第116話 連合国
一九三九年二月二十七日。
モスクワを経て、ミンスクに到着した第一〇一一師団。これにて、大日本帝国陸軍が派遣した全ての師団が対独前線に集結したことになる。
その他ミンスクの周辺には、新生ロシア帝国所属の戦車、ソ連軍の歩兵師団、その他砲兵や兵站を担う部隊などが分散していた。
さらに空には、周囲を警戒しているロシア軍の戦闘機が哨戒のために飛んでいた。
ミンスクは周辺地域より規模の大きい街ではあるものの、兵士以外の人の気配がしない。かなりひっそりとしている印象だ。
「こんな大きな街なのに、かなり静かだな」
「どうも住民のほとんどが疎開しているらしい」
「そりゃそうだ。敵が目前に迫っているというのに、逃げないほうがおかしい。ここが前線であることを実感するよ……」
指揮官の前で、参謀たちがそんなことを言う。
「やはり、住民たちは恐れているのだろうな……」
指揮官がそのように呟く。
「自分たちの生活を失うことに。戦争とは、その土地に生きるもの全てを路頭に迷わせる行為だ。植物も動物も、人間も。そういう意味では、戦争は回避せねばならないものだ。それでも、人間には譲れないものがある。それが戦争という行為に拍車をかけるのだろう」
参謀たちに聞こえるように、指揮官は呟いている。
「また始まったよ、中将の叙情詩……」
「ポエムって言うんだっけか? 中将も飽きないな……」
「文学作品が友達だからな……」
参謀たちは小声で話す。詩的な言葉を紡ぐ指揮官は、ある意味で少年の心を忘れてないのだろう。
そんなことをしている間に、とある場所で重要な会議が催されようとしていた。
スウェーデン、ストックホルム。ここに、七ヶ国の軍事関係者と外務関係者が集結していた。
日本、アメリカ、イギリス、フランス亡命政権、ソ連、ロシア、イタリア。
この七ヶ国による軍事外交会談、ストックホルム会議が行われる。
この会談によって、日本と新生ロシア帝国とイタリアは、ドイツと敵対することを確認した上で、連合国入りを許された。
現在の世界の情勢は、日米英仏ソ露伊と独に分かれた状態である。厳密に言えば、ドイツにはオルレアン・フランスとフランコ体制下スペインに傀儡ポーランドがいるが、連合国にはさしたる影響を与えないだろう。
「ようやく我が帝国が連合国に戻れましたな」
「あぁ。国際連盟から脱退して六年か。多くの困難があった……」
外交代表団の大使は、感動のあまり泣き出しそうになっていた。
それを見た軍事代表団の一人である陸軍省の中佐は、唾を吐きそうな顔をしていた。
「ケッ、これだから外務省の連中は……。あんなに意見が合わないから国際連盟から脱退したのによ……」
それを海軍省の中佐がなだめる。
「仕方ないじゃないか。最善の選択でも、完璧な選択ではないからな」
「もとはと言えば、貴様のところの軍縮要求がおかしかったからではないかっ」
そういって陸軍中佐は、海軍中佐の首を掴もうとしていた。それを部下たちが止める。
とにもかくにも、日本は晴れて連合国入りをし、ドイツと決別した。
この選択が、この世界の歴史を大きく変えていくことになる。




