そのヒロインはめちゃくちゃ可愛いのに、攻略対象者に容赦ない・エリカ編
「ヒロインの計略〜pv10000記念」のはずが、今日で20000記念になりそうです。
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「殿下ったら、またミラを揶揄ってるわ」
本日はれて婚約が成立した、愛しの幼馴染み、ティモンの口にソーセージを運びながら、私は小さく溜め息をついた。
この国の第三王子であるジェフリー殿下の向かいに、少し斜めに座って顔を合わせないように工夫して座っている男爵令嬢ミランダ・トバス。その背中がピンっと伸びて、固まったように動かない。
王族専用ルーム……要は単なる休憩室よね……は無駄に広い。だからソファに座っている私達からは殿下専用のデスクはちょっと見えづらいが、どうも殿下がお弁当の中身をミランダに「あ〜ん」とやっているような感じなのだ。
あら。私もティモンにしているわ。
殿下ったら、真似したわね。ミラのことだから、うっかり「羨ましい」とか言ったんじゃない? でもそうしたら、私のせいね。ごめん、ミラ。
「まったく、あの人にも困ったものよね。私如きがどうこう言えることではないってわかってるけど、ミラに同情しちゃう。あんなに優しくて周囲のために頑張る良い子なのに、まさか殿下に目をつけられちゃうなんて」
私なら無理。
だって、何を考えているのかわからない人だから。
「ただ、奴らよりもずっと、殿下の方がミラをあげる相手としてはマシだから、いいけど……」
平民の私は、成績優秀だったゆえ、奨学金ありの特待生として、王立学院に進学した。
そこで待っていたのは、幼い頃の初恋相手だったティモンとの再会と……何か気持ち悪いくらいのモテ期だった。
自分で言うのもなんだけど、元々学院に入る前からモテてはいたのよ。だって、私、顔はとってもいいんだもの。
手入れ知らずなのに真っ白ですべすべの肌。どんなに冷たいお水でお仕事していても不思議と荒れ知らず。両親は私の肌がドラゴン並みに頑丈だと言っていたわ。モルガナイトのようと言われる薄桃色の瞳。唇はさくらんぼじゃないかというくらいツヤッツヤプルップル。紫がかった薄ピンクの髪の毛はふわっふわのつやっつや。
これでモテなきゃ、おかしいでしょ。
だが私は、この容姿ゆえ、学院内で恐ろしいくらい空気の読めないしつこい男どもにモテてしまって……。
村にいたときはそこまで迷惑かけてくる人はいなかったんだけどな。
私が一度でもあなた達と付き合いたいそぶりを見せたっけ? 愛想良くしたっけ?
見せてないよね!
これっぽっちも!
平民の私からしたら思い切り不敬な態度だけど、でも、あの人達に対して愛想良くするとか無理だし!
まぁ最初は断るにしても礼儀正しくしていたと思う。だけど、あまりのしつこさに、ミラが私が嫌がっていることを察してくれて、庇ってくれるようになったのだ。それなりに上位貴族ゆえ、私への傍迷惑なアプローチを咎める者があまりいない彼等に対し、ミラは多分本人無自覚で、ばっさり彼らを切り捨てている。そうしたら、私だって彼らに対して怒りがわく。ミラが頑張ってくれているのだから、私も彼らに礼儀正しくするのをやめた。
嫌ってほしかったし。
ただ彼らは、しつこかった。
途中から、私の異変(?)に気づいたティモンが私達を庇おうとしていることに殿下が気づいた。そして、毎回ではないけれど、時々私とミラを助けてくれている。殿下とはクラスが違うしね。そうそう会わないのよ。
そこは感謝してはいる。殿下より高位の貴族はいないから。
だが、そのせいで、一部の人達の間で、私が殿下のお気に入りだと思われたようだ。
ところが実際はそうじゃない。
ティモンによると、殿下はミラ狙いだった。
殿下にはまだ婚約者がいない。その理由は、彼の年の離れた兄である王太子が、婚約破棄をしたせいだ。これに懲りた陛下は、第三王子の彼には自由に恋愛をさせてやろうとなったらしい。
だから、肉食系女子にはめちゃくちゃモテるのだが……ミラは全く興味無し。婚約者探しをしているくせに、多分、彼女の中で、この王子は別枠なのだろう。よ〜く観察していると、殿下のお気に入りはミラかもしれないとわかる程度には、殿下も好意を隠さなくなっているというのに……だ。
殿下がそうし始めたのには理由がある。実は最近、私に付きまとう彼らの中に、ミラの良さに気づく奴が出てきたからなのだ。まぁよく見れば、菫色の瞳に優しい金の髪、知的な感じがするミラは、目立たないけど美人系だし。勿論、クラスメート達は授業が進まない一部の迷惑教師や高位貴族のクラスメートを嗜めて授業を進めるよう促してくれるミラが大好きだ。ただうちのクラス、まともな男子はみんな愛する婚約者持ちだったのよね。
とにかく本人は無自覚だが、ミラはクラスの人気者で。そうしたら最近、伯爵令息とか私に冷たくされるとミラに縋るような視線を向けるようになったのだ。やめろ。気持ち悪い。
教師もあやしい。ダメな子ほど可愛いかもしれない、なんて思っていることもあるかもしれないが、ミラは成績良いから! 自分の授業の時だけわからないという態度をとってくるミラに、自分に構われたいからなんて誤解できるなんて、頭沸騰してる?
やめて、ミラが汚れたらどうするの。
ということで、そんな気持ち悪い奴らよりも、殿下の方がマシかな、と思うし、殿下も最近の彼らの態度の変化に気付いたようだ。一見私に構っているようで、実はミラも自分の庇護下であると、アピールするようになった。
しつこいけれど、ミラは全く気づいてない。
「殿下はミランダ嬢が可愛くて仕方ないようだ。早く卒業式が来ないかと、カウントダウンカレンダーを作っているぐらいだからなぁ」
卒業式。その後の記念パーティーでは、婚約者と踊るんだものね。殿下はミラを、卒業生全員の前でダンスに誘うらしい。在校生も出席するパーティーで、婚約者がいない者が、同じく婚約者がいない異性を探す場でもあるのだ。
それって、ミラに逃げられないようにするためよね?
「うわ。ドン引きしちゃう。カレンダーのことは絶対ミラには秘密よ」
「殿下が隠してるし、そもそもミランダ嬢は、殿下のことなど興味ないだろう?」
「ええ。これっぽっちも恋愛対象だと思っていないわ。それどころか、関わりたくないと思っているのがすっごいオーラになって出てると思うけど、あれでよく殿下はめげないわね」
「開き直っただけだろう。最初は結構落ち込んでいたが」
「全くそんな風には見えなかったわ」
「王族だからな。本心を悟らせないようにする訓練は幼い頃よりされている」
なるほど。
あ。
ミラ、殿下の差し出した何かを食べたようね。めっちゃ震えてるわ。
さらに。
……やると思った! 殿下がミラのサンドイッチを指さして、今度は自分の口を開けてる。
うわ〜……ミラの泣きそうな顔が想像できちゃう。
この後は何をするつもりかしら。
私は小さく溜め息をついた。
でもね。
多分ミラは幸せになれるわ。私の勘だけど。
「ミラの家には内密に打診しているの?
」
「ああ。殿下は公爵位を賜って、トバス家に婿入り予定だ」
「婿……あの殿下が男爵家にねぇ」
ミラへの愛情が見えて、少しだけ感動する。成績優秀な彼は、公爵家にも侯爵家にも婿入りできる立場の人なのに。
私はティモンに微笑んだ。
「私は幸せ者ね。こうして初恋を実らせることができたし、親友も幸せになれそうだし」
初恋、という言葉に、ティモンの頬がほんのり赤くなる。
騎士として、立派になった幼馴染み。
貴族の父親を持つとはいえ妾の息子だったため、たくさんの苦労を知っている。
再会して、王族の後ろ盾を得て婚約できるなんて、夢のような話だった。私自身が、無理矢理誰かの妾になる可能性だってあったのだから。
「おい、ミランダ嬢、倒れたっぽいぞ」
「え⁈ やだ、大変! 殿下が大喜びでお姫様抱っこして保健室へ行っちゃうわ! それは阻止しないと!」
昼休みだし、きっと目撃者多数よね。
さすがにそんなことが噂が立ったら、ミラが登校拒否になってしまうかもしれない。
私は慌てて立ち上がる。
「こっちは片付けておくから」
お弁当を指さして笑うティモンの頬に、私は軽くキスをする。
そして。
殿下の企みを阻止すべく、ミラの元へ駆け寄るのだった。
ちなみに第三王子も攻略対象者でした。