表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

笑う子供

作者: 上司 幾太

 「えりちゃん、いい笑顔だ」とお父さんは嬉しそうに満開の桜の木の下でカメラのシャッターを切った。

今日から私は小学生、新しい生活を明日から迎える。周りには入学式を終えた同じ年の子供たちが両親に手を引かれて、家路へと向かっていく。

「いつも寂しい思いをさせてごめんな」とお父さんは申し訳なさそうに私の頭に手をのせて謝った。

「うんうん、大丈夫だよ」「お父さんは私の為にお仕事してくれてるんだもの。寂しくなんかないよ!」と私はお父さんに強がってみせた。


 生まれてから私はお母さんの記憶が無い、お母さんは私が生まれてから、すぐに病気で亡くなってしまったと幼稚園のときにお父さんに聞かされていた。お父さんは毎日仕事で忙しく、家に帰るのもいつも私が寝ている頃だった。


朝目覚めるとお父さんはもう、仕事に出かけていて、私のお弁当だけが机の上にいつも置かれていた。

朝はいつも食べずに出かけて、夜はお父さんが冷蔵庫に作ってあるご飯を電子レンジで温めて食べていた。

毎日が物凄く寂しかったけれど、夜のおトイレに行くときに、翌日の私のご飯を用意してるお父さんの姿を見て、私はわがままを言うことなんて出来なかった。


 そんなこともあって、私はよく笑うようになりました。

お父さんに心配をかけないように、周りに心配をかけないようにと。

友達と遊ぶことは何度もあったけど、どうしても上手に距離を縮めることが出来ませんでした。

いつも笑っていたので、口には出さなかったけど、周りの友達はどこか、やりづらそうにしていました。


そうして、月日が過ぎて、中学生、高校生と大人に近づくにつれて、不思議なことに私と似た人が増えていきました。

小学生のときはあんなに気味悪がられていた、作り笑いを私以外の人達もたくさんするようになっていたからです。


学校生活で徐々にみんなは本当の性格を隠していきます。

自分の本心を悟られないように、見透かされないようにと。


社会人になった頃には周りはみんな私と同じでした。

毎日、作り笑いで日々を乗り切っています。


仕事がいつもより遅くなり、綺麗な冬の星空を見ながら家路を歩いていると「今日は遅いな」と後ろからお父さんが声を掛けてきました。

「お父さんこそ・・・」と私が言うと「父さんはいつもだからな・・・」と私に笑いかけます。


「久しぶりに父さんの料理食べるか?」と俯いて照れ臭そうにお父さんが言います。「私も手伝うよ」と私は笑顔で答えました。

今この瞬間だけの二人の笑顔は決して作り笑いではないと私はそのことが嬉しくてたまらず、お父さんの冷たい手をそっと握りました。

「今日は星が綺麗だな」と空を見上げるお父さんはどこか泣いているように見えました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ