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第45話 チャット

 一九三六年八月一日。

 この日から、ドイツの首都ベルリンでは第十一回夏季オリンピックが開催される。

 約二週間に及ぶ、スポーツの祭典が始まったのだ。

 そして、その裏で影のように動くものがある。

 オリンピック外交だ。各選手がその力量を示すのと同様に、それぞれの国の思惑が重なり合う。

 その波は、転生者たちも例外ではなかった。

『ちょっといいか?』

『どうした?』

『話しておきたいことがあるんだ』

 宍戸はグループチャットで、ある提案をする。

『日本と連合国との和解をしたい』

『本気で言ってるのか? とてもじゃないが難しいぞ』

 イギリスのロバート・コーデンが反論する。

『本気だ。そのために、コーデンやロンダの協力が必要不可欠だ』

『え? 僕も?』

『あぁ。日英仏蘭の四ヶ国による同盟だ』

『オランダも含めた四ヶ国って……、一体何をするつもりだい?』

『イギリス、フランス、オランダ……。どの国もアジア太平洋に植民地を持つ宗主国ね』

 アメリカのパドックが指摘する。

『今世界大戦が勃発したとしても、どの道植民地は独立運動を高めるだろう。なら、こちらから手を離してしまえばいい。その上で同盟を結ぶ』

 宍戸はこんなことを言っているが、コーデンは反対する。

『無茶だ。今のイギリスは日本に対する感情が最悪に近い。そもそも政府や国王陛下が植民地を手放すとは思えない』

『いや、割とアリだと思うよ』

 宍戸の意見に賛成するロンダ。

『植民地って有利そうに見えて、意外とコストがかかる所があるからね。コーデンだって知っているだろう? 史実の第二次世界大戦後、日本軍が占領した植民地はこぞって独立に走っている。戦後の混乱もあって、本国からまともに軍隊を送れず、そのまま独立を許すことになったのはよく耳にする話だ』

『確かにそうかもしれないが……』

『とにかく、今はこの八人で国際世論を変えていかないといけないのは事実だ。このままじゃ、世界大戦で大勢の人が死ぬことになる』

 人の命は尊い。むやみに奪ってはならないものだ。宍戸も、他の転生者も理解していることだ。

『とにかく、コーデンには日本と関係を改善するように働きかけてほしい。ロンダも同じようにしてくれないか?』

『うーん。やってみるけど、本当に関係改善できるか保障しかねるよ』

『それでもいい。もともと日本とイギリスは第一次世界大戦の時には同盟関係だったんだ。今の険悪な状態も、すぐに改善できるよ』

『分かった。フランス政府に進言してみるよ』

 宍戸は、イギリスとフランスの両国に、日本との関係改善の提案をすることに成功した。

『それじゃあ、次はパドックだな』

『私?』

『今一番の懸念は、日本とアメリカが全面的に衝突することだ。これが発生すれば、どんなシナリオを辿っても日本が滅亡する。その前に、日本とアメリカの間で講和でもして、関係改善に向かうのが最善だ』

『その通りね。私もルーズベルト大統領に進言しているのだけど、対日制裁はより一層厳しくするって聞かなくて……。それでも私は、大統領と話を続けるわ』

『それでよろしく頼む。こっちも政府関係者との関係性が築けてきているから、タイミングが合えば和解できるはずだ』

 そうチャットに書き込んだ宍戸。部屋では大きなため息をついていた。

「こうは言ったものの、大概は上手くいかないものなんだよなぁ……」

 政治の世界は難しい。国民の感情が揺れ動くだけで、長年成熟させてきた政策など簡単に吹き飛ばしてしまうほどの威力を持っているからだ。

「国民の理解を得つつ、自分のやりたい政策を打ち出すのは、至難の業であることは間違いない。そうなると、国民感情を無視して独裁政治をするしか道は残ってないんだよなぁ……。それじゃあナチス・ドイツと変わらない」

 宍戸は決心する。

「俺ができるのは、内閣のケツを蹴り上げること。今の内閣が倒されたら、それこそ国家存亡の危機だ。国民感情を沈静化させながら、平和への道を進む。それが、今の俺にできることだ」

 そんなことを呟いていると、同じ部屋で寝ていたすず江が起きてしまった。

「和一様……? 一体何をされているんですか……?」

「あ、ごめん、起こしちゃった?」

 日本時間一時七分。完全に深夜である。

「転生者の方たちとお話されてたんですか?」

「そうだね。今の不安定な世界情勢を何とかしようって話をしてたんだ」

「なんとかなりますか?」

「させてみせるよ。これからが重要だからね」

 すると、宍戸が大きなあくびをする。

「そろそろ寝るか。明日にも響くだろうし」

「そうですね。しっかりとお休みになってください」

 宍戸はベッドに入り、就寝する。明日の平和を願って。

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