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転生一九三六~戦いたくない八人の若者たち~  作者: 紫 和春


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第126話 ドーバー海峡海戦 前編

 大和の防空指揮所にて、周辺の警戒をしていた見張り員が、備え付けの双眼鏡である物を発見する。

『左舷前方に敵艦隊と思われる影を発見!』

 それを聞いた山本長官は、双眼鏡で水平線の向こうを見る。すると、海の上であるにも関わらず、黒い煙のような物が見えた。

「敵艦隊にて火災が発生した、との報告があったはずだ。となると、あそこに敵艦隊がいるというわけだな」

 双眼鏡でおおよその距離を察した山本長官は、すぐに指示を出す。

「敵艦隊との砲撃戦を行う。砲戦用意、全砲門を右舷へ。第一戦速、取り舵十五度」

「砲戦用意! 各砲門右舷に旋回! 徹甲弾を装填せよ!」

「第一戦速、とーりかーじ」

 オルレアン・フランスにある街、カレーの近くで回頭を行う第一艦隊。しばらくしてから舵を戻し、ドーバー海峡を北進するような形になった。

「さて、後は敵艦隊を捕捉する必要があるんだが……」

 その方法を考えていた山本長官は、手を顎に当てて考える。

 そして一つ、妙案かつ危険な策を思いついた。

「先に攻撃を行った航空隊がいるな? まだ帰ってきてない隊はいるか?」

「は。二、三隊ほどいるようですが」

「彼らをもう一度敵艦隊に差し向けてくれ」

「はい!? 長官、どういうことですか!?」

「航空隊を餌にして、敵艦隊を釣るのだ。単純な作戦だろう?」

「しかし、味方をわざわざ敵の前に差し出さなくても……」

「敵を確実に葬り去るには、誰かの犠牲が必要なのだ。犠牲なしに敵を打ち倒すことはできないと、歴史も示しているだろう」

「ですが……」

 士官が狼狽えていると、ある通信士が山本長官の前に出る。

「長官、お話のところ失礼します。意見具申です。自分の知り合いに、航空隊所属の少尉がいます。彼なら、話に乗ってくれるでしょう」

「ほう、そんな奴がいるのか。そいつはなんて言うんだ?」

「はい。命知らずの岩山という奴です」

 そんな岩山少尉は、着艦の順番待ちをしていた。

「岩山少尉、竹下艦長からの直接の命令が届きました」

「おやっさんから? なんて届いた?」

「『今すぐ航空隊を連れて、敵艦隊を一本釣りせよ』とのことです」

「一本釣り……。つまり俺たちは今から餌になりに行くってことだな?」

「詳細な命令が来ていますが、聞きますか?」

「いや、なんとなく分かった。敵艦隊をおびき寄せてこいってことだろ?」

「……まぁ、その通りですが」

「戦争らしくていいじゃないか。ぜひ行こう」

 こうして岩山少尉率いる航空隊九機は、再びドイツ主力艦隊のほうへと向かっていくことになった。

 そのドイツ主力艦隊では、ダメコンの作業が行われていた。

「各所の火災や浸水の処置が完了しました。さほど大きなダメージではありませんでしたが、軽症者が多く出ています」

「負傷者はすぐに治療させて、持ち場に戻らせるんだ。日本艦隊が近くにいるかもしれないからな」

 そんな時だった。見張り員から報告が上がる。

『日本艦隊と思われる艦影を多数発見!』

 シルベスター大将は、待ってましたと言わんばかりに声を張り上げる。

「敵艦隊が見えた! すぐに攻撃せよ! 先制攻撃すれば勝利が見える!」

「し、しかし、味方の救出も終えたばかりの時に砲撃だなんて……」

「このチャンスを逃せば、次は来ない可能性もある! それならば、すぐに攻撃するのが最善手だ!」

 このように主張するシルベスター大将。

 さらに報告は続く。

『少数ながらも敵機を確認! こちらに向かってきます!』

「向こうも戦うことを望んでいる! 攻撃しなければアーリア人としての誇りが失われるぞ!?」

 半ば脅迫するように命令を出すシルベスター大将。結局、砲撃準備が整っていく。

「砲撃準備整いました」

「攻撃開始せよ!」

 シルベスター大将の命令により、距離およそ四十キロメートルで砲撃が開始された。

 砲弾は空高く飛翔し、放物線状の軌道から自由落下へと変化していく。

 そして砲弾が着弾した。着弾した場所は、第一艦隊まで後数キロメートルの所である。

「長官、敵艦隊から砲撃が飛んできたようです。右舷三千のところで落ちたようですが」

「敵は自分のことを過大評価しているかもしれない。あの新型戦艦は、ドイツ海軍史上最大口径と言われている。それを過信して攻撃しているのだろう。まだまだ未熟者だな」

 そういって口角を上げる山本長官。

「さて、我々も攻撃を始めようか。敵までの距離は?」

「二万九千です!」

「だいぶ近くなった。彼らの働きもあるかもしれぬ」

 彼らは、ドイツ主力艦隊の対空砲が届きそうで届かない所を飛んでいた。

「岩山少尉ぃ、変な操縦のせいで気分が悪いです……」

「そろそろ慣れろ。まだまだ燃料はある。油の一滴がなくなるまで釣りを楽しもうじゃないか」

 そんなことをしているうちに、第一艦隊は照準を定める。

「敵艦隊捕捉。目標、敵新型戦艦」

「交互射撃用意よし」

「攻撃開始」

「うちーかたーはじめ!」

 その号令により、第一艦隊の全戦艦に巨大な煙が発生する。砲弾はしばらく飛翔し、敵艦隊の手前一キロメートルの所に落下した。

「射角修正、上千、ドン」

 もう片方の砲身が上方向に修正され、続けて砲弾が発射される。

 それにより、今度の砲撃はだいぶ敵艦に近くなった。

「ふむ、丁字有利か。このまま前進し、反航戦に持ち込めれば上々だな」

 砲撃の様子を見て、山本長官はそんなことを言う。

 二射目が終わり、砲弾が装填される。ある程度自動化されているとはいえ、砲塔内は大忙しだ。

 装填が完了し、三射目の砲撃。続いて四射目。ここまで来ると砲弾は夾叉し、命中確率が上がっていた。

「砲弾夾叉!」

「よろしい。このまま砲撃を続けつつ、敵艦隊に接近する。面舵五度」

「おもーかーじ」

 この辺りになってくると、距離は二十キロメートル、反航戦に近い状態になってくる。その様子は彼らにも分かってくる。

「岩山少尉、艦長から撤収の命令が来ています」

「そうだな。砲撃も当たりそうだし、俺たちの出番は終了ってとこか。引き上げるぞ!」

 航空隊が引き上げる中、第一艦隊とドイツ主力艦隊は砲弾の応酬を繰り広げていた。

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