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電気オタクと錬金術  作者: 御手洗 千加志
一章
8/50

1-8 再就職

「ただいま。」


『 ケイ!!遅いよ!!』

扉を開けるとアルメルが膨れっ面ですっ飛んできた。


『よかったわ。私は何かあったかと思って気が気じゃ無かったわよ。』と言ってメルアさんは胸に手を当てた。


『もう少し遅ければ探しに行くところでしたよ。』

クロメルがジロリと僕の方を見ながら言った。


僕は薪でいっぱいになったカゴをおろしながら「ごめん」と謝って、森であったことを彼女らに報告した。

もちろん例の()()()のことも。


『電気・・・ですか?』

博識そうなクロメルが首を傾げた。


『電気ってあの乾燥している時にパチっとくるやつ?』とアルメル。


正直、そうじゃないかとは思っていた。

柔らかな光が揺らぐオイルランプに目をやりながら、僕は考えを巡らした。

日が暮れてから街に帰る際に、いわゆる白熱電球を使用した街灯がなかったこと、調理には薪や木炭などの固形燃料を使用していたこと、盗人たちが自分の身に起こったことを全く理解できなかったことなど、その他の電気的技術が一切見当たらなかったことも含め、この世界ではまだ発見されていない概念なのではないかと薄々気づいてはいた。


つまり、彼女たちにとっての"電気"とは、僕らが言うところの"静電気"のことでしかなかったのだ。



例えば、エジソンが発明したガラス球とフィラメントを使った電球を、僕がこれから発明した日には、その名はこの世界に轟くだろう。

もっとも、僕の生まれた時代においては当然のように存在するものであったからそんなノウハウは持ち合わせていないので土台不可能な話ではあるが。


「アルメル、何とかしてこれくらいの長さの金属製の紐、つまり針金みたいなものを用意出来ないかな?」

僕は両手で30センチくらいの幅を表した。


『針金?作れるよ?おばあちゃん、ちょっと鍋借りるね。』

そう言って台所から鉄製の大きな鍋を引っ張り出してきた。

鍋の表層の部分を使って錬金術でアルメルは直径1ミリ弱の針金を錬成した。


僕は彼女から針金を受け取ると「見てて。」と言って針金の両端を親指と人差し指でつまんで、例の()()()を使った。

すると鉄製の針金は一瞬で真紅に光り輝き、溶け落ちた。


「あっちィ!」

僕は指を軽く火傷した。


『えーっ!?何今の!?』とアルメルは驚いた。


『なんですか、それはどういう原理ですか、私たちにもわかるように説明してください!』とクロメルは早口でまくし立てた。


これはジュール熱という現象で、電流が物質を通り抜ける時、そこに熱が生じるというもの。

スマートフォンが熱くなったりするのも、このジュール熱のためである。


「君らが言うところの"電気"は僕らの世界じゃ"静電気"と呼ばれていて、僕が今やったのは言うなれば"動電気"に類するものなんだ。それは陽極から陰極へと流れていく性質があるエネルギーで、金属には特に流れやすい。そして、その通り道に熱が生じるんだ。だからこの鉄はその熱で真っ赤になって焼け落ちたというわけ。」と、我ながら理解されそうも無い説明をした。


そこからはもう質問攻めの嵐だった。

この双子は錬金術の道では最先端をゆくような姉妹なのだから、いわゆる科学者的な知的好奇心の化け物なのだ。

性格は違えど、気になることがあればとことん追求できる素養を二人とも備えていた。


『でもさ、そんなの錬金術ではないよね?クロメル。』


『そうですね。分解と構築の行程がありませんし、単純に体の一部からその得体のしれないものを流し込んでいるだけと言いますか・・・』


『あたし達はエナを分解と構築のために使っているけど、ケイはエナをそのよく分からないエネルギーに変換して放出してるってことなのかな?』


『その見方はかなり的を射ていそうですね。でも、この鉄を溶かしてしまうほどの恐ろしい力を使っているケイ本人には何も害は無いのでしょうか?』


「今のところは大丈夫かな。」

そこは僕も気になっているところだった。

先刻、針金を溶断させた時も鉄が熱くなったから多少指を火傷しはしたが、それ以外に苦痛を伴うわけではなかったし、いくら僕が電源の役割を果たしているとしても、電流はこの身体を巡っているはずで、それこそ森で撃退した盗人達のようにビリビリと感電してしまってもおかしくはなかった。




双子の議論は僕を交えて白熱し、メルアさんがまず『私はもう寝るわね、ごゆっくり。』と欠伸をしながら脱落し、それから少ししてアルメルが『ふぁぁ・・・もうダメ、寝る。』とこぼして電池が切れたように脱落していった。


クロメルはと言うと、もう()()()()()()しまっているようで、まだその目をキラキラか輝かせながら、いつもより数段饒舌な口振りで僕を質問攻めにしていた。


クロメルの質問に答えながら、それにしても少し困ったことになったと思った。


この世界でいう一般人と同じように錬金術を扱えるようになって、とりあえずなんでもいいから職に就く予定だったのに、僕が扱えるのは錬金術ではなく電気の力だった。


この世界にもっと電力を頼りどころとした道具や技術が発達していたら、僕はひっぱりだこになったかもしれないが、現実はあの盗人達が僕に恐れを抱いたように、得体の知れない妖術を操る子供としてしか今のところ生きていきようがないことが懸念された。


時計の短針が3を指そうかとしていた頃、さしものクロメルも目が虚ろになってきたので「また明日にしよう」と提案して、僕達は目を擦りながら一緒に木製の階段を上がっていった。


メルアさんが綺麗に片付けて、僕の部屋に仕立ててくれた三畳ほどの広さの納屋でベッドに仰向けになりながら、これからのことを考えたりしたが、特に冴えた案は出てこなかった。

しかし、その問題は次に僕が眠りから目覚めたときにはすでに解決していた。





『おはよ!』『おはようございます。』『おはよう、ケイ。』

階段を下りてきた僕に、先に起きていた三人は挨拶をした。


僕は目をグリグリこすりながら「おはよう。」と返事をしながらいつも座っている木製の椅子に腰を下ろした。


『起きたばかりで申し訳ありませんが、ケイに話があります。』

昨日あんなに夜更かししたのにしゃっきりしているクロメルが言った。


『ねえ、ケイ。あたしたちに雇われない?』

テーブルの反対側からアルメルが身を乗り出して言った。


「は・・・?でも僕は錬金術使えないよ?」


『その代わりにキミはもっとすごい力が使えるじゃない!』とアルメル。


『二級以上の錬金術師には、助手を雇った場合に少しですが助成金が出るんです。』


「でもそういうのって普通、その申請用紙みたいなものに助手が何級術士なのか記入する欄があるように思うんだけど・・・」


『確かにその通りです。ですがケイのように先天的に錬金術があまり発達しない方も非常に稀ですが実際にいらっしゃって、限界錬成質量が500g未満の方は5級術士という等級になります。全く使えないケイもそこに属しています。そして助手の雇用条件に"~級術士以上"という記述はないので、ケイが錬金術を使えないことは問題になりません。』とクロメルが説明した。


『そ!あたしたちはキミのその得体のしれない力のことをもっと間近で見て研究したいし、キミはキミであたしたちと一緒にいたいし、ちゃんと助手の仕事をしてくれたらお給料も出る。一石三鳥だよ!どう?』アルメルはノリノリで言った。


「なんか聞き捨てならない言葉が含まれていた気がするけど、僕にとっては願ってもない話だ。雇われるからには精いっぱいやらせてもらうよ。」


まさに渡りに船だった。

確かにこの能力はこの双子の力を借りれば何かの役に立つかも知れない。

これを僕に与えた全能者(仮)の意図もなにか掴めるかもしれない。


「ところで、多分だけど君たち両方に雇われるみたいなことは、助成金が重複してしまうからできないんだろう?僕は君たちのうちどちらに雇われることになるのかな?」


『あたし!』『私です。』


双子はお互いに向き合って、目線で火花を散らし始めた。


『アルメルはいい加減なところがあるので雇用主には向いていません!』


『なにおー、クロメルだって言い方が厳しいときあるんだから!あんなんじゃ雇用されてる人が嫌になっちゃうよ!』




おいおい。

そこは僕に話をする前に決めとけよ・・・

正直どちらでもよかったので、双子の口喧嘩を横目に、僕はメルアさんが作ってくれた朝食を黙々と口に運んだ。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] 錬金術世界の時計は機械動力なのかな? ゼンマイとか、毎朝重りを載せ替えるとか?
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