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第145話 暗殺

 一九三九年五月二十三日。ドイツ上空。

 現地時間〇一〇〇時、灯火管制が敷かれているライプツィヒに向かって、複数の輸送機が編隊を組んで飛行していた。

 それこそ、目標とされている狼ことヒトラー暗殺を狙う部隊、スサノオ連隊である。ちょうど前線に近い場所にいて、ヒトラー暗殺に最適な戦力を保有していたことから選定された。

 そんな輸送機は、先導しているロシア軍機と天測航法によって、ライプツィヒのすぐ近くまで夜間飛行を行った。

 やがてライプツィヒの上空へと入る。すると、灯火管制が敷かれているはずの街中から、点滅する光が見えるだろう。

 光源にいるのは、イギリスから派遣されてきた諜報員だ。ヒトラーの居場所を突き止めた上、スサノオ連隊の誘導までしてくれる、大変優秀な職員である。

 その光を確認したスサノオ連隊は、一個中隊のみを降下させる準備に入る。連隊丸ごと降下してもよいが、あまりにも兵士が多すぎると却って不利になりかねない。そのため、兵士の数を制限したのだ。その上、残りの兵士たちにはやる事がある。そのため、精鋭と称される中隊がヒトラー暗殺を担当するのだ。

 地上の光の位置から、自分たちのいる場所を把握する。そして、降下の号令がかかった。一斉に降下していく中隊。彼らを導くのは、僅かな月明かりと地上からの光だけである。

 やがて道路や建物の屋根、どこかの広場へと降り立った中隊は、素早く落下傘を外す。一緒に降下させた物料箱を拾い、中に入っていた軽機関銃や手榴弾、大量の爆薬を取り出す。そして移動を開始した。

 諜報員に案内され、中隊は総統大本営に到着する。建物としてはかなり地味で、周囲の建物と同じような建材と資材を使用しているようだ。おそらく、カモフラージュの意味もあるのだろう。その正面入口には、武装親衛隊の兵士が二人、護衛に当たっていた。

(さて、どうやってアレを排除するか……)

 中隊長は、周囲の様子を伺う。護衛の親衛隊の上には、灯火管制用の電球が一個だけあり、入口を照らしていた。それを見た中隊長は、部下の兵士に小声で指示を出した。

 兵士は、親衛隊員の影を利用して静かに接近し、口を塞ぎ小型のナイフで首を掻っ切る。

 その時に発生した物音で、もう一人の親衛隊員がそちらを向く。その瞬間、逆方向から接近していた兵士が同様に首を掻っ切った。

 これで安全に内部に入れる。中隊長を先頭に、中隊は総統大本営へと侵入する。

 中は静かで、人がいるようには感じられない。それをいいことに、中隊はあちこちの柱にワセリンと爆薬を混ぜた即席梱包爆薬を盛り、無線信管を取り付ける。

 しばらくすると、兵士の一人が地下へ続く階段を発見する。階段周辺の構造を確認すれば、地下はシェルターのようになっているのが分かるだろう。

 音を立てないように慎重に地下を進んでいくと、とある部屋から声が聞こえてくる。

 ドイツ語が分からない中隊でも、特徴的な声色で誰だか分かった。ヒトラー本人である。

 ヒトラーのいるであろう部屋は頑丈そうな扉でできており、その前には建物の入口同様に護衛の親衛隊員が二人いた。

 どうやら部屋には複数人いて、会議を行っているようだ。

 ここでも中隊長は少し考え、無言で部下たちに指示を出す。そして中隊長は弾丸を一つ、袋から取り出した。

 廊下の曲がり角で物音がした。護衛に当たっていた親衛隊の一人が、不審がって曲がり角の方へと近づく。向こうの壁際に弾丸が転がっていた。

 それを拾おうとする親衛隊員。その曲がり角の影に、中隊の兵士が潜んでいた。視線を曲がり角から外すための、高度なテクニックである。

 兵士は親衛隊員の襟元を掴み、バランスを崩させる。床に転がったところで、口を全力で押さえつつ首を掻っ切った。

 その際、隊員は手足をバタバタさせていたため、不自然な物音が響くだろう。もう一人の隊員が様子を見に行こうとした時、別の通路を迂回してきた中隊の兵士によって、ロープで首を絞められて絶命する。

 これで障害は排除された。あとはヒトラーを暗殺するのみである。

 扉の前に軽機関銃二丁を準備する。手で持って腰辺りで軽く固定する。

 準備が整ったのを確認し、鋼鉄製の扉をノックした。

「ハイルヒトラー!」

 こうすれば、少なくとも警戒はされないだろう、という目的で発言する。

 数秒ほどした後、向こうから扉が開けられた。扉が開いた瞬間、それを思い切り開かせ、射線を確保する。

「打てぇ!」

 中隊長が叫ぶ。ほぼ同時に、軽機関銃を持っていた兵士は、弾詰まりを恐れずに引き金を引いた。弾丸が飛び交い、部屋の狭さも相まって大変なことになる。

 マガジンが空になり、弾切れを起こす。二丁の軽機関銃に代わり、待機していた兵士が拳銃や小銃で攻撃を続行する。

 マガジンを交換し、軽機関銃を持った兵士二人は、再び射撃できる体勢を取る。そして拳銃や小銃を持った兵士たちが、部屋の中へとなだれ込んだ。

 どうやら、中にいたドイツ人は全員虫の息のようだった。兵士は一人ずつ丁寧に、心臓と頭部に弾丸を打ち込む。

「ヒトラーはいるか?」

 中隊長が部屋に入り、確認する。

「中隊長、こちらに」

 兵士の一人が、拳銃で指す。部屋の奥側、テーブルの横でヒトラーは倒れていた。

「総統閣下、何か遺言はあるか?」

 中隊長が聞く。

『私は……何度でも……蘇る……』

 ヒトラーはドイツ語でそのように言ったが、ドイツ語に精通してない中隊長にはさっぱりだった。

「やれ」

「はっ」

 そのやりとりで、兵士はヒトラーを確実に殺害した。

 中隊長は、他の閣僚の顔も見る。ゲッベルスとゲーリングも臨席していたようで、無残な姿で床に転がっていた。

「目標を暗殺した! これより撤退する!」

 中隊長の命令で、兵士たちは総統大本営を脱出する。

 そして少し離れたところで、あるボタンを押した。無線信管の起動ボタンだ。

 直後、総統大本営は内側から爆発し、倒壊した。

 それを見届けた中隊長は、そのへんにあった自動車を拝借して走らせる。中隊の目的地はライプツィヒ飛行場である。

 中隊以外のスサノオ連隊は、中隊が降下したあとにライプツィヒ飛行場を制圧するために降下し、制圧した。その証拠に、飛行場のある方向から火の手が上がっていたのだ。

 輸送機が滑走路に並んで待機している。その横まで自動車を走らせ、中隊を含めたスサノオ連隊は輸送機に乗り込んだ。

 そのまま輸送機は一斉に滑走路を離陸し、ライプツィヒを脱出する。

 こうしてスサノオ連隊は、ヒトラー暗殺という歴史的快挙を成し遂げたのであった。

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