第122話 カロリノ空挺作戦
一九三九年三月十日。ドイツ領ポーランド上空。
編隊を組んで飛行している九八式輸送機群。その中には、スサノオ連隊の空挺兵や各種武器を入れた箱が積まれていた。
「連隊長、まもなく降下地点です」
輸送機群の先頭を行く九八式輸送機の航空士が、スサノオ連隊の隊長に声をかける。
それを聞いた連隊長は、機内にいる空挺兵に対して話し始める。
「今回の作戦は、ドイツ軍の後方にある補給線を断つことにある。今までにない困難な作戦になるだろう。しかし、我々は空の神兵だ。どんなに難しい任務であろうと、確実に遂行することが出来るだろう。我々の働きをもって、前線にいる兵士たちを手助けしてやろうじゃないか」
このように演説する。
その時、ちょうど降下ポイントに到着したようだ。航空士が搭乗口の扉の前に立ち、解錠しようとしていた。
「時間だ。降下準備、体を起こせ!」
椅子から腰を上げ、自動開傘索を機内のレールにひっかける。
そのまま扉を開き、外の様子を確認する。高度はすでに六百フィート。およそ二百メートルを切るくらいだ。
しばらくしてから、長音のブザーが鳴り響く。降下の合図だ。
「降下、降下!」
約一秒間隔で空挺兵が飛び降りていく。順番に傘が開き、空に白の斑点が出来上がっていく。
「お世話になりました!」
最後の空挺兵が、航空士にお礼を言って飛び降りていく。
それと同時に、武器や弾薬を詰めた物料箱も一緒に落とされる。
数分ともしないうちに、地面が接近してくるだろう。そのまま体操の前転や後転の要領で地面に着地する。
急いで落下傘を体から切り離し、投下された物料箱まで走る。物料箱の中には、自分の持っている拳銃や手榴弾以外の、小銃、機関銃、歩兵砲が満載されている。
それらを開け、中から武器を取り出す。どの武器も分解されて入っているため、その場で組み立てる必要がある。それらを慣れた手つきで組み立てていく。
組み立てが終われば、ドイツ軍がいると思われる方向へ走る。ただひたすらに走る。
向かう場所はだいたい分かっている。降下前にそれらしい影を見つけていた。
移動すること数十分。空挺兵の一人が手を上げ、その場に伏せる。
前方にトラックの車列が見える。ドイツ軍のハーフトラックだ。
軽機関銃の群れが、銃口をトラックの車列に向ける。その後ろでは、歩兵砲が照準を合わせていた。
「歩兵砲、打て」
連隊長の指示が飛ぶ。歩兵砲の砲口から火が噴き、砲弾が車列を襲う。それに合わせて、軽機関銃が軽快な射撃音を響かせる。
突然の攻撃により、ドイツ兵は驚くだろう。砲撃が直撃し、爆発するトラックもあった。
混乱に乗じて機関銃の掃射が行われ、次々とドイツ兵が倒れていく。装甲がないに等しい輸送用のトラックは、どんどん蜂の巣にされる。
あちこちでトラックが爆発し、ドイツ兵は散り散りになっていく。
「着剣! 突撃ー!」
ドイツ兵のことを追いかけるように、空挺兵は突撃を敢行する。銃剣道で培った武道精神で、ドイツ兵を追い詰めていく。
しかし、そこに大きな砲撃音が響き渡る。辺りを見渡してみると、地平線の向こうからドイツ戦車がやってきたのだ。
ドイツ戦車は行進射撃でスサノオ連隊のことを狙う。走りながらの射撃であるため、砲弾はあらぬ方向に飛んで行ったりするものの、スサノオ連隊のいる地面を抉っていく。
空挺兵たちはとっさに地面に伏せるものの、至近弾の衝撃によって内臓破裂を起こす者も出てきた。
「さすがに戦車には勝てん……。だが、ここで足止めをせねば、前線にいる多くの同胞が犠牲になってしまう……!」
連隊長は考えた。考え抜いた上で、一つの結論を出す。
「やはり玉砕するしかないか……!」
連隊長は腹をくくり、命令を下そうとした。
その時、後方から特徴的な風切り音と砲撃音が響く。
そして目の前にいるドイツ戦車が爆発した。
「な、なんだ?」
後方を見てみる。そこには赤い絨毯こと、ソ連の戦車が大量にいた。彼らは前線のドイツ軍を突貫して突破し、ここまで進軍してきたのだ。
「これはありがたい味方が増えたな……! 我々は邪魔になる! ソ連戦車の後ろまで撤退するぞ!」
スサノオ連隊は急いでソ連戦車の後ろまで後退する。そのままソ連とドイツによる戦闘が発生した。
最終的には、数に勝るソ連軍が押し切って戦闘に勝利を手にした。
こうして、ドイツ軍の補給線の一つを潰すことに成功する。
しかし見方を変えれば、スサノオ連隊とソ連戦車群は敵のど真ん中にて孤立した形になる。だが、スサノオ連隊の空挺兵たちに絶望感はなかった。自分たちが勝利を掴むのだと確信しているのだ。
戦局は、新しい局面へと移っていく。