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第30話 義勇軍その五

 その後、第九師団はバレンシアの街に残っていた残党兵を排除していた。

「北部の掃討はほぼ終了したそうです」

「南側の掃討も終了しました!」

「西側は防衛線が張られており、掃討にはもう少し時間がかかるそうです」

 山岡中将に報告が上がる。

「そうか。西側は敵の拠点に近いのだろう。掃討は大雑把で構わん」

「了解」

 山岡中将が命令を下したとき、国崎大佐が走ってくる。

「中将! 大本営から次の命令が来ました!」

「読んでみろ」

「はっ! 『しばしバレンシアにて待機せよ。政府軍から女性を引き渡される。合言葉は「二〇二〇年」。向こうの返答は「東京オリンピック」』……とのこと」

「東京オリンピック……? 一九四〇年開催に向けて協議されている東京オリンピックのことか?」

「開催できたんですね」

「それはともかく、ここで政府軍とご対面か。それが心配だな」

 山岡中将は、少し心配する。

「何かあれば、すぐに戦闘が起きますね……」

「……私を筆頭に、少数で政府軍のことを迎える。血気盛んなヤツ以外の兵士をここに呼べ。彼らに護衛してもらいながら、女性のことを迎えにいくぞ」

「よろしいのですか? 場合によっては、中将の命が危険に晒されますよ?」

「構わん。元より死ぬような命令を下している側の人間だ。こういう時くらい命を張らなければな」

 こうして第九師団の兵士から、五人ほどの護衛が選定される。そして待機の時間となった。

 翌日。バレンシア西側から、白旗を掲げた集団がやってきたとの偵察情報が入る。

「政府軍ですかね?」

「おそらくそうだな。こちらも白旗を上げるぞ。交戦の意思はないからな」

 小銃を旗竿にして、白旗を掲げる第九師団。そのまま、とある交差点にて両者が邂逅した。

『こちらはスペイン共和国軍のアスカソだ。名目上は捕虜の引き渡しとなっている』

『こんにちは。大日本帝国陸軍第九師団の山岡です。女性の引き渡しに賛同します』

『では、早急に引き渡しを行う。連れてこい』

 そういってやってきたのは、イザベル・ガルシアであった。しかしその場にいる第九師団の面々は、誰もがこう思ったであろう。

(誰だ……?)

 とにかく今は、彼女が命令にあった女性であるかを確かめる必要がある。

 山岡中将は、ガルシアに向けてこういった。

『……二〇二〇年』

『東京オリンピック、ね』

 どうやら合言葉は合っているようだ。

『あなたが、命令にあった女性のようですね』

『そうね、シシドには助けられたわ。でも言ってることが無茶苦茶だわ。この間はフランスに逃げろって言ってたのに、今度は日本に逃げろっていうし……』

「一体大本営は何を考えている……?」

 その時、ガルシアのスマホが鳴る。

『ごめんなさい、チャットが来たわ。……シシドからのメッセージよ。「ダイホンエイの命令として、イザベル・ガルシアを日本に連れて帰ること」ですって。ダイホンエイって何かしら?』

「宍戸……。風の噂では、未来から転生してきた未来人のようだが……。そんなのが大本営を仕切っているのか……?」

 それと同時に、伝令が走ってくる。

「大本営から連絡が入りました。『イザベル・ガルシアを日本に亡命させよ』とのことです」

「……何故大本営の命令を、彼女が知っているんだ?」

 山岡中将の中で、宍戸に対する不信感のようなものが大きくなる。

 しかし、命令は命令だ。軍人ならば、それを遂行せねばならない。

『我々の任務は終了しました。これから帰ります』

 そういって山岡中将は、ガルシアを連れて第九師団のほうへと戻ろうとする。その時、少し嫌な予感がした山岡中将は、国崎大佐と護衛の一人に声をかける。

「悪いが、政府軍のほうを見ながら下がってくれ。少し嫌な予感がする」

「目を離すな、ということですね」

「頼む」

 国崎大佐と護衛が政府軍のほうをチラリと見ると、小銃の銃口をこちらに向けた政府軍の兵士の姿を見ることができた。白旗を上げておきながら攻撃の意図を示すような行動は、国際法違反になるだろう。

 どうにか彼らの死角に入り、国崎大佐は少し安心した。

「危うく攻撃されるところでした……」

「これで我々の任務は終わりなのだろう。本土に帰るぞ」

 山岡中将が指示を出す。

「輸送船は、カステリョンからバレンシアに移動するよう、通知しています。本日の午後には輸送船への乗船が可能になるかと」

「分かった。防衛線は最後まで張っておけ。いつ政府軍がやってくるか分からんからな。対空警戒も忘れるなよ」

 こうして第九師団は、丸一日かけて輸送船に乗船。その後、日本に向けて出発するのだった。

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