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電気オタクと錬金術  作者: 御手洗 千加志
三章
47/50

3-9 アラン・マクマード


────都立刑務所




アラン・マクマード。

彼はトリストスのとある建設会社に勤める青年だった。

僕と双子も居合わせた仕事中に、ある事件を起こして今は服役中の身だ。


彼がなぜ突然狂人のようになってしまったのか、そしてなぜ正気を取り戻したのか。

その解を当時の僕らは持ち合わせていなかったがために、彼にこのような処遇が言い渡されることを許してしまっていた。

今にして考えても見れば、彼はあの時コネクトの影響下にあったに違いないと考え、こうして彼が服役する刑務所まで足を運んでいる。

僕がルイスに根回しを頼んでおいたことで、秘匿事項の調査員として刑務所に入館することは許されていたし、アランとの面会は刑務官の監視なしでおこなうことを許可されていた。


キィと音を立てて面会室の扉は開いた。

アランは面会室に入室するなり、非常にばつの悪そうな表情を浮かべた。


僕は人払いのために面会室の出入り口に自分以外の三人を立たせておくことにした。


「アラン、僕のことを覚えているかい?」


『忘れられるわけないじゃないか・・・あの時は本当にすまなかった。でも、こんなこと君に言うべきじゃないんだけど、俺は本当に何も覚えていないんだ。』


「大丈夫だよ、僕は君からされたことはもう気にしてはいないんだ。今日は君に話を聞くためにここに来た。」


『話?俺が役に立てる事ならなんだって話すよ。』


「ありがとう。それじゃあさっそく本題に入らせてもらうけど、君はモルタルを買いに行くために現場を離れたそうだけど、何か変わったことはあったかな?」


『聴取で何度も答えているけど、それはなかったと思う。』


「そうか。君の記憶にあるのはどのあたりまでなのか覚えている?」


『確か、買い物を済ませて店を出て、現場に向かっている途中あたりまでは覚えているかな・・・それから気が付いたら君と一緒に用水路に落っこちてたよ。』


「なるほど。じゃあもう少し限定的な質問をしよう。背が高い黒髪の女を見かけなかったかい?」


『ちょっと待って・・・今思い出すから。』


それから二、三分ほどの思案ののち、アランは『あっ』と声を上げた。


「何か思い出した?」


『今だから言うけど、実は買い物を済ませた後に、その、なんていうか・・・』


「どこかに寄り道でもしたの?」


『う、うん。現場のすぐ近くに公園があって、そこでほんの少しだけ時間をつぶしたんだ。ほんの五分くらい。』


「はははは!もしかしてサボりか?」


『うん。もうすぐ昼飯の時間だったし、少しだけ時間をつぶしたら現場に戻ってもすぐ休憩に入れるって思って・・・』

彼は決まりが悪そうな表情で頭を掻いた。


「それはわかるなあ。」


僕も前勤めていた会社で、日帰り出張の時は時間調整のために途中で寄り道したりしていたっけ。


『俺は公園のベンチに腰かけていたんだけど、その時に見たかもしれない。』


「顔は見た?」


『ううん。円形のベンチだったから、俺が座るときに後姿が見えただけ。すでに座ってたから本当に身長が高いかもわからないんだけどね。』


「そうか、教えてくれてありがとう。」


『でもなんでそんなこと訊くんだ?』


「多分この中じゃ知ることは出来ないだろうけど、実は君と同じような状態になってしまった人がたくさん出ていてね。僕たちはそれの調査にあたっているんだ。」


『えっ!?どういうこと!?』


「詳しくは教えられないけど、君は多分もう少しで釈放されると思う。外に出たら新聞を読んでみるといい。」


『釈放!?どうなってるんだよ!』


「それもすぐわかる。それと、ここで話したことは他言無用で頼むよ。じゃないと君の刑期が伸びてしまうかもしれないからね。」


『・・・わかった。とにかく俺にとっては朗報だ。』


「いや本当に助かった。ここを出たら一緒に食事でもどうかな?奢るよ。」


『それはぜひお願いしたいね。』


「それじゃあまた。」




面会室を出ると、僕は外で待っていた三人に小さく頷いてその場を後にした。





それにしても英雄効果は甚だしいもので、トリストスの街をちょっと歩いだだけなのに何人かに声をかけられたし、こちらを見ながらひそひそと会話をする人々も散見された。

この世界に写真を撮る技術はなかったし、別に面が割れてしまったわけではなかったのにこの有様だ。

僕とターニャだけではこうはならないと思うのだが、この一目瞭然に悪目立ちする双子と一緒に行動する以上は避けて通れない道のようだ。


この後、アルフレットさんが働くホテルに宿泊し、聴き取りの内容を他の三人にも共有した。

僕にとっては"やはり"という感想でしかなかったが、ターニャはまた少しショックを受けた様子だった。

結果的に言えば、このホテルへは錬金術省から通達があるまでは滞在することになった。


そこで僕はおよそ三ヶ月ぶり、二度目の提案をすることにした。




「新しい武器が欲しい。」


『え、と、なにを急に言いだしたの?』


アルメルはキョトンとした顔で僕を見た。


「僕たちはもう命を狙われる身になったんだからある程度は武装しないと。今まではそんな大っぴらに武器を持つのはどうかと思ってたんだけども、今なら僕も武器を携帯しても用心棒として世間に大義名分が立つと思うんだ。」


『なんか新しいおもちゃが欲しいときの子供みたいな目して、すごい物騒なこと言うんだね・・・』


「頼むよアルメル、君達を護るためでもあるんだ。」


僕は努めて真剣な眼差しで彼女の瞳を見つめた。


『うぅ。そんな見つめないでよ・・・わかったよ、協力するって!ひとつだけだよ?』


「三個欲しい。」


『えーっ!そんなにごちゃごちゃ持ってどうするの。ひとつにしなさいっ!』


久しぶりにアルメルのお姉ちゃん節が顔を出していた。


「実はもうどんなものを作るかは考えてあるんだ。とりあえず成否を判断するのはそれを聞いてからにしてもらえるかな。」


『もぉ・・・しょうがないなあ。』


僕はアルメルにこれから作ってもらう武器のことについて簡潔に説明した。


『なんか随分シンプルだね。このあいだのテーザー銃?とかいうやつに比べてすぐできちゃいそう。』


「よし、そうと決まれば材料集めだ!」


『ちょ、ちょっと、引っ張らないでよぉ!』


僕はアルメルの手を引いて客室を飛び出した。







『んにゃぁ・・・やかましくて、かにゃわんにゃ。ていうかどう見ても一番チョロいのはあいつじゃにゃいか。』


そう独り言ちると、ターニャは短く欠伸をして再び毛布に包まった。



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