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第29話 義勇軍その四

 その後、分断された部隊と第九師団は、無事にバレンシア北部で合流した。

「それで、敵の勢力は分かっているのか?」

「偵察隊からの情報によりますと、バレンシア中心部から海岸に向けて移動しているようです」

「市街地を警戒しつつ、背水の陣である海岸線の部隊を確実に葬り去るつもりか。妥当な判断だ」

「山岡中将、いかがしましょう」

「それなら、やることは一つに決まってるだろう」

 そういって一言、命令する。

「突撃だ」

 その頃、海岸線にて防衛中の反乱軍の部隊は、物陰に隠れながら反撃の機を伺う。

『おい、弾薬残ってるか?』

『このクリップで最後だ』

『そっちのお前は?』

『最終手段のために用意してた拳銃しかない』

『クソッ、ここで野垂れ時ぬのか……』

 そんな時、すぐ近くの建物の脇に積んでいた土嚢が爆散する。政府軍の歩兵砲が直撃したのだろう。土嚢の後ろに隠れていた兵士の体の一部が飛んでくる。

『あぁ、神よ……』

『もうダメだ、自害するしかない!』

 そういって、拳銃の銃口を自分の口に入れる兵士。

『落ち着け! まだ分断された味方がいる! あいつらがこっちに来れば、まだ勝機はある!』

 そのような光景が、至る所で行われていた。

 そこに、接近してきた政府軍の兵士が怒鳴ってくる。

『こちらは共和国軍である。反乱軍の諸君、降伏するなら今のうちだ。あと三十分以内に投降しなければ、歩兵砲の餌食になるだろう』

 降伏勧告を受ける反乱軍。これ以上の攻撃手段もなく、降伏する以外何もできないだろう。

『うぅ……、親父、お袋……。すまねぇ』

 悲壮感が反乱軍全体を覆っていた。

 その時だ。遠くのほうから砲撃音が聞こえてくる。

『なんだ? なんの砲撃音だ?』

『向こうの連中がついに動いたか?』

『誰か様子を見てきてくれないか?』

 そんな話をしていると、人の声が聞こえてくる。しかもそれは、雄たけびのような感じだ。

 その声の正体は、第九師団であった。政府軍の横から山砲による一斉射撃ののち、歩兵三個連隊による突撃が敢行されたのだ。

「敵の横っ腹を一点集中攻撃する! 全軍、突撃ィ!」

「うぉぉぉ!」

 やり口が戦国時代の足軽そのものである。着剣した小銃で政府軍の真横に飛び掛かり、そのまま市街地の中をひっかきまわす。

 山砲は次弾装填次第射撃を行い、歩兵砲の無力化を図る。そんな山砲の砲撃が行われている中を突撃する第九師団の歩兵は、命などどうでもいいと思っている者が多いからだろう。

 歩兵の集団が一斉に襲い掛かってくるものだから、政府軍の対応は完全に後手に回った。

 建物の陰から小銃による攻撃を行うものの、べらぼうに突っ込んでくる第九師団の姿を見ただけで、簡単に照準がブレる。

 その隙をついて、第九師団は銃剣突撃で攻勢をかける。あちこちで政府軍の兵士の血が飛び交う。ある者は銃剣だけで数人を倒し、ある者は着剣状態で援護射撃、ある者は拳を振るうという暴挙に出ていた。

 それでも、第九師団の士気が高かったためか、政府軍の兵士はどんどん減らされていく。中には、第九師団の勢いに怖気ついて逃亡する者もいた。

『なんなんだ、あいつらは……』

 海岸線にいた反乱軍の部隊は、第九師団の猛攻に驚いていた。

 そこへ、分断されていた反乱軍の片割れが合流する。

『お前ら! 無事だったか!』

『あぁ、そっちこそ無事だったんだな!』

 そんな喜びを分かち合っていた。

「良かったですね」

 国崎大佐が、山岡中将に声をかける。

「あぁ、そうだな。これでいい」

 政府軍の戦線は完全に崩壊し、ほとんどが逃亡していた。

 第九師団は勝利を確信する。その時だ。

 遠くの空からエンジン音が聞こえてくる。

「この音は……」

 国崎大佐がすぐに周囲を見渡す。すると、西の空から数個の黒い影を見つける。

 特徴的な複葉機の航空機。ソ連で生産されたI-15である。

「敵戦闘機接近!」

 戦闘機は機首を地面に向け、降下しながら第九師団に向けて機銃掃射を行う。

「うわぁぁぁ!」

 思わず歩兵は、蜘蛛の子を散らしたようにバラバラになって逃げる。中には小銃で応戦する歩兵もいたが、分が悪すぎた。

 あらかた機銃掃射した敵戦闘機は、一度高度を上げ、再び地面に向けて機銃を撃つ。地上にいる歩兵は、ただ逃げることしかできなかった。

「チッ、撤退……するにしても、この混乱ではまともにできないか。だがしないよりはマシだな」

 山岡中将は、急いでやってきた自動車に乗り込む。そして命令を下す。

「全軍撤退! バレンシア北部で待機していば場所まで下がるんだ!」

 その命令を通信兵が送ろうとした時だった。

 今度は南のほうから、別のエンジン音が響き渡る。

「今度はなんだ?」

 山岡中将が、窓の外を見る。するとそこには、見たことのある単葉機が飛んでいた。

「あれは、メッサーシュミットのBf109……!」

 ドイツ空軍の航空機だ。

『こちらコンドル軍団先遣隊。目標の敵戦闘機を発見した。これより排除に向かう』

 そのままコンドル軍団の戦闘機は、圧倒的な速度と攻撃力で、あっという間に政府軍の戦闘機を撃ち落としてしまった。

「あれがナチス・ドイツの実力か……」

 山岡中将が、コンドル軍団の戦闘の様子を見て、呟く。

「正直、相手にはしたくないですね」

 国崎大佐が、山岡中将に同意するように言う。

 こうしてバレンシアでの戦闘は、第九師団の突撃で勝利を収めたのだった。

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