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獣と私  作者: くろたえ
5/9

モグラと私

●モグラ。

猫母との遊びにモグラ捕りがあった。

モグラ穴の前で静かに立つ。猫母は近くでレーダーの役目をしてくれている。

地表近くの穴を進んでいる時には私もその存在を知ることが出来たが、深い穴ではそれも出来ない。

その役を猫母がやってくれた。

 静かに佇む二人。

猫母に緊張が走る。どうやらモグラの存在をチャッチしたようだ。

猫母の頭の向きでモグラの移動が分かる。そして、バッと毛を逆立てた瞬間に私がモグラ穴に手を入れてモグラを鷲掴みにするのだ。

その勝率は、猫母と別れる9歳になる頃には1/2までになっていた。

 捕ったモグラを猫母に見せると、「良し」という顔をした。

食べる?と考えると、「お前にあげる」と伝わったが、もちろん食べることもなく、そのまま逃がしてやった。

 初めて捕まえた時はテンションも上がって、捕まえたモグラを逃がすのが惜しいと感じてしまった。

ビロードのような柔らかな被毛に、つぶらな小さい黒い目がとても可愛かったのだ。

段ボール箱に入れて、捕まえて来たカブトムシの幼虫を食べさせたりしていた。

捕まえた幼虫はぷりぷりに太った大きなので二匹だ。

食事はモグラの身体の大きさを考えると十分な気がしたが、数時間後に見ると、段ボールの角をせわしなく移動していたのが緩慢になり、動かなくなってしまった。

身体も微妙に変化している。皮が伸びているのだ。

 そうして、初めて捕まえたモグラは、手にしてから4,5時間ほどで餓死をしてしまった。

泣きながら土に埋めたが、皮は伸び伸びで、それだけ身体が細くなってしまった事が考えられた。

その後調べたら小さな哺乳類は、常に食べ物を摂取していないと、身体の発する熱量に追いつかずに餓死してしまうそうだ。それを防ぐには、食べ続けるか寝るか仮死状態になるかしかないが、仮死状態は自分の意志でできるものでもなく、寝ることも捕まったばかりでは出来なかったのだろう。

 それ以来は、猫母とモグラ捕りで遊んでは、直ぐに放してやるようにしていた。

もちろん、猫母のお腹の調子ではお口にINすることも少しはあった。

しかし猫母にとっては、私の狩りの練習だったので、私の手柄を横取りする気はなかったようで、食べることも稀だった。

 

 柔らかな被毛の手触りと共に、少し苦い思い出のモグラであった。


◆10年ほど前の事だ。

その時付き合っている彼氏との毎年の行事があった。

それは、9月の第1週目の日曜日に早朝で、仕事場兼住居のある都会から田んぼの在る田舎に行くことだった。

到着が5時くらいか。

まだ朝もやの薄暗がりの中の彼岸花を一人で満喫できるのが嬉しかった。

夜明け前の青紫の空。朝もやに覆われた世界に彼岸花。そんな幽玄な時間だった。

 私が彼岸花を楽しんだ後は、彼氏の時間。

彼は淡水魚が好きで水槽を二つ持っていた。その魚を捕獲に行くのだ。

車からバケツと網を二人で持って、田んぼの用水路や側溝をさらっていく。

影になった場所、草の居茂った場所、用水路の壁際などに狙いを定めては網を入れた。

用水路では二手に分かれて、私が網の棒の方でガサガサと水をかき混ぜながら彼氏の方に行く。要は追い込み漁だ。

 捕れた魚は、タモロコにヨシノボリ、細いドジョウにカダヤシ、フナにコイ。だろうか。

辺りが明るくなってくると人も多くなる。ジョギングの人、散歩の人。部活動の朝練で2列になり走っていく。

 30過ぎの男女が網を持ってキャッキャしているのだ。少し人に見られて恥ずかしくもあったが、彼氏が魚が取れると嬉しそうなので一緒に楽しむことにしていた。

ヨシノボリは水が変わると直ぐに死んでしまう。フナやコイは少し大柄だと水の変化にも強いので安心をした。以外にもタモロコのような小魚の生命力が強かった事だ。

 家の水槽に入れても、すぐに影から出て泳ぎ回り人口のエサを食べまくった。

フナなどは警戒心が強すぎてエサも食べずに弱って死んでしまう事もあった。

季節は「水枯れる」の前後だったので、数日後には田んぼの水を抜いてしまう直前だったので、持ち帰った魚は命を長らえたのだ。と思う事にしていた。(死んでしまうのも多くいたので)

 

 そんなある年に同じように魚を捕獲しようと歩いていたら、水のかれた側溝に黒い塊があった。

近付くと、すごい勢いで逃げていくが、側溝は登れないようだ。

それはモグラだった。急いで網で捕まえた。

彼氏に見せる。

「触ってみる?触り心地いよ。噛まれるかもしれないけれど」

彼は、黙ってNOと首をフルフルした。

ならば、と田んぼに放すと、モグラは急いで穴を掘りだし10秒ほどで身体を隠してどこかに行ってしまった。

「凄く早かったね!」

と少し興奮気味に言っていたが、たぶん、もう少し遅ければ死んでいただろうな。と思っていた。

 身体の大きさの同じくらいのハムスターが側溝くらいの高さの壁をよじ登ることが出来るのに、同じくらいの同じげっ歯類のモグラが出来ないのはなんでかな?と思っていたが、後で考えたら身体の構造が違ったのだ。

 ハムスターは穴で暮らすとしても、地上にも出るため足は下側についている。しかし、モグラは真横近くに足が生えているのだ。

横に着いた足では、穴の中を縦横無尽に走り回ることは出来ても、ジャンプなどの上への動きが出来ない。

だから、側溝の中に閉じ込められていたのか。


そんな彼岸花にモグラの想い出。



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― 新着の感想 ―
[一言] もぐら、まだお会いしたことはないのです もぐらとり、すごいですね でもなかなか大変なのですね たくさん食べるか寝るか…… たいへんそうですが一度お会いしたいものです
[一言] モグラ…… 昔、死んでるのを見たことが一度だけあります。 小さくて、かわいらしかったですね。 食べ続けないと死んでしまうとは…… 厳しい!
[良い点] そうなんですよね。モグラは食べ続けないと死んでしまう。知ったときはショックでした。結局、私が触ったのは死んだモグラだけ。触りたいけれど、そんな好奇心でモグラの命を危険にさらすことは心苦しい…
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