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第127話 ドーバー海峡海戦 後編

 互いに砲撃戦を行う第一艦隊とドイツ主力艦隊。距離は十五キロメートルまで接近していた。

 交互射撃を行う第一艦隊。砲撃戦を開始してからすでに一時間ほど経過していた。大和型で見てみれば、八射目にて命中弾が出た。ビスマルク級戦艦の四番砲塔で火災が発生したようだ。帝国海軍には見えていないが、四番砲塔はこの火災により使用不能となった。

「敵に命中! どうやら、手前にいる艦に当たったようです」

「なるほど、敵は複縦陣で来ているのか。左右の精度は上がっても、前後の精度は上がらないものだな……」

 山本長官はそんなことを呟きながら、さらに指示を出す。

「もう少し接近して砲撃を続けよう。近づけば近づくほど、砲撃の威力は上がるからな」

「その分、敵の砲撃を受ける可能性がありますが?」

「それなら、この大和と武蔵が受け止めてくれよう。この二隻なら、性能を十分に発揮してくれるはずだ」

「了解。大和と武蔵を敵に近づけさせろ」

「おもーかーじ、ヨーソロー」

 これにより、大和と武蔵が攻撃のほとんどを受けることになる。

 この時になれば、完全に反航戦の状態になっていた。ここからは放つ砲弾の数の多さで決まると言っても過言ではない。

 さらに、両艦隊の距離が縮まったことで、戦艦に搭載されている副砲の射程圏内に入る。艦のあらゆる所から、砲撃の煙が立ち上がり、戦艦全体を覆いつくすほどになっていた。

 その上接近したことで、大和型戦艦に搭載されている最新鋭の射撃指揮装置の本領が発揮される。正確無比な砲撃は、ドイツ主力艦隊の戦艦にどんどん突き刺さるだろう。

 それを目の前で見させられているシルベスター大将は、少しずつだが怒りの感情に飲み込まれていく。

「どうして敵の砲撃がよく当たるんだ!? こちらも最新鋭の戦艦なんだぞ!」

「落ち着いてください! こちらの攻撃も命中しています。あの二隻の戦艦の防御性能が高すぎるのです」

「くそ……! 五十センチの主砲と、それの砲撃を受けても貫通しない装甲のせいだと言うのか……!」

 その時、シルベスター大将が座乗している戦艦ベルリンに砲撃が命中する。

「右舷高角砲が破壊されました!」

「えぇい! そんな報告はどうでもいい! 攻撃だ! あらん限りの攻撃をぶち込むんだ!」

 帝国海軍ほどの命中率ではないにしろ、ドイツ主力艦隊の砲撃も負けてはいない。実際戦艦榛名の三番砲塔が損傷して使用不可に。戦艦長門の煙突に命中し変形、機関出力が低下。戦艦山城に至っては、敵艦隊側である右舷の副砲全てが使用不能になっていた。

 それでも、大和型戦艦の五十センチ主砲の威力はすさまじい。戦艦ベルリンの三番砲塔の根本に着弾させて火災を誘発。装薬に着火しそうな状態を作り出していた。

 こうしてドイツ主力艦隊の戦艦たちの機能を喪失させていた時である。山本長官はあることを思いついた。いや、思いついてしまった。

「拿捕したいな……」

「は?」

「うん、そうだ。拿捕しよう」

 その発言に、参謀は驚いた。

「な、何を言っているんですか? 長官。よく考えてください。この状況で拿捕だなんて出来るわけないでしょう?」

「いや、降伏勧告は出来るだろう。敵だってむやみに命を捨てたいとは思っていないはずだ。ならば、勧告を受け入れてくれるだろう」

「あまりにも希望的観測が過ぎます……」

 参謀は思わず苦言を呈する。しかし、山本長官は決して引かずに貫き通すという目をしていた。

 それを見た参謀は、一つ溜息をついて答える。

「分かりました。何とか考えましょう」

「よろしく頼む」

 それから数十分後。反航戦は依然続いており、両艦隊は円を描くように航行しつつ砲撃戦をしていた。

 そんな時、第一艦隊の中でも第一戦隊だけが、最大戦速でドイツ主力艦隊の方へと舵を切ってきた。

「敵艦隊突っ込んできます!」

「何を考えてるんだ?」

 シルベスター大将は第一戦隊の動きの目的を考える。しかし、帝国海軍の目的が拿捕だとは思いもしないだろう。

 第一戦隊はドイツ主力戦隊の右舷側を押さえにかかる。だが、そのままでは簡単に取り逃がしてしまうだろう。

「回避だ。このまま真っすぐ進めば、イギリス海峡に抜けられる。そのままブリテン島を一周して帰還しよう」

 シルベスター大将は、そのように指示を出した。その直後である。

「前方から別の艦隊が接近してきます!」

 別の艦隊。それは、第一艦隊と行動を共にしていたイギリスの水雷戦隊で出来た艦隊である。イギリス艦隊の水雷戦隊は数個で出来ていたため、半分をドイツ主力艦隊の進路を妨害しに、もう半分は第一戦隊と一緒に挟撃するために分かれた。

 結局ドイツ主力艦隊は、前方と左右を阻まれる形になった。一種の包囲網だ。

 その状態で、山本長官自らが無線通信で呼びかける。

「こちら、大日本帝国海軍である。貴艦は包囲された。降伏すればこれ以上の攻撃はしない。降伏の意志があるならば、マストにL、O、S、Eの国際信号旗を掲げるか、無線通信にて降伏を宣言せよ」

 少々煽っているような降伏勧告である。

 それを聞いたシルベスター大将は、一瞬考えることを放棄した。

「負ける……ということか?」

 そのことを理解したシルベスター大将は、呼吸が荒くなる。

「そんな、そんなことは絶対にあってはならない! ここで降伏などしたら、総統閣下から何をされるか……! 最悪、死ぬことよりも恐ろしいことをするに違いない!」

 シルベスター大将は砲術長に命令する。

「攻撃だ! 直ちに敵を全て撃沈させるんだ!」

「司令官! 落ち着いてください!」

「落ち着いていられるか! 早くしないと我々が殺されるぞ!」

 砲術長の肩を揺さぶって催促する。

 しかし、その命令が無理だと理解すると、砲術長のことを押しのける。

「もういい! 俺が自分でやる!」

 各砲塔に通じる電話機の前に立つシルベスター大将。受話器を取ろうとするが、それは叶わなかった。

 戦艦ベルリンの艦長が、シルベスター大将の腕を掴んでいたのだ。

「司令官、これ以上の抵抗は無駄です。降伏しましょう」

 艦長の意見に賛同するように、シルベスター大将のことを取り囲む士官たち。

「お、お前ら……! 命令が聞けないのかっ……」

「これ以上、命を無駄に出来ないんですよ」

 そういって士官たちはシルベスター大将のことを取り押さえる。

 艦隊司令官であるシルベスター大将に代わり、戦艦ベルリンの艦長が命令を下す。

「降伏勧告通り、マストに旗を。念のため、無線通信で降伏を宣言するんだ」

 こうしてドイツ主力艦隊は、降伏勧告を受け入れる。

 そして帝国海軍と王立海軍は、ドイツの最新鋭戦艦を拿捕することに成功したのだった。

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