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第123話 新兵器

 一九三九年三月十二日。イギリス海峡上空。

 バトル・オブ・ブリテンはいまだ続いている。

 連日のように続く爆撃で、沿岸部の都市の一部が焼かれ、それなりの被害が出ていた。

 しかしイギリス軍は、早期警戒レーダー以外にも、数学的・統計的な手法を用いた爆撃の予測を開始。これにより、哨戒中の飛行隊におけるドイツ軍機との遭遇率を、一割以下だったところを四十五パーセントまで向上させた。

 それに伴い、ドイツ軍爆撃機の損害率が上昇。ドイツが爆撃機を生産しても、それに匹敵するほどの数が撃墜されていた。

 この状況を、空軍総司令官のゲーリングはよしとしなかった。当然の反応だろう。

 だが、それでも確実に勝てる算段があった。それがこの日、発揮される。

 時刻は昼の十一時過ぎ。この日も哨戒のために、第四四五飛行隊は海峡沿岸を警戒していた。

「今日の遭遇確率は四割程度だったか。確率としては高めだな……」

 この飛行隊の隊長である少尉が、雲の向こうを見る。今日の天気は穏やかだが、やや雲が多い。こういう天気の日は、必ずといっていいほどドイツ軍がやってくる。

 そんなことを少尉が思っていると、視界の端の方で何かが光ったのを感じる。すぐにそちらの方を見ると、雲の切れ間を縫うように移動する黒い機影を複数発見した。

「隊長機から各機へ。敵を発見した、十時の方向。迎撃に入るぞ」

 そういって少尉から順番に旋回しようとした時だった。

 発見した敵編隊とは別の方から、聞いたことのない音が聞こえた。すると第四四五飛行隊の直上を、見たこともない航空機がものすごいスピードで通過する。

『な、なんだあれは!?』

『とんでもない速度だぞ!』

 僚機から驚きの声が上がる中、少尉はある計画を思い出した。

「プロペラではなく、新技術のジェットエンジンによって飛行する航空機……。我が国でも開発はしていたと聞いていたが、まさかドイツが先に実用化したのか……?」

 その正体は、メッサーシュミット社が開発したMe262である。史実でも、世界初の実用ジェット戦闘機として有名だろう。

 そのMe262は単独で行動しているように見える。速度は第四四五飛行隊の倍ほどだ。

『あんなものに追いつけるわけがない!』

『少尉、どうしましょう!?』

「落ち着け。まずは爆撃機の情報を地上に伝えるんだ。我々はあの戦闘機を相手にするぞ」

『勝算はあるのですか?』

「分からない。だから観察するのだ。特徴を探し出し、そこから弱点を見極める」

 部下たちは少々困惑している。しかし、少尉の信頼が勝ったようだ。

『分かりました! やってやりましょう!』

『新兵器なんて俺たちの敵じゃありません!』

「よし、攻撃準備──」

 その時だった。少尉の機体の右主翼がはじけ飛んだ。

「うぉっ……!」

 その衝撃で、機体は失速したような状態に陥る。

「くっ……」

 少尉は機体の状態を確認する。損傷したのは右主翼で、主翼の半分より先がなかった。エルロンは吹き飛んだが、フラップは生きているように見える。

 ならばやることは一つだ。少尉はフラップを展開し、エレベータを下げる。機首が下を向くようにして、失速を防いだ。

 しかし、片方の主翼が吹き飛んでいるということは、今まで出来ていた飛行が出来ないということでもある。現に、左右の揚力のバランスが崩れ、各種動翼を動かしてバランスを取っている状態だ。

『隊長! 大丈夫ですか!?』

「あぁ、なんとかな……」

『あいつ、とんでもないスピードを使って攻撃してきやがる……!』

『すぐにでも戻ってくるんじゃないか?』

「そうなると……、私にいい考えがある」

『考え?』

「私自身が囮になることだ」

『それでは隊長が……!』

「構わん。それに、諸君らの腕なら撃墜出来るはずだ。反対意見は聞かない。すぐに行動に移れ!」

『……了解!』

 そのまま少尉は、慎重に飛行を続ける。周囲は雲で覆われ、見えない方向もある。

「私が敵なら、この雲を使って攻撃してくるだろう……」

 そんな予想をしていると、その雲の中から速度を若干落としたMe262が現れる。その距離、およそ一〇〇〇メートル。

 Me262が照準を定めたときだった。少尉の前方にある雲から、部下のスピットファイアが飛び出してくる。

『食らえ……っ』

 そのまま少尉の後方にいるMe262に向けて、機銃の引き金を引く。弾丸は少尉の機体スレスレを通り、敵の機体へと吸い込まれていく。

 コックピットから右エンジンにかけて、弾丸が撃ち込まれる。特に右エンジンに被弾したことで、エンジンから火が噴き出す。

 途端に飛行性能が悪くなるMe262。徐々に高度を落としつつ、逃げていくようだ。

『させるかぁ!』

 そこに第四四五飛行隊のスピットファイアが群がる。あちらこちらから機銃掃射が行われ、機体に穴が開いていく。やがて胴体にある燃料タンクから火が噴き出し、やがて海面に向かって墜ちていく。

 その直後、コックピットからパイロットが脱出したようだ。

『やった! 撃墜だ!』

『俺たちはドイツの新兵器を墜としたぞ!』

 第四四五飛行隊は歓喜に沸いた。少尉も安堵する。

 しかし、まだ油断は出来ない。少尉の機体は損傷している。無事に帰還出来るとは限らない。

 それでも、細心の注意を払いつつ基地へと戻る。

 基地が接近してくると、少尉は基地管制に連絡を取った。

「胴体着陸する。火災の対策を頼む」

 そうして滑走路に進入し、胴体着陸をした。

 すぐに機体から脱出し、どうにか無事に生還することができたのだ。

 こうして第四四五飛行隊は、ドイツの新兵器を撃退するという成果を得たのだった。

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