第73話 兵器
一九三八年三月二日。
宍戸は、現在進んでいる新兵器に関する報告を、軍事部から聞いていた。
「まず陸軍からです。主要な兵器として、二種類の戦車が完成し、量産体制に入っています。九六式中戦車と九五式軽戦車です。これは以前、総理からお聞きになった車輛だと思います」
九六式中戦車は、史実で言うところの九七式中戦車チハである。九五軽戦車は、ハ号そのものである。
「航空機ですが、九七式戦闘機の後継機である一式戦闘機の隼が制式され、生産に入ろうとしています。他には、昨年制式採用され生産が開始されている九七式重爆撃機があります。まぁどちらも資源を逼迫させる要因になっています」
一式戦闘機「隼」はそのままだが、九七式重爆撃機は史実での一〇〇式重爆撃機である。
「次は海軍です。この辺りも総理からお聞きになっていると思いますが、海軍では新型戦艦である大和型戦艦二隻が、新型空母は翔鶴型空母四隻、伊吹型重巡洋艦四隻、阿賀野型軽巡洋艦四隻、大淀型軽巡洋艦四隻が建造中です。後は戦時量産型駆逐艦ですが、すでに竣工している艦も出ています。それに伴い、水上偵察機や水上観測機、また水上攻撃機が海軍航空技術廠で開発が進んでいます」
この辺りは、史実より早く進んでいるだろう。
「航空機ですが、翔鶴型空母に搭載される九八式艦上戦闘機と九七式艦上攻撃機が制式採用され、工場で量産が行われています。艦上爆撃機は現在試作途中なので、採用は少し先になるでしょう。さらに並行して、陸上攻撃機の試作も進んでいます。一、二年すれば採用になるかと」
九八式艦上戦闘機は史実のゼロ戦だ。その他はそのままである。
「いやはや。これだけの大増産をこんな短期間でするとは、日本人の働き具合がよく分かりますよ。国際的な常識で、日本人はよく働くと言われるわけだ」
宍戸は素直な感想を述べる。
「しかし、これだけ無茶な建造計画を立案した関係者に、宍戸所長も含まれているんですよ?」
「それはそうかもしれませんが……」
「特に、海軍の軍拡……、今回は『マル拡計画』と呼称してますが、あまりにも急な建造計画で海軍省や各地の工廠が悲鳴を上げていますよ」
「それは……、なんか悪いことしたみたいで申し訳ないですね……」
「これが国防に繋がるので、問題はないですけど。もうちょっと限界というものを理解したほうがいいですよ」
「はい、肝に銘じます……」
宍戸は、少し反省する。
しかし、軍靴の音は確実に日本にも近づいてきている。この一九三六世界では、どれだけ被害を減らせるだろうか。それは、宍戸の手腕に掛かっているのかもしれない。




