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第135話 ワルシャワ

 一九三九年四月二十四日。ドイツ領ポーランド。

 東部戦線が敷かれているこの地域では、帝国陸軍を中心に日々前進を続けていた。特に帝国陸軍の歩兵、ソ連軍の戦車、ロシア軍の砲撃・空爆という三ヶ国の役割分担が功を奏し、連合国軍は首尾よく前線を押し進めている。

 そして、ワルシャワの中心部まであと三十キロメートルほどまで接近していた。この辺りになると、ちらほらと住宅と思われる建物があり、周辺に畑も広がっている。雪解け水でぐしゃぐしゃになった泥に足を取られつつも、連合国軍は進んでいた。

「この後はロシア軍による砲撃があるはずだったな?」

 帝国陸軍欧州派遣軍の指揮官、篠田中将は懐中時計を取り出して言う。ここ最近のロシア軍の砲撃は、明け方、正午、夕暮れに攻撃しており、ある種のルーティーン化していた。

「今日の進軍はこの辺にしておきますか?」

 助手席に座っている部下が、地図を確認しながら聞いてくる。

「うーむ。だがそろそろワルシャワに到着する頃合いだろう。ポーランドの首都を奪還する絶好の機会だとは思わんかね?」

「それはそうですが……。我々派遣軍のみで突撃するのは、いささか危険ではないでしょうか?」

「そうだな……。そうなると、ソ連やロシアと連絡を取り合うことになるだろう。今連絡を取り合えるのか?」

「無線機の周波数を合わせればなんとか……」

 そんな時である。後ろを走っていた通信中隊のバイクが、篠田中将の乗っている自動車に接近してきた。そして隣に並び、何かを伝えようとしている。

 自動車を止めて、話を聞いてみる。

「ソ連軍とロシア軍から、ワルシャワにいるドイツ軍を一掃する提案を受けました。いかがしましょう?」

「向こうのほうから提案してきてくれたのなら、もちろん大歓迎だ。急いで準備に取りかかろう」

 こうして、ワルシャワを抑えるために、近くにいた第一〇〇二師団と一〇〇五師団が招集される。さらにソ連軍及びロシア軍の戦車がやってくる。もともとは同じ国だったこともあり、連携はばっちりである。その上、ロシア軍の爆撃機も参戦予定とのことだ。

 部隊が整った。これより、ワルシャワ解放を目的とした軍事作戦が始まる。

 まずは郊外にいるドイツ軍のことを後退させるために、ロシア軍の野砲による砲撃が始まる。ソ連もそれなりに物量のある国だ。一挙攻勢の際の投射量は段違いである。

『砲撃の効果あり。敵の軍勢はワルシャワ方面に向かって撤退している模様』

 偵察に出ている偵察特化の改修爆撃機から連絡が入る。

 それを聞いた戦車部隊は、一斉に前進を始める。このままワルシャワを包囲するつもりなのだ。それに合わせるように、欧州派遣軍も前進する。

「基本は鶴翼の陣形だ。これを崩さぬようにすれば、攻撃としても使える」

 篠田中将がそのように指示を出す。それに従い、三日月状に並んだ派遣軍は、ワルシャワに向けて前進する。

 幸いにも、ドイツ軍の反撃を食らうことなく、ワルシャワの東側約二十キロメートルの戦線を確保することに成功した。

 そしてこれにより、ドイツ軍はワルシャワに閉じこもったと判断された。そこにやってきたのは、ロシア軍の野砲と爆撃機群である。野砲と爆撃機群は、ワルシャワの美しい街並みごと焼き払う決断をしたのである。街の中には、伝統的な建物や歴史のある教会もあるだろう。今日ここで、それらを全て破壊するのだ。

「守るべきものは守り続けていきたいものだが、時には破壊も必要というわけか……。まさに、ソドムとゴモラだな」

 篠田中将は、砲撃と空爆によって街から黒煙が上がる様子を見て、そのように呟いた。

 徹底的に破壊すること数時間。あちこちで火の手が上がり、まさに一つの地獄が出来上がっていた。

「さて、ドイツ軍狩りと行こうか」

 篠田中将の命令により、二個師団はワルシャワの街へと入城する。

 当然だが、あたりは瓦礫の山で大変なことになっていた。ソ連の戦車も一緒に入城するものの、この瓦礫の山では到底進めたものではない。ソ連兵は瓦礫の撤去作業に追われる。

「建物ごと焼き払うとは……。大義名分があるとはいえ、これが戦争か……」

 ワルシャワに入城していた舩坂が、街の惨劇を目にして呟く。

 そんな街の中では、様々な場所でゲリラ的戦闘が発生していた。

「向こうの瓦礫の山から攻撃! 擲弾準備!」

「駄目だ、こっちの建物の影からも撃ってきやがる!」

「しぶとい奴らだ!」

 しかし、先の砲撃と空爆によって、多くのドイツ兵は瓦礫の下敷きになっているか、焼死体になっていた。

 残っていたドイツ兵も戦意喪失しているようで、継戦能力を欠いていた。中には堂々と白旗を掲げる部隊もいた。

 降伏してきた彼らの話を聞くに、ポーランドは東方への足がかりのために占領しただけであり、ロクな防衛体制も敷かれていなかったという。

 あまりのずさんな防衛体制に、思わず舩坂も同情せざるを得なかった。

 こうして、数日かけてドイツ兵を降伏させていった結果、ワルシャワからドイツ軍を排除することに成功。捕虜も二百人ほど捕まえた。

 ワルシャワの街並みは消えてしまったが、これによりポーランドの首都は解放されたのだった。

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