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第141話 新型爆弾

 一九三九年五月十二日。日本、立川。

 大本営立川戦略研究所では、次の段階の話が行われていた。

「旧ドイツ領ポーランドはポーランド亡命政府の復帰によって、ポーランド臨時政府の元で再統治が進んでいます。現在までに、ポーランド全土に政府職員を派遣し、現状の確認と復興に向けた調整が進んでいるようです」

 そのように林が報告する。それを聞いた宍戸は、満足そうに聞く。

「良かった良かった。これでポーランドは自由の身になったわけですね。それで、ポーランド在住のユダヤ人の皆さんはどうなってます?」

「ドイツ占領下にて、街を丸ごと収容所にしていたそうで、それが複数個確認されています。現在は街ごとに解放していき、亡命希望者はソ連、ロシア帝国、日本に亡命できるように、手続きをしている最中です。今は臨時政府ですから、そういった外交業務も滞っているでしょう」

「そのあたりも、日本として支援していきたいですね……」

「それに関しては、米内総理がすでに指示を出して、外交官を向かわせています。今度出発するホ三十一番航空隊に乗せるそうです」

「だいぶ手際いいですね……」

「かつて全人類の人権を主張した国ですから」

「しかし、ポーランドにいる亡命希望者って、一体何人いるんでしょうか?」

「ポーランドにいるユダヤ人は推定で五十万人。そのうちの一割が亡命希望とすると、五万人ほどでしょう」

「そんな人数、ホ号作戦では輸送しきれないのでは……?」

「今回ばかりは、シベリア鉄道のお世話になるかもしれません」

 そんなことを話していると、所長室にある人物が入ってくる。

「お疲れ様です」

 彼は軍事部技術課の課長だ。新技術のことなら、軍事かどうか関係なく広く情報を収集している。

「どうかしましたか?」

「先ほど米国から、新しい兵器の実験をしたとの報告がありまして、それをお知らせに来ました」

「新兵器、ですか」

「はい。なんでも、従来の大型爆弾と同じ大きさで、何十倍ものエネルギーを取り出せるという、夢の新技術だそうで」

 その時、宍戸の背筋が一気に寒くなった。

「……それって、もしかしてウランやプルトニウムを使った爆弾ではないですか?」

「え、はい。公文書によれば、通常の爆薬とは異なる爆破プロセスを採用している新型爆弾だそうですが……。あ、でも、未来から宍戸所長なら知っていましたか」

 そういって技術課長は笑う。

 それをよそに、宍戸は拳を机に叩きつける。技術課長は、その音にビックリしていた。

「所長? いかがしましたか?」

 林が宍戸に聞く。

 宍戸は俯きながら答える。

「その新型爆弾は、核爆弾と呼ばれる物です。それだけは絶対に実用化してはいけません」

「どうしてでしょう? 何か理由があるのですか?」

 林が追及する。

「……皆さんは、自分がいた未来の話を聞いているはずです。日本は枢軸国として戦い、結果連合国のアメリカに敗れた。その決定打とも言われる爆弾が、その新型爆弾です。この新型爆弾は広島市と長崎市に投下され、その年の年末までに合わせて約二十万人の民間人が死亡しました」

 その言葉に、林と技術課長は険しい表情をする。

「さらにその新型爆弾は、放射線や放射性物質をまき散らし、自分のいた時代まで人々を苦しめました。それくらい悲惨で残忍な兵器なのです」

 宍戸は顔を上げ、林たちのほうを向く。

「現代では平和利用されていますが、それでも人類の手には有り余るものでした。廃棄物として出る放射性物質の処理方法も確立していないのに、です」

「そ、それは宍戸所長のいた時代の話ですよね? この世界では違うかもしれないじゃないですか」

「そうかもしれません。しかし、人は新しい技術を手にしたとき、無性に使いたがるものです。それに、今は使わなくても、時代が下って新たな権力者が台頭したとき、不意なことで使用してしまうかもしれません」

「しかし、これでドイツの蛮行を止められるんですよ? それなら安いじゃないですか。実際米国もそんなことを言ってますし」

「そういう問題じゃないんです。自分は戦争を容認している立場ですが、原爆だけは決して許してはいけません。それで始まるのは新しい明るい時代ではなく、暗く冷たい戦争です。とにかく、アメリカの見解を直接聞かないと。アメリカと話をさせてください」

 宍戸は、静かな怒りに燃えていた。

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