表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/149

第144話 パリ蜂起

 一九三九年五月十九日。オルレアン・フランス、パリ。

 花の都と評されるこの街も、臨時政府の首都がオルレアンに樹立したことにより、廃れる道を辿っていた。

 かつては威厳に満ちたエッフェル塔も、今や薄汚れた鉄の色をしており、第一展望台にはハーケンクロイツが描かれた巨大なドイツ国旗が翻っていた。

 こうして見れば、パリは完全にナチス・ドイツの占領下にあることを内外に示していることが伺える。

 しかし、パリ市民の心まではナチス・ドイツに占領されてなかった。ジル・ロンダがパリを脱出する際に、当時の軍事省の職員と会話した話が、水面下で静かに人々へと伝わっていたのだ。

『我が国の転生者は、フランスを取り戻してくれる』

 確証のない願いに、パリ市民は手を伸ばし続けていた。

 そして、機は熟す。ドイツ軍の間で、連合国軍がパリの西方三十キロメートルまで接近しつつあるという情報が流れたのだ。場所として見れば、ベルサイユ宮殿のさらに向こうあたりである。ほぼ近所と言っても差し支えない距離だ。

 この事実が、パリ市民を燃え上がらせた。自由のため、平等のため、友愛のため。ここにフランス革命のような、大規模なドイツ軍廃絶運動が起こったのだ。

 まず人々は、ありとあらゆる道具を武器として手に取った。掃除用のモップ、整備用のレンチ、建材の板、そこら辺にあった窓ガラスを割った破片など。

 それらを振りかざし、百人単位の集団でドイツ兵たちに襲いかかる。いくら小銃を持っている兵士であっても、これだけの集団には勝てない。

 そうして一人ひとりに分断したところでタコ殴りにし、持っている小銃、拳銃、手榴弾などを強奪。それを使って、さらに他のドイツ兵を殴り殺しに行くのだ。

 こうした武力闘争の影響は、あっという間にパリ全体に広まった。

 そしてこれを逃さなかったのが、連合国軍西部戦線最高指揮官であるアメリカ陸軍のマッカーサー大将だ。

「パリ市内では、市民が暴徒の如くドイツ兵を追い回しているようだ。守るべき市民が兵士のケツを追いかけているのに、我々が出ない道理はないだろう。全軍、直ちに進軍せよ」

 パリ攻略のために待機していた連合国軍は、想定よりも少ない戦力でパリに進軍する。戦力が少ないとは言うものの、十個歩兵師団、六個砲兵師団、二個機甲師団、二個騎兵師団を内包している軍集団である。少々戦力過剰であるが、かつての首都であるパリ周辺の地域をまとめて包囲するには、これくらいの戦力でちょうどいいのかもしれない。

 軍集団は、パリの周囲を包囲しつつ、中心部へと騎兵師団を走らせる。道中、複数の戦車と遭遇するものの、軽快な走りで無視していった。当然、後ろから射撃されたが、すでに市街地なので遮蔽物はいくらでもある。

 そうしているうちに、騎兵師団がパリの中心部に接近する。そこで行われていたのは、ドイツ戦車による市民への直接攻撃と、その程度では怯まないパリ市民による対戦車近接戦闘であった。どこから調達してきたか分からないドイツ軍の手榴弾や、限りある資源で製作された火炎瓶で戦車を撃退していたのだ。

 その光景を見た騎兵師団の兵士たちは、若干ドン引きしていた。

 それから約一時間後、機甲師団がようやく到着する。シャーマンは市街地に散乱した瓦礫を使い、うまく敵の射線を切る。そこに歩兵と騎兵が合わさってドイツ戦車を翻弄することで、効率的に射撃して撃破していた。

 こうしてパリ市街地全体を包囲していく。ドイツ軍の兵士はよく戦っていたが、さすがに敵が多すぎたのを察したのか、次々と降伏する兵士が現れる。やがて勢力は連合国軍のほうが上回り、ドイツ軍は成す術もなく敗走するしかなくなった。

 数日後、パリのエッフェル塔に掲げられていたナチス・ドイツの国旗は、乱雑にナイフで切り落とされ、地面に落ちた。そこに戦車用のガソリンを撒き、焼却されてしまう。その代わりとして、通常サイズの星条旗、ユニオンフラッグが複数掲げられた。

 この一連の行為によって、パリは連合国の勢力下に置かれることとなった。パリの解放である。

 余談であるが、ナチス・ドイツ国旗の焼却と連合国の旗が翻った際に撮影された写真は、後世にて第二次世界大戦対独戦線を象徴する一枚となったそうな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ