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電気オタクと錬金術  作者: 御手洗 千加志
一章
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1-5 自己紹介


『なにをコソコソ話してるの?』


僕がメルアさんと四方山話(よもやまばなし)をしていると、ボールペンでダイアリーをめちゃくちゃにするのに飽きたアルメルが、ずいと距離を詰めてきた。


「いや別に大した話じゃないよ、二人が子供の頃の話を聞いたりしていただけだよ。」


『ちょっとおばあちゃん!ケイにヘンなこと吹き込まないでよ?』とアルメルはにらみを利かせた。


『はいはい、わかりましたよ。お姉ちゃん。』とメルアさんは孫を茶化した。


"アルメルはほんの少し早く生まれただけなのに、妹のクロメルに対して妙にお姉さんぶりたがる"という話を聞いたばかりだったので、僕はクスリと笑ってしまった。

メルアさんと話しているときの感覚は、大好きだった親戚の叔母と話しているときに似ていた。


『なに笑ってるの!あたしたちのことはもういいからキミのことをもっと教えてよ。』とアルメルは僕に向かってムッとした表情を作って言った。


確かにそれもそうだ。

考えてもみれば「君のこと教えてよ」なんて台詞を女性に言われたことは今までなかった。

まあ、それはいいとしよう。

とにかく僕には開示しなければいけない情報がいくつかあったのだった。


「そうだね、何から話そうかな・・・」と僕は切り出した。


「僕は元の世界にいた時、大きな事故にまきこまれておかしな場所に飛ばされてしまったんだ。物凄く暗くて、光の球がただ一つあるだけの場所に。」


それを聞いたアルメルと、ダイアリーに何か書きながら聞き耳を立てていたクロメルは同時に『あっ』という声を上げた。


双子は顔を見合わせると、クロメルは僕に向かってこう言ってきた。


『私たちが子供の頃、一度だけおじい様がお酒を飲みすぎて酩酊状態の時に私たちに話してくれた不思議な話がありました。"黒い部屋と光の球"の話を・・・』


メルアさんは心当たりがないようで、双子の顔を交互に見てとても困惑しているようだった。


「やっぱりそうだったんだね。君たちのおじい様は僕と同じように別の世界からこちらへ連れて来られたんだとみて間違いないと思う。その黒い部屋には、不可能なことはない全知全能的な不思議な存在がいて、そいつの気まぐれに巻き込まれたのが僕や君らのおじい様というわけだ。」


箱庭が云々の話は一応黙っておくことにした。

知っていても気分が悪くなるだけだし、あんなやつに対してこちらからどうこうできるわけがない。

というか、再びあの全能者(仮)と対話をするチャンスがあるかどうかも怪しい。


「信じない?」難しい顔をしている双子に僕は訊ねた。


『信じるよ』『信じます』と双子は同時に答えた。


「そうか、ありがとう。そんな感じで今日の昼に二人と会った森に僕はどこからか飛ばされてきたってわけだ。それともう一つ君たちに伝えておかなきゃならないことがある。」


「僕の本当の年齢は30歳だ。」


クロメルは僕が何を言っているのかわからないような表情をして首をかしげていたが、アルメルはあんぐりと口を開いたまま腑に落ちたように首を縦に振っていた。


『だからあの時、あんなこと言ったのね・・・鏡を見るまでは自分の姿が変わってるなんてわからなかったから!』とアルメルはすべて合点がいった表情で言った。


「その通りだよ。僕は向こうの世界では髭面のおじさんだったんだ。それがあの暗い部屋からこちらに飛ばされたら何故か十年以上若返っていた。」


クロメルが何かおぞましいもの見るような目で僕を見て、恐る恐る口を開いた。


『つまり、見た目は私たちより年下ですが、中身は30歳ということですか?』


「君たちの見た目も今の僕と同じくらいの歳に見えるけどな」という言葉が去来したが同じ轍を踏むだけなのでそれは飲み込んだ。


「そういうことになるね。」と僕は返事をした。


『妙に大人びた子だと思ったよ!まあ私にとっちゃそんなに大差ないけどねぇ。』とメルアさんは呟いた。


確かにメルアさんほど高齢であれば、20も30もそれほど違いはないだろう。

しかし、双子は僕が別世界から来たと告げたとき以上に困惑している様子だった。


『あたし、さっきまでちょっと理屈っぽくて生意気な弟が出来たみたいで嬉しかったのに・・・』


『残念です。』


えっ?えっ?思ってた反応と違う。

残念です?残念ですって言ったのか?

若い女性にとっておじさんというのはそれほどに邪魔な存在なのか。

おじさんになってしまったら、こんな風に思われてしまうというのに、僕は特に浮いた話もなく20代を終えてしまったということがとても愚かに思えた。


自分自身の悲しみをかき消すように僕は「とにかく」と切り出した。


「今話したことは全て事実で、現状僕はこの世界で何をするべきなのかもわからないんだ。でもそれを探すにしても、探さないにしてもこれから生活していかなきゃいけない。つまり生活基盤が必要なんだ。なんというかつまり」


僕がどんな言い方をしようか考えようとした時に、俯きかけた僕の顔を覗き込んでアルメルはその先を言った。


『この家に住みたい?』


「あ、いや、ずっとってわけじゃなくて、せめて僕が自立するまで少しの間というか・・・」


僕が言いよどんだ言葉を若い娘にズバリ言い当てられ、子供の姿でみっともなく言い訳じみた言葉で返事をするおじさんは、僕が客観的に見ても惨めだった。


『いいよ。困ってるんでしょ?あたしもクロメルもキミが困ってそうだったから、ここに連れてきたんだもん。しばらくここに住めばいいと思うけどなあ。』


『いいよね?おばあちゃん。』


銀髪の少女は僕が最も言ってほしいと願う言葉をそのまま口にした。

この時ばかりは、彼女のふんわりした髪の上に輝く光輪が見えてくるようだった。


『本当に行く当てもなさそうだし、あんたたちがいいって言うなら私はいいと思うわよ。』メルアさんはにっこり笑ってそう言った。


とても余裕のない僕は、血走った目ですぐさまクロメルの顔を見た。

僕と目が合った彼女は、焦って左下に目線を外してこう言った。


『私も別にいい・・・・・・・です。』


僕は嬉しさに飛び上がって、感謝の言葉を述べながら深々と頭を下げていた。


こうして、僕はご厚意でクロシル家にお世話になることになった。

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