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第117話 憤慨

 一九三九年三月一日。ドイツ、ベルリン。

 総統官邸の会議室では、かなり重苦しい空気が漂っていた。

 理由は明白。ヒトラーが静かにキレていたからだ。

「なぜ、列強諸国が軒並み敵に回っているんだ……? ソ連はともかく、日本やイタリアも連合国入りしてしまったではないか……」

 ヒトラーの重みのある問いに、一人の将校が答える。

「そ、それは……、あくまで推測の話になりますが、おそらく列強諸国にいる転生者が結託したことによる影響かと……」

「転生者の影響……。我が国にも転生者はいるだろう。なぜ彼女は何もしていない……?」

「転生者である彼女が、他の転生者と連絡を取るには、ガラス板の装置が必要と思われます……。我々がそれを取り上げたことで、連絡が取れなかったのだと推測されます……」

「ならば、彼女が知っている事実を聞き出せばよいではないか……。なぜそれをしなかった?」

「そ、それは……」

 将校は言葉に詰まる。総統であるヒトラーが納得する理由を捻り出そうとした。

「もういい。ヤツを収容所送りにしろ」

 将校はヒトラーの機嫌を損ね、強制収容所送りになった。

 ドイツ兵に両脇を抱えられた将校は、泣き叫びながら会議室から追い出される。

「敵が出来ることに関しては問題ない。問題は出来た敵が軒並み列強諸国であることだ……。つまり継戦能力が高い。同盟を必要とせずに戦うことが出来る。……そんな連中が寄ってたかって繋がってみたまえ。我が国が焦土と化すぞ」

 会議室が静寂に包まれる。

「しかし、現に敵として現れてしまった。ならば、我が国がすることは一つ……。倒すことのみだ。幸いにして、フランスとスペインは我が陣営としてついている。近くにはイギリスが、ポーランドの向こうにはロシア帝国とソ連がいる。これらの敵を排除し、我が国の繁栄を全世界に知らしめるのだ」

「ハイル・ヒトラー!」

 ヒトラーの言葉に、その場にいた全員が直立してナチス式敬礼をする。

「今日の会議はここまでだ。ゲッベルスとゲーリングは残れ、話がある」

 その言葉通りに、ゲッベルスとゲーリングを残して、会議室から人がぞろぞろと出る。

 会議室の扉が閉まるのを確認したヒトラーは、ゆっくりとだが顔をしかめる。

「クソ……! 連合国の連中め……! この私をどん底に突き落としやがったな……!」

 次第に怒りを露わにしていく。

「だいたいなんなんだ!? この私がアーリア人ではないだと!? ブリテン島に引きこもっているだけの連中が何を知ったかぶっているんだ!」

 そういって机を手で叩く。

「私はアーリア人のことを思って政治をしているのだ! 他の奴らに変なことを言われる筋合いはない!」

 ヒトラーのブチ切れを見て、若干困惑しているゲーリングと、いつもの事かと冷静に見るゲッベルス。

「特に日本の連中だ! 劣等人種のくせして我々に楯突くだと!? どこまでも劣った連中だ!」

 もう言うことがないのか、息を荒くして固まってしまう。

「閣下。気はお済になりましたか?」

 ゲッベルスが声をかける。

「あぁ……。すまないな、諸君らに怒っているわけではないんだ……」

「承知の上です」

 そのやり取りで、ヒトラーは冷静さを取り戻す。

「ゲッベルス。どんな些細なことでもいい。転生者の彼女から情報を引き出すんだ」

「どの程度まで痛めつけますか?」

「水責めまで許可する」

「仰せのままに」

 ゲッベルスは手を胸に当てて、軽く礼する。

「そしてゲーリングよ。現在のレーベン作戦の進捗はどうだ?」

「はっ、はい。現在、連日爆撃機をイギリス本土に飛ばし、爆撃を敢行しています。しかし、敵戦闘機の猛攻に阻まれ、予定していた爆撃量の七割ほどにとどまっております」

「爆撃自体は出来ているんだな?」

「はい。我が空軍の戦闘機は優秀ですから、敵戦闘機を退けることが出来ています」

 こう話すゲーリングであったが、嘘が混じっている。まず、実際の爆撃量は予定の五割程度にとどまっている。そしてBf109の性能では、スピットファイアに追従することが困難になってきているのだ。

 つまり、ドイツは空軍の戦力でイギリスに負けつつあるということだ。

 そのような事実をヒトラーが聞いたら、ゲーリングの頭が物理的に飛ぶことになる。ゲーリングはそのようにならないように、偽の情報を伝えたのだ。

「予定の爆撃量を達成出来るように、今一度全部隊に通達するのだ」

「はっ!」

「イギリスめ……、痛い目を見せてやるぞ……!」

 ヒトラーは闘志を燃やしていた。

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