第82話 宣戦布告
一九三八年十月十四日。
東京湾の入口に、日本海軍の主力艦隊が集結していた。
第一機動部隊、赤城、加賀、多摩、木曾、睦月、弥生、卯月、文月。
第二機動部隊、蒼龍、飛龍、天龍、龍田、如月、皐月、水無月、長月。
第一戦隊、長門、陸奥、伊勢、山城、金剛、榛名。
第一、第二機動部隊と第一戦隊をまとめて、第一艦隊とし、旗艦を長門とする。
その他に、水雷戦隊四個と第四戦隊をまとめて、これを第二艦隊とする。
第二艦隊が先行して索敵を行い、その後ろに主力である第一艦隊が航行する。
この連合艦隊の司令長官は、もちろん山本五十六大将である。ちなみに連合艦隊司令長官に任命されたことで、肩書は海軍元帥となった。
「本当に戦うんだな……?」
山本元帥は、第一艦隊の旗艦である長門の艦橋で、そんなことを呟く。
「致し方ないことです」
「米内総理はともかく、陛下がなんとお思いか……。例の転生者の話から察するに、負け戦をするようなものじゃないか」
「ですが、かの転生者の話では、我々大日本帝国が米国に宣戦布告したのは、一九四一年十二月八日だと言います。その他に、英国と仏国が敵ではないのも相違点として挙げられます。それだけでも、外交の勝利と言えるでしょう」
「そのようなものかね……」
「陛下のお気持ちですが、『負け戦にならないようにせよ』と聞いています」
「陛下のお考えはよく分からないものだが、臣民たる我々が陛下のお気持ちを裏切ってはならん。日本男児だからこその意地だ。そして、負け戦にならないようにするには、短期決戦でケリをつけなければならない。米国相手にどこまでやれるかは分からないが、とにもかくにも我々に負けは許されない」
山本元帥は腹をくくる。
「それで、陸軍はどうしている?」
「すでにフランス領インドシナ及び香港に向けて出発しています。我々が対米宣戦布告すれば、中華民国が動くとの考えから、香港には二万、ハノイには五万の兵を差し向けているとの事です」
「ずいぶんと大所帯だな。まぁ中華民国の動きを鑑みれば当然か。陸軍の肩を持つわけではないが、上手く行くことを願うばかりだ」
そんなことを言っていると、出発の時刻となる。
「では往こう。我が大日本帝国の行く末を占う大一番だ」
こうして連合艦隊は東京湾を出発し、一路真珠湾へと向かう。
その間に、別動隊として編成された第三艦隊は南へ向かう。
そして一九三八年十月二十一日。大日本帝国は米国に対して宣戦布告した。第一、第二艦隊はオアフ島から五百キロメートルほど離れた場所に陣取り、宣戦布告予定時刻から十二時間経過するのを待っていた。
これは史実において、宣戦布告の通知が遅れたことにより奇襲攻撃を受けたという米国内の印象操作を免れるためである。
ホワイトハウスに日本大使館からの電文が届けられると、ルーズベルト大統領は即座に対日宣戦布告を宣言。中華民国も一緒になって大日本帝国に宣戦布告した。
こうして、世界中を巻き込む第二次世界大戦が勃発するのであった。




