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電気オタクと錬金術  作者: 御手洗 千加志
三章
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3-12 にゃんこ


「ターニャ、もしかして君には見えてるのか?」


『にゃはは。よーく見えてるにゃ。』


この世界の拳銃がどれほどの速さで弾丸を発射することが出来るのかは分からないが、明るい場所だったとしてもその速さは人間の目にとまるようなものではない。

あまつさえ、この薄暗さでそれを捕捉することは不可能かと思われたが、ターニャにはそれが見えていた。


犬や猫の眼には"タペタム"という反射組織があり、僅かな光でもそれを何倍にも増幅して視覚情報としてインプットすることが出来る。

それに加えて、猫由来の反射神経と運動神経が備わったターニャは、まさしく人間並の知能を備えた猛獣と比喩するに相応しい。



『勿体ぶってないで抜いたらどうだ?それは飾りか?』

リリィは僕の腰に携えた(つるぎ)を顎で指しながら言った。


「・・・クロメル、アルメル、援護を頼む。」


『わかった!』『 はい!』


「ターニャ、悪いけど君は僕と一緒に前衛役だ。」


『足でまといがにゃに言ってるんだかッ!』


ターニャは僕の意を察して、単身リリィの懐に飛び込んだ。

リリィは一発、二発とターニャに向かって発砲したが、彼女は左右に素早くステップしながらそれらを回避した。


ケイはベルトに装着されたワイヤーの先端にあるスイベルを、剣の柄に備えられた輪にカチャリと引っかけ、もう一組のワイヤーを後方の双子の方へと放り投げた。

僕の腰からはワイヤーが二本出ていて、ひとつは剣の柄へ、もうひとつは双子が握るという格好だ。

準備が整ったケイは剣を鞘から抜き、先程と同じように真っ直ぐリリィに向かっていった。


ターニャは銃弾をかわすのに精一杯だが、それは言い換えれば相手もターニャを制圧するのに手一杯ということだ。

そこに攻撃を加えれば少なからず隙ができるはず。


『それはどうだろうな。』


リリィは自分自身も移動しながら、弾道からターニャの回避する位置を予測し、素早くそこに回り込むとターニャを蹴り飛ばした。


『にゃぁ゛・・・っ!』


「ターニャ!」


『芸がないな。』


そして彼女は向かってくる僕に対して、再び素早く銃口を向けて引き金を引いた。


僕は素早く、剣を縦にしてその銃弾を弾き飛ばした。


『なっ!?』

リリィはとっさに真後ろに距離をとった。


否、実際のところは()()()()()()防いだと言った方が正しかった。

比喩などではなく、実際に剣はその形状を盾に変化させていた。


「観念したらどうだ。あなたがこれから銃弾をこめ直すよりは、さすがに僕が一太刀浴びせる方が速いよ。」

僕は盾を構えたまま、立ち止まって言った。


店の中で銃口を突きつけられた時に、正面から見えた弾倉は左右にふたつずつ。銃身に隠れた中央に位置する弾倉がさらにふたつあるはずなので、装填数は計六発のはず。

店内で一発、アルメルに対して一発、ターニャに対して三発、そして今の一発、つまり彼女のリボルバー式拳銃の残弾はゼロだという論理(ロジック)だ。


『あははは!これは驚いた。案外目敏(めざと)いんだな。だけど残念。』


リリィは再び僕に向けて連続して引き金を引いた。

一発、二発、三発、四発、五発、六発、そして有り得るはずがない7()()()を。

盾に銃弾が命中する度にガン、ガンとずっしりと重たい衝撃が両手に伝わり、ジンジンと腕が痺れる。

衝撃に耐えるため盾の下部が鋭い針のように形状変化し、それを地面に突き立てた。

僕はそのまま姿勢を低くして盾にすっぽり隠れて銃弾を凌ぎきった。


『硬いな。』


「なぜだ!一発も打てるはずはないのに・・・」


『種明かしだ。ゆっくりやってやるよ。』


リリィは空の弾倉を開いてこちらに見せた。

すると、ゆっくりとひとつずつ弾倉が銃弾で満たされていく。

よく見ると、彼女が持っている小さな鞄がぱっくりと口を開けてた状態で、淡い錬成光を放っていた。


「錬金術で鞄の中の銃弾を分解して、弾倉の中に再構築しているのか・・・?」


『正解。アタシにリロードの隙はないってわけ。ところで、新聞で見た情報だとあんたはエナ欠乏症じゃなかったのか?』


「そうだよ。だからこんな回りくどいことをしているのさ。」


錬金術が有効な範囲は、術者からせいぜい一メートル程度だ。

ピエラの地下施設でキマイラを拘束する時に双子がやったように、素材となる物質から空中へ向けて細長く橋をかけるように錬成を行えば多少離れた場所まで錬成範囲は広がる。

しかし、長すぎると重力に負けて根元からポッキリと折れてしまう。

錬金術は単一の物体で最大錬成質量を超えない限り、自由に形を変えられる性質があり、その物体の()()は問われない。


今僕の腰から前後に伸びている二本の銅製ワイヤーは、一本の長いワイヤーをベルトと一緒に一周腰に巻く形で固定している。

そして両端には現在、この剣と双子がそれぞれ繋がっている。

つまり、後方で双子が使った錬金術は金属製のワイヤーを伝って、先端に位置する剣の部分にその効力を現出させることが出来るのだ。


『ははーん。なるほど。後ろの二人の錬金術ってわけね。』


双子をなるべく危険な目に遭わせず、最大限その能力(ちから)の恩恵を得るために考案した武器だった。


(いった)いにゃ・・・ぁ。』


蹴り飛ばされて横になっていたターニャが半身を起こした。

頭を覆っていたフードは蹴りの衝撃でめくれてしまい、ふわふわした耳が(あらわ)になっていた。


『・・・にゃんこ。』

リリィはポツリと呟いた。


「えっ?」


『にゃんこがいる!!』


リリィは拳銃をその場に投げ捨て、まだ身体を起こせないターニャに駆け寄った。

とっさに僕も彼女を庇うために駆け寄ろうとしたが、()()を止めることはできなかった。


『に゛や゛ぁぁぁああ!にゃにするにゃ!!』


『何これ可愛い。可愛いが過ぎる。』


そこにはターニャが動けないのをいいことに、彼女の頭をわしわしと愛でるリリィの姿があった。


「おい・・・」


『しっぽもあるの!?あぁもう可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い。』


(はにゃ)れろにゃ!!にゃっ・・・やめ・・・っ・・・ヘンにゃとこさわるにゃぁっ!!』


「おい!!!」


『なんだ。見てわからんか?取り込み中なんだよ。本当に撃ち殺されたいのか?』


多重人格か?こいつは。

対応に高低差がありすぎる。


『ねえ、ケイ。』

アルメルが後方から近づいてきて、僕の服の裾を引っ張った。

『この人ね、あたしたちの敵になる人じゃないはずなの。どちらかと言えばたぶん味方・・・』


「何を言うんだよ。どうみても僕たちのことを殺そうとしてたじゃないか。」


『リリィ・コックス。私達も会うのは初めてになりますが、名前だけは知っていました。彼女はアドルと同じ一級錬金術士のはずです。』


「はあ!?」


『ていうかお前ら助けろにゃあ!!!』


ターニャは力づくでリリィの一方的な愛情表現的行為を振りほどき、素早く僕の後ろにその身を隠した。



僕はこの時、百合の葉には猫を殺す毒があることをふと思い出していた。

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