表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生一九三六~戦いたくない八人の若者たち~  作者: 紫 和春


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

137/149

第137話 救出

 第一五爆撃飛行団が撤退していく方向、つまりイギリス本土から飛んでくる数機の飛行艇。

 空挺には使われることがないであろうサンダーランドに、落下傘連隊が搭乗し、ベルリンへと接近する。

「目標視認! 前方約4000ヤード!」

 飛行艇の操縦士が、連隊に声をかける。

「総員、降下準備!」

 連隊長であるウィル大佐が、兵士たちに号令をかける。兵士は椅子から立ち上がり、突貫工事で付けられた機体後部のドアの前に並ぶ。

「ここから先は地獄だ。だが、俺たちは地獄であろうと突き進む。決して下がることはしない。それが、イギリス陸軍落下傘連隊だ!」

 連隊長が発破をかける。兵士たちの中には、闘志がわき上がっていた。

「ドア開放!」

 落下するドアが開く。飛行艇の風と共に、熱風と煙の匂いが全身に降りかかる。

 連隊長が、煙で見えにくい中でも、地上を見て降下のタイミングを伺う。

「目標通過! 降下開始!」

 連隊長が降下の号令をかけると、兵士たちは順番にドアから飛び出していく。最後に大隊長、連隊長と続き、サンダーランドから飛び出した。

 他の飛行艇からも落下傘部隊の兵士が飛び出し、次々とベルリンの地へと降り立っていく。

 しかし中には、火災の影響で風向きが逐一変化することによって、着地地点が大きくズレた兵士もいる。運が悪ければ、火災が起きているど真ん中に降り立つ兵士もいた。

「今いる奴らだけで総統官邸に向かうぞ!」

 落下傘連隊の目標は、総統官邸である。そこにはヒトラーの身柄はないが、ある人物が取り残されてることが、情報機関「知恵の樹」によって判明している。

 その人物こそ、ドイツの転生者ローズ・ケプファーであり、連隊の任務はケプファーの救出である。

 その頃、ライプツィヒに避難していたヒトラー率いる首脳陣。ここには総統官邸と同程度の機能を持った建物と地下壕がある。

「今頃、ベルリンは火の海でしょう」

 ゲッベルスが時計を見ながら、ヒトラーに言う。

「ベルリンが陥落しようとも、我々が生き残ればそこが首都であり、ドイツである。連合国の好きなようにはさせんよ」

 ヒトラーが椅子にふんぞり返って言う。

 そこにゲッベルスが一つの疑問をヒトラーにぶつける。

「しかし、よろしかったのですか? 転生者をベルリンに置いてきてしまって」

「構わん。もうすでに、彼女が知っている歴史を逸脱しているのだ。どうやっても、我々の利益にはならんだろう。用済みということだ」

「ならば、殺しておいた方が良かったのでは?」

 ゲッベルスが疑問をぶつける。

「現地からの報告は聞いていないのかね? ベルリンは火の海のようじゃないか。それだけの爆弾を落としているなら、彼女は生きてはいまい。そして、そんな場所にいる彼女をわざわざ助ける必要はないだろう。どっちにしろ、死ぬのには違いない」

 それを聞いたゲッベルスは、少し不服といった表情をする。もちろん、ヒトラーに見られないように、だが。

「しかし、彼女も上手く使えば、アーリア人種の宣伝になれたかもしれません。そこだけが、心残りです」

「この状況でも、宣伝大臣の仕事を考えるとは、さすがのゲッベルスだな」

 そう言ってヒトラーは笑う。

「さて、連合国の連中はどう出るかね?」

 その連合国の連中である落下傘連隊は、総統官邸に突入していた。

「この周辺だけ、火の手がないですね」

「どうやら空軍の連中が、我々のためにこの周辺を爆撃ポイントから外したらしい。真偽は不明だが、とにかくチャンスというわけだ」

 そういって総統官邸の中をくまなく探す。

「重要な文書は焼却済み、ヒトラーの執務室には爆破の痕跡……。奴ら、我々に情報を渡すつもりはないようだな」

 もっとも、これらの行為は基本的な対処法の一つである。

 二階に上がり、中庭が見えるバルコニーに差し掛かると、そこで横になっている人影を確認する。兵士が近寄ってみると、一人の女性が手足を縛られているのが見えるだろう。

「お、おい! 大丈夫か!?」

 その声に反応したのか、女性はこちらに視線を向けるだろう。

『あ、あなたたちは……?』

「ド、ドイツ語だ……。誰か、通訳出来る奴いるか!?」

 すぐにドイツ語が堪能な兵士がやってくる。

『君の名前は?』

『ローズ・ケプファー……』

『ということは、君がドイツの転生者だね?』

『なんでそのことを……?』

『君のことを助けに来た』

『そんな……、私、そんな重要人物でもないのに……』

『いや、君は重要な人だ。精鋭である我々落下傘連隊が出るほどにはね』

 そういって手足を縛っていたロープを切る。

「目標確保! これよりベルリンを脱出する!」

『エスケープ? ちょっと待って!』

 ケプファーは兵士のことを振り切って、地下壕の入口へと向かう。そのまま地下壕を進み、かつて自分が幽閉されていた牢屋のような場所へやってくる。

『ど、どうしたんだ? 急に走り出して……』

 通訳の兵士が追いかけてくる。しかし、ケプファーは反応しない。そのまま床にへたりこんでしまった。

 彼女の目の前にあったのは、他の転生者と連絡を取るのに必要なスマホの成れの果てであった。ちょうど画面の中心部分を、弾丸が貫いている。

『もう、使えないのね……』

 スマホを拾い上げ、ケプファーは悲しみに暮れる。

 だが、その時間をイギリス兵は与えてくれなかった。

『急いでここを脱出する。君の身柄をイギリスに届けるのが最優先なんだ。早く!』

 通訳の兵士に急かされ、ケプファーは総統官邸を脱出する。そのまま近くにあった無傷の自動車に乗り込み、落下傘連隊は事前に確認していた道を進む。

 ほとんどの通りは、自動車一台分が通れるようになっていた。それもそのはず、爆撃によって発生した瓦礫の除去のために、連隊のほとんどが駆り出されていたからだ。

 一時間もすれば、ハーフェル川に到着するだろう。川と名前がついているが、ほとんど湖のような場所だ。

 そこに、イギリス陸軍所有のサンダーランドが数機ほど待機していた。

『今からあの飛行艇に乗ります』

 川辺からボートに乗り移り、飛行艇へと搭乗する。

「目標を飛行艇に搭乗させた!」

「了解。この後の予定は?」

「第一大隊の俺たちが、ロンドンに到着するまでエスコートする」

「OK、すぐに発進する」

 ケプファーを乗せたサンダーランドは、エンジンを吹かして水面を走り、離陸体制に移る。

 その時だった。どこからともなく銃声が響く。

「なんだ今のは!?」

「川辺にドイツ兵がいます!」

「畜生! 親衛隊だ!」

「銃座! 反撃しろ! あの機体だけは何としてでもロンドンに送り届けるんだ!」

 近くにいたサンダーランドの銃座が動き、親衛隊に向かって銃撃する。しかし親衛隊も無暗に攻撃しているわけではない。別の方向から機関銃による銃撃を行う。

 そんな銃撃の応酬をしているうちに、ケプファーの乗ったサンダーランドは離水体勢に入っていた。

「エンジンチェック、問題なし」

「水面、穏やか。離水に影響なし」

「風速、風向き、少々難あり」

「了解。本来なら飛行停止だが、離水を強行する」

 この飛行艇の機長が判断する。

「フラップ十度、エンジン出力最大」

 フラップレバーを下げ、スロットルレバーを全開まで押す。

 水しぶきを上げながら、サンダーランドは速度を上げる。そして若干大きく機体を揺らしながら離水した。

「フラップ戻せ。低空でベルリンから離脱する」

 ドイツ軍の対空砲を避けるように低空で飛行していくサンダーランド。道中で護衛としてスピットファイアがやってきて、数機の編隊となる。

 こうしてケプファーは、ロンドンへと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ