猫さまと私
大人になって結婚してから、やっとのことで猫を迎えることが出来るようになった。
賃貸マンションの私の条件は「ペット可」と「風呂トイレ別」だった。
北海道ではペット可の物件は少なく、あっても犬は可。猫ダメが多かった。
落ち着いてくれば、猫の方が建物の破損は少ないと思うのだが?
飼いたい猫は洋猫だったが、出会いがあれば何でも良かった。
保護猫を迎えようと夫と決めていた。そして、黒猫を。と。
イギリスでSNSでのカメラ映りが悪いので黒猫は捨てられ、飼い主も見つかり難いとの情報を得たので、日本でも今後そうなるから、人に忌避される黒猫を迎えようと決めた。
そんな時に見付けた。
保護猫の里親探しので、黒くてフワフワの雄の子猫。目がキョトンとしている。子熊やフクロウに似たまん丸の目だった。
日付は1カ月半前になっていた。
それはそうだ。エイズの陽性とある。誰も病気の爆弾を抱えている猫を飼いたくはないだろう。
多頭飼いなら、だからこそ避けたい猫だ。他の猫に病気が移ってしまう。
その子に決めた。
この子を看取ろう。直ぐにエイズを発症するわけではないから、その間はストレスなく我が家で可愛がろう。私のお願いを主人は聞いてくれた。
猫がやってきた。
生後5カ月になっていたが、もっと大きな猫に思えた。
ワクチンを病院で打ってもらうと、「大きくなる子だね」先生が言ったが、その通りの大きな猫になった。
生後6か月での去勢手術の際に、検査をしたらエイズは陰性になっていた。母猫がエイズだったのだろう。ボランティアの猫を連れてきてくれた人にも連絡をして、二人で喜びで泣いた。
オスの子猫は直ぐに夫に懐いた。
夫の抱っこは何時間でもじっとしていて、私達の食事時には、自分も食べる!と慌てて器に行った。拾った人が男性で、胡坐の中に子猫を入れて一緒に食事をしていたのではないか。ご飯を食べるたびに褒めていたのではないだろうか。と推測した。
人への懐き具合は、大事にされていたのだろう。
そのすぐに、メスの猫も来た。
夫がエイズの病気を持つ猫が死んだなら、私の心の平穏が保てないだろうと心配してくれたのだ。
女の子の兄弟姉妹は腸炎で死んでしまったと言うが、わが家に来た子は痩せて臭くて、7か月を過ぎたのに避妊手術がされていない。
おかげで、生後5か月のオス猫が騒いで煩かった。メスに引きずられて興奮してしまったのだ。
慌てて、翌日に病院に行き、避妊手術の予約をする。
メスは神経質で夫を嫌い、棒を怖がった。(クイックルワイパー)
男の人に殴られた経験があるのか。結局、夫には2年近く懐くことは無かった。
オス猫とメス猫は仲良くなかった。
しかし、部屋が幾つかあったので何とかお互いに距離を取れたのだろう。
メスが人も猫も嫌いで、私だけに懐いた。
抱っこをして周りが静かだと、一心不乱にモミモミをする。なぜか右の乳首に執着して、私の右胸は傷だらけだ。
今は夏でも家でパット入りのブラをしている。それでも乳腺の臭いでもあるのか胸に吸い付き爪を立てる。
私は結局、母親になる事を選ばなかったが、それでも母性本能を刺激され、どんなに爪を立てられていても止めることが出来なくなった。
オス猫はメス猫のようなじっとりとした愛情ではなかったが、それでも足の裏に猫じゃらしのオモチャを乗せてくるくらいは懐いてくれていた。抱っこは夫が巧かったが、ご飯あげるのと遊ぶのは私だった。
そして、夫婦の間で二匹とも寝ることを好んだ。
3回もの引っ越しが4年の間にあったのも悪かったのか。
どんどん、二匹の猫の相性が悪くなっていった。
子供の頃は二匹で寝ていたこともあったのに。
二匹で遊んでいたこともあったのに。
その思い出に縋って、最悪の結末を迎える。
淋しがりの二匹は、二匹とも夫婦二人の愛情を自分だけに求め、そして心が壊れてしまったのかも知れない。
メス猫は、私が1カ月半の入院をしてから、私の姿が見えないと大声で叫ぶようになった。
オス猫は、メス猫に付きっきりになる私を憎んだのだろうか。
ある日、私の目を傷つけた。
片目の夫は怒り狂った。殺すと言いきった。あんなに可愛がっていたのに。
私は2時間血の涙を流し続け、里親の登録を済ませて、その後1週間後に里親が引き取りに来た。
もう4か月経とうとしている。瞳に着いた傷は消えた。下瞼の傷跡は残っている。
引き取られてから10日後に里親先でソファーで寝転び撫でられている写真を貰う。
私は泣いた。でも意味はない。
写真を撫ぜた。
愛しています。幸せになって下さい。
メス猫は、毎日、私達に愛していると言ってくれる。
「薄情だね。お前は友達を忘れたのかい?」
いや、薄情は捨てた私だね。
メス猫は何も言わずに、ただ、「私を愛して」と言ってくる。
私はそれに「愛している」と応える。
この猫の愛情は湿度が高い。そして頭がいい。
夫が言った。
「この猫は呪う猫だよ。情が深すぎる。
ちゃんと看取ってやらないといけない猫だよ」
だから、他の猫を拒絶したのかい?
今日も私の可愛いストーカーは、自分だけを見てと私に訴える。