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第147話 降伏

 一九三九年五月三十一日。

 ナウマン臨時内閣より、ドイツ国が降伏に応じることが、スウェーデン経由で連合国に通達される。これは外交として、ドイツが敗北を認めたことを意味する公式的な通知だ。

 連合国は、各地での戦闘の裏で準備していた無条件降伏文書である「ストックホルム講和条約」を提示した。

 この条約を端的に示すと、「ドイツは停戦のための努力を、直ちにかつ兵士の復員が終了するまで、継続して行う」「ドイツは連合国のうち、米英仏ソ露によって統治される」「これを拒むことはドイツ国民をより一層苦しめることになるので、賢明な判断を下すべし」となっている。

 ドイツのナウマン臨時内閣は、どのような条約でも受け入れる以外の選択肢は実質なかった。ヒトラー総統やその周辺の関係者がいない今、これ以上の国家を維持するためには降伏を受け入れるしかないのである。

 ストックホルム講和条約は簡潔に書かれていたため、条文を翻訳して電文で送信することが出来た。その内容を聞いたナウマン臨時内閣とカール・デーニッツ大統領は、条約とは思えないほどの短さに大層驚いた。

「条約がこれだけだとは……。無条件降伏だから、これだけしかないのだろうか」

「いや、もしかすれば、急いで作った条文かもしれん。時間に追われていたのなら、この短さも頷ける」

 しかし、そんな議論はどうでもいい。今はこれを受け入れるか否かを決めなければならない。いや、もう結論は決まっている。

『ドイツ国は、ストックホルム講和条約に批准する』

 この決定を同年六月二日に世界中に発信した。この日をもって、一九三六世界における第二次世界大戦の一つの区切りとなる。

 それから日々は過ぎ、同年六月十二日。ドイツ、ヴィルヘルムスハーフェンの沖合。

 ここに、ずっとヨーロッパに派遣されていた帝国海軍第一艦隊旗艦の大和が停泊する。なぜ大和がここにいるかというと、調印式を大和の甲板で行うことになったからである。

 連合国としては、ドイツの戦後処理に深く関わっていない日本に、せっかくだからと出番を与え、そして戦後処理に貢献せよという威圧をかけるために選ばれたのだ。

 かつて同盟国として戦っていた大日本帝国の艦艇で調印するというのは、ドイツに対してある種の屈辱的な行為に匹敵するだろう。

 大和の甲板に集結する各国の関係者。日本からは、在英大使館から大使が派遣され、山本長官と肩を並べていた。

「しかし、こうして見るとずいぶんと長い戦いであったな」

 山本長官は、アメリカの代表団が調印をする様子を見ながら、大使にだけ聞こえるように話す。

「えぇ。紆余曲折はありましたが、ようやく戦闘が終わりましたな」

「これで世界が平和になればいいのだが……。そうはうまくいかないのだろうな」

「弱音ですか? 山本長官にはこれからも我が国のために尽力していただきたいのですけどね」

 調印式は、イギリス、フランスの代表団の調印に移っている。

「そういう君こそ、これからドイツに派遣されるかもしれないぞ? 一番近くでドイツのことを見ていたからな」

「それはご勘弁願いたいものです」

「まぁ、それでも、だ。世界規模での戦争はなくなったのだ。それは喜ばしいことだろう」

「えぇ、その通りです」

 そしてフランス、ソ連、ロシア帝国と調印を続ける。

「大使、次が出番ではありませんか?」

「そうですね。それでは、私の晴れ舞台と行きましょう」

 そういって大使は調印文書の前に立ち、文書に署名する。

 そして最後に、ドイツの代表が調印文書の前に立つ。少し震える手を抑え、ドイツ代表は文書に署名した。

『ここに、ストックホルム講和条約が発効されたことを宣言します』

 代表団と大和乗組員による拍手。これにより、世界大戦が終結した。

 ストックホルム講和条約の発効の報は、日本にいる宍戸にも届く。

「世界大戦が終結しましたか。これで自分の出番も終了ですかね」

 大本営立川戦略研究所の所長室。宍戸は椅子に深くもたれかかった。

「おそらく。所長のいた世界では、ドイツは分割されて統治されるのでしたね?」

「えぇ。この世界でも同じ運命を辿るのかもしれません。もしかしたら、再併合するかもしれませんけど」

 そういって窓の外を見る。梅雨の合間の、晴れやかな天気が広がっていた。

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