第105話 バトル・オブ・ブリテン
一九三九年一月二十六日。
ドイツは、新型戦艦であるベルリン級戦艦を二隻完成させた。一番艦「ベルリン」と二番艦「ハンブルク」である。全長二九〇メートル。排水量八万八千トン。主砲の口径は公称三十八センチ、実際は四十二センチだ。
ヒトラーも参列し、盛大な竣工式が行われる。その様子は、進水式より規模が大きかった。
「これでイギリスも簡単には手を出せまい……」
式典が終わったヒトラーは、不敵な笑みを浮かべながら言う。
「はい。ベルリン級戦艦が世界中に知れ渡れば、列強各国は恐れおののくでしょう」
ゲッベルスはヒトラーに同意する。
「やはり巨大な物はいい。それだけで、全てが無に帰すのだからな」
そういって壁に掛かっている、様々な写真やスケッチを見る。そこには、超巨大戦車ラーテ、八〇センチ列車砲など、ヒトラーが考える巨大な兵器が飾ってあった。
「話は変わるが、イギリス攻撃の手立てはできているのかね?」
「えぇ、もちろんです」
ゲッベルスの後ろにいたゲーリングが答える。
「我が国にある航空基地はもちろん、海峡付近に点在するオルレアン・フランスの空軍基地も復旧して、今は攻撃の命令を待っています」
「仮に、今命令を下したとして、イギリス本土を爆撃するのにどのくらいかかる?」
「十二時間以内には可能です」
「よろしい。ならば攻撃だ。イギリス本土を爆撃する『レーベン作戦』を実行に移せ」
「はっ! 攻撃命令だ、すぐに行け!」
ゲーリングは、後ろにいた部下に指示を出す。部下は直ちに執務室を出て、無線通信所へと向かった。そして特定の周波数に合わせ、無線通信をする。
『「レーベン作戦」の下命が下った! 直ちに爆撃機を上げろ!』
この命令を聞いた基地司令官は、すぐに爆撃機を出撃させるように命令する。基地中に攻撃開始のサインであるサイレンが鳴り響き、次々と爆撃機が出撃していく。
爆撃機の編成はごちゃ混ぜで、Do17、Do217、Ju87、He111などが発進していく。その護衛として、いつものBf109やFw190が一緒に上がっていく。
しかし、当のイギリスは、これに対して指を咥えて見ているわけではなかった。すでに実用化し、実戦配備されている早期警戒レーダーを使って、ドイツの爆撃機の大編隊を確認している。
『敵の大編隊を確認! 地上待機している要撃機は直ちに発進せよ!』
イギリス南部、イギリス海峡やドーバー海峡付近にある航空基地では、大量のスピットファイアが駐留しており、これらが一斉に発進していく。
バトル・オブ・ブリテンの開幕である。
バトル・オブ・ブリテンにあたり、迎撃に使われるスピットファイアのほぼ全てをチューンアップさせ、機体性能の向上を図っていた。エンジン出力は約二割増しになり、上昇性能、最高速度、限界高度を底上げすることに成功した。
そんなスピットファイアがドイツ空軍を迎撃する。最高速度が上昇するということは、それだけ敵からの攻撃を受けにくくなると言うことである。さらに、敵に対して優位に動くこともできるため、ドイツ機を容易に撃ち落とすことができた。
『コイツぁいい! 敵機が紙屑のように墜ちていくぜ!』
しかし、ドイツ空軍もやられっぱなしではない。数的には有利であるドイツは、数の暴力でごり押しを敢行。イギリス南部の港や都市を爆撃する。
『戦闘機は後回しだ! 爆撃機を狙え!』
こうして、イギリスの空は混沌に満ちていくことになる。
それと並行して、ヒトラーはある作戦を実行に移させていた。
「バイルシュタイン作戦が始まるな」
「えぇ、そうですね」
ヒトラーの前には、海軍総司令官が立っていた。
「しかし、この編成で本当に問題ないのかね?」
「私の見立てでは、問題ないかと。それに、戦艦は戦うために建造されたものです。いつまでも港に停泊させておくものではありません」
「うむ……。その通りだな」
同時刻。ドーバー海峡と北海の境目に位置するラムズゲート。レーベン作戦で爆撃範囲に入っていない都市だ。
一見平穏に見えるラムズゲートだが、次の瞬間には街中で大爆発が発生する。
沖合のほうを見れば、水平線の近くで光る何かが見えるだろう。
ビスマルク級戦艦二隻、プリンツ・オイゲン、護衛としてZ5型駆逐艦二隻の合計五隻からなる艦隊だ。この艦隊は通称としてバイルシュタイン艦隊と呼ばれている。
バイルシュタイン作戦とは、イギリスの通商破壊作戦であると共に、沿岸部に位置する都市を艦砲射撃する破壊作戦でもあるのだ。
今回の艦砲射撃により、ラムズゲートの近くにあった空港兼空軍基地が一部破壊された。
この一報を聞いたチャーチル首相は、激怒する。
「仮にも海軍大国であるイギリスが、ナチスの海軍にやられてたまるものか! 海軍は今すぐナチスの艦隊を沈めてこい!」
こうして海軍は、全力でバイルシュタイン艦隊の要撃に当たることとなった。