カナチョロと私
●カナチョロ(カナヘビ)
その頃はカナチョロとニホントカゲの区別がつかなかった。
なので、小さなトカゲの事は全部まとめて「カナチョロ」と呼んでいた。
今は、顔の口吻が短く身体ががっしりしていて、剛体が太く尻尾が普通なのがニホントカゲ。
スレンダーで垂直移動もお手の物で里山に居るのがカナヘビと一応の区別はつくようになった。
「カナチョロ」は方言なのだろうか。意味が通じる人と通じない人が居るので、地域的な言い方のようだ。
2歳か3歳の時には、誰かがくれた園芸用のスコップをいつも片手に持って猫母と散歩をして、石垣の隙間に隠れたカナチョロを、「出てこないかね~」と、石垣の前に座り込んでいた記憶がある。
ある日、捕まえた時に尻尾を掴んでしまい、カナチョロが「自切」をしてしまい、逃がしたことがあった。切れた後、しばらく動いていたのが驚きだった。
その後調べたら、後ろ足から少し下がった場所に「自切」用に窪みの入った場所を見つけて、これが切れやすくなるんだ。と捕まえる時には腹を持つようにした。
たまに、尻尾が青緑の美しいカナチョロを見たが、それはニホントカゲの幼体である。
この文章を書くまでは、尻尾を自切して再び生えてきた尻尾なのだと思っていた。
ちなみに私は産まれたばかりの時に、小指の第一関節を右手側を切られている。呪術の道具にでもしたのだろう。なので、2歳の時には傷口は跡かたもなかったが、小指の爪は凄く小さく指も短かった。
小学生の頃には爪も少し大きくなり指も長くなったので、カナチョロの尻尾と自分の再生能力を重ねて興味を持ったものだ。
今の中年になっては、小指の長さはほぼ同じで、爪は少々小さいが、「深爪をした」と言えば、「そう」で終わるくらいに普通になっている。
◆
カナチョロの卵を四つ見つけた。
夏頃だったか。石の影のコケの上に卵があった。
持ち帰り、孵化を待つ。
濡れたスポンジの上に乗せ、一日に数回、上から水滴を落として乾かないようにした。
高さは1センチの楕円形だった。少し力を加えると殻が歪んでしまう。鳥類と両生類の真ん中の卵の印象だった。
もしかしたら、蛇の卵かも知れない。とも思ってはいたが、それならそれで育てて見ようと思っていた。
孵化までの時間が長かったが、有精卵であるという確信はあった。
それは、卵自体が大きくなるのだ。
水分で膨張するのかも知れないが、30日ほどかかっただろうか。
小さい卵は早く羽化する印象があったので、凄く意外に感じた。
そして、ある日、殻を破って生れて来た。
数センチほどの黒っぽい身体である。同じくらいにコオロギの卵を孵化させていたので、幼体のコオロギが良い餌になった。
小さな身体でよく食べた。成体は、3日に一度虫を与えれば良かったが、(カナチョロの水槽でコオロギを飼っていた)
幼体のカナチョロは、自分の口に入れば、少し大きかったかな?と思うコオロギやダンゴムシでも食べた。
カナチョロの生体と幼体は別に飼育していたが、幼体の方の水槽にカビが生えたので洗おうとしたら子供のカナチョロが逃げてしまった。
「あっ!」と声を出す間もなく、猫母がシュタッ!トン。シュタッ!って感じで四匹全てを食べてしまった。
少し残念ではあったが、猫母に「美味しかった?」と心を流すと「面白かった」的な感情が流れて来た。
猫母にとっては、良い遊びだったようだ。
「そーかー。生き物は結局、食べるか食べられるかだな」
と妙に悟り、カナヘビを小さな水槽で飼っていることが申し訳なく思い、家の裏手の生垣に成体のカナチョロも放した。
そんなカナチョロの想い出。