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第40話 定例会議

 ドイツ、ベルリン。

 総統官邸にて、定例の会議が開催されていた。

「……つきましては、今後鉄鋼の輸入を二割増、穀物を三割増で考えています」

「よろしい」

 輸出入関係の報告を聞いたヒトラーは、無表情で承認する。

「続きまして、陸軍より報告します。ラインラントに進駐している部隊のうち一個小隊を、マジノ線の近くまで進軍させました。その際に、フランス軍との戦闘があったとのことです」

「フランス軍の大局的な動きは見れたか?」

 ヒトラーが聞く。

「フランス兵が哨戒に出ていたこと、歩兵砲らしき物に反撃されたこと、撤退後のフランス軍が一個中隊ほど出ていたこと。これらを鑑みるに、フランスはマジノ線を最終防衛線として見ていると考えられます」

「フランス軍はラインラントのことをどう見ていると思うかね?」

「黙認かと思います」

「そうだ、私もそう思う」

 ヒトラーは安堵した。

「もとより、ヴェルサイユ条約を破棄して再軍備宣言しても、特に何もしてこない連中のことだ……。もし何か言ってきたとしても、今度は武力で黙らせればいい」

 そういって背もたれに体を預ける。

「しかし閣下、再軍備を急いでいるとはいえ、今回の進駐は少々無茶だったのではないでしょうか? 事実陸軍の兵力は、名簿上では五十万になりますが、実戦で使えるのは三割にも届きません」

「それでも、やらねばならなかった。それは、あの少女が教えてくれたことだ」

 あの少女とは、転生者のローザ・ケプファーのことである。

 ケプファーは、ドイツの未来を案じると同時に自身の保身をするために、わざと嘘の歴史を教えた。ラインラント進駐は失敗する、と。ラインラントに進駐しない可能性に賭けたのだ。

 だが、残念ながら上手く行かず、結局ラインラント進駐を許すことになった。

「ラインラントを手にすれば、あとはライン川のように全てが上手くいく」

 ヒトラーには明確なビジョンがあるのだろう。物思いにふける。

「……分かりました。陸軍の兵力を名実ともに増強するよう、働きかけます」

 そういって陸軍総司令官は席に座る。

「それでは、今週の定例会議を終了します」

 ヒトラーは席を立ち、次の予定のために移動する。

 総統官邸の地下にローズ・ケプファーが監禁されている。すでに監禁し始めて半年が経過した。少女にとっては少しつらい環境だ。

 ヒトラーはケプファーのいる部屋に向かう。監視の兵士に対して、小さく手を挙げて挨拶する。そしてケプファーのことを呼ぶ。

「気分はいかがかね、ケプファー君」

「本当に最悪ね。私のいた世界では考えられないくらい汚いわ」

「それは残念だ。今回は良いニュースを持ってきたというのに」

「何のニュース?」

「君が失敗に終わると言っていたラインラント進駐だが、素晴らしいことに大きな妨害もなく成功した。少々小競り合いは起きているようだが」

「……そう」

「君もドイツ国の一員なのだろう? 少しは愛国心というものがないのかね?」

「私が愛している国は、私が生まれた母国であるドイツ連邦共和国よ。ナチス・ドイツじゃないわ」

「ふむ、愛国精神は育まれているようだな。素晴らしいことだ」

 そういってヒトラーは一歩前進し、ケプファーに尋ねる。

「では本題に入ろう。君のいた世界では、我々は何をしていた?」

 ケプファーは判断に迷う。

(ここで史実通りのことを教えてしまったら、きっとその通りに動いてしまう……。あぁでも、ラインラント進駐は失敗したって言っちゃったから、すでに整合性が取れてない。となると……)

 ケプファーは意を決して話す。

「……ソ連と不可侵条約を結ぶ」

「スターリンと不可侵条約だと?」

「そうよ。結果的にはあなたのほうから条約を破棄するけど、少なくともその間は連合国に集中できるはずよ」

「なるほど……。確かに一つの手ではあるな。早速交渉に入らせよう」

 ヒトラーが肩まで手を上げると、後ろにいた秘書官が地下から出る。おそらく、交渉の準備に入るのだろう。

「今日はここまでにしよう。君の待遇はまた考える」

「せめてここから出して! ホテルに軟禁すればいいでしょう! 結構限界なの!」

「そうだな……。ケプファー君がそこまで訴えるのなら、掃除や衣類の洗濯交換くらいは許可しよう。今死んだとしても、我々の手を少しだけ煩わせるだけだが」

 そういってヒトラーは、ケプファーの前から去っていった。

「……はぁ。どうしよう……」

 ここから脱出する算段もなく、かといっていつまでも監禁されているわけにはいかない。

「誰か助けに来てくれないかしら……」

 そういってケプファーはスマホを見る。隣の国であるフランスのジル・ロンダに連絡すれば、何か行動を起こしてくれるかもしれない。それでも、自分が助かる確率はかなり低いだろう。

「今は静かに時を待つしかないのね……」

 半分諦めた表情をするケプファー。これからの生活に不安を募らせるのだった。

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