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電気オタクと錬金術  作者: 御手洗 千加志
三章
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3-10 東奔西走




『おやおや。おふたりとも随分お急ぎの様子ですが、お出かけでございますか?』


ホテル内カフェテラスの一席に座っていたアルフレットは通りがかりの僕たちに声をかけた。


「お、おはようございます、アルフレットさん。ちょっと買い物に行ってきます。」


つい先日こんな丁寧な話し方をした人間が豹変したところを目の当たりにしていたので、そうでないと分かっていても少しだけ身震いをせずにはいられなかった。


『左様でございますか。駆け落ちではなくて安心致しました。』


『かっ、こっ、かけっ、違うよっ!』


鶏冠(とさか)と羽毛の色が反対のニワトリみたいになってしまったアルメルの顔を見て僕は、彼女を引っ張っていた右手をパッと放した。


「変なこと言うのやめてくださいよ。」


『あたしがこんなお子様と駆け落ちなんてするわけないでしょっ!』


「はい?誰がお子様だって?」


『はあ。』


アルフレットの対面に座る黒髪の少女は、紅茶の入ったカップをソーサーの上に置いて深いため息をついた。


『あっ、やばいかも。ケイ、行こっ。』


「おい、こら、走るなよ!」


今度はアルメルが僕の腕を引っ張って、僕をそこから連れ出した。


『ほほほ。青いですなあ。』


『せっかくのティータイムが台無しです。アルフレット様、先程のお話の続きを聞かせてください。』







僕とアルメルは走ったせいで乱れた息を整えながら二人で歩いた。


「なあ、あれってちょっと怒ってるよな?」


『あれはもう爆発寸前だったね・・・』


「爆発するとどうなるんだ?」


『ケイはさ、クロメルの質問スイッチのこと覚えてる?』


「あー、急に饒舌になって質問攻めにされるアレか?」


『そうそれ。怒った時はね、それと同じ手数で正論が飛んでくるの。』


「うわぁ・・・それは敵わないな。ところでなんで怒ってたんだ?」


『え。見ててわからないの?』


「なにがだ?」


『はあ。まあそれはそれでいっか。もうこの話はおしまいっ!』


「なんだよ結局教えてくれないのかよ。」


何が言いたいのかよくわからないが、同じ日に同じ顔に別々に溜息をつかれる僕の身にもなってくれよと思った。


その後、僕とアルメルはアドルが贔屓にしている鋼材店に足を運び、目的の素材を見つけるとホテルまでそれを運んでもらう算段を整えた。

それにしてもこの世界の鋼材店は全く市井(しせい)に溶け込んだ形で存在している。

例えば僕の元いた世界で"鍋"や"フライパン"などの調理器具が欲しいとなればホームセンターや金物屋などに赴き、気に入った形と価格のものを探すことだろう。

一方こちらの世界では錬金術で自由に形を変えられるので、素材そのものを買いに来るだけでいい。

その使い勝手の良さが鋼材店をスーパーマーケット並に身近な存在に押し上げていたのだった。

そして、僕もまたその恩恵を強く受けていた。

本来ならば産出や抽出にコストがかかったりして値が張るような素材もこちらの世界ではそこらの鋼材店で比較的安価に手に入ってしまうのだ。



『ねえ、ケイ。ひとつだけ訊いていいかなぁ?』


「なんだい?」


『これ、あたしが一緒に来る必要あった?』


「あっ。」


言われてみればそうだった。

僕はもうひとりでこの街を歩くことが出来ないほど世間知らずではないし、何度も訪れているから土地勘も多少はある。

ひとりで出かけて、購入した材料をホテルに運ぶ手続きをするくらいのことは難なくできるはずだ。


『あっ。じゃないよもうっ。』


「ごめんごめん、また新しくモノづくりが出来るんだと思って少し舞い上がっちゃってさ。」


『つくるのはあたしだけどね。』

アルメルは上目遣いで僕を睨みつけた。


「た、頼りにしてます・・・」


『あーあ。なんだか歩いたらお腹減っちゃったなぁ・・・あれっ?この美味しそうなバゲットの匂いはもしかして。わあ、こんな所にサンドイッチ屋さんがあるなあ!』


僕をニヤニヤ顔で見る銀髪の少女の姿がそこにはあった。


「あ、うん・・・入ろうか・・・」


『頼りにしてますっ!』



こうして依頼料金の前払いをすることにはなったが、対価としては非常に安いものだ。

僕としてもお願いをきいてもらってばかりでは、(いささ)か決まりが悪い部分もあるのでちょうど良かったところもある。

お腹いっぱいで恵比寿顔になった彼女と、それと引き換えに財布の方が軽くなった僕は、宿泊しているホテルへの帰路へついた。









───三日後





「ボルディア?」


『ああ、ここからずっと西にある酪農が盛んな地域さ。』

ルイスは僕に手短に説明した。


「なんだってそんな場所に行かなきゃならないんだ?」


『例のエヴァンで横流しの片棒を担いでいた石材店から、鉄が輸送されていた場所がそこなのさ。』


『では今度はそこへ足を運んで、横流しされた鉄の行方を探って来いというわけですか。馬車馬働きもいいところですね。』


クロメルは両目を閉じて短く鼻を鳴らした。


『なかなか厳しいお言葉だね・・・僕もそう思うよ。でもこれはクリウス大臣からの直接の命令でね。君たちも今や"公人"のようなものだし、なんとか飲み下してはくれないかな・・・』


『ボルディアって言ったら確か、ワインがおいしいところだよね!』


ルイスが飲み下してほしいと言ったのは錬金術省からの要請のことであり、断じて赤ワインや白ワインのことではないことは自明だった。


『アルメル、遊びにいくのではありませんよ?』


『わかってるよお。』

アルメルは頬袋に空気をためた。


『エヴァンよりも暖かいところにゃらどこだっていいにゃ!』

彼女は耳を伏せながら投げやりに言った。


「どちらにせよもう僕たちは進むしか選択肢がないところまで足を踏み込んでしまっているし、僕たちの目的とも合致する以上応じるしかない、と思うんだけどみんなどうだろう?」


『もう少しだけトリストスに留まりたかったですが、仕方がありませんね。』


『あたしも賛成!』


『わたしはお前らについていくだけだにゃ。』


「決まりだな。ルイス、これまで通りちゃんと向こうへ着いてからの寝泊りは保証されているんだろうな?」


『それはもちろんだよ。これまで通りどころか、そこに関してはむしろ待遇がよくなっていると思う。世間的に支持されている君らを無下にしてしまえば錬金術省がバッシングを受けかねないからね。』



東のエヴァンでひと悶着あったかと思えば、次は西のボルディアへ。

僕たちの旅はまさしく東奔西走と呼んでも差し支えないほど慌ただしいものになりそうだった。


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