が右に傾く。それを利用して魚雷を発射した。

 後続する吹雪型駆逐艦八隻も、任意のタイミングで魚雷を発射管一基分、三本の魚雷を発射する。

 上手いこと魚雷を発射し、第一〇六任務部隊全体に魚雷の射程範囲が入った。

「魚雷だ! 回避、回避ー!」

 慌てて回避しようにも、魚雷の到達のほうが早い。

 これにより駆逐艦三隻に魚雷が命中。三隻とも轟沈した。そして戦艦にも命中。艦尾に当たったため、舵が故障してしまった。

 中途半端に回避を行っていたことで、戦艦は右に旋回するようになってしまう。

「クソッ、奴らめ……!」

 サクソン少将が恨み節を言う。第一〇六任務部隊にしてみれば、悪夢だろう。

 しかし、本当の悪夢は前方からやってきていた。

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