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電気オタクと錬金術  作者: 御手洗 千加志
三章
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3-8 英雄の条件



────錬金術省本部 大臣執務室




例によって僕、アルメル、クロメル、ターニャ、ルイスの五人はあのいけ好かない大臣の執務室へと招かれていた。



『まずは、ご苦労だった。お前たちがおこなった調査のおかげで助かった人命がある。素晴らしい働きであったぞ。』


以外にもクリウス大臣が開口一番に発したのはねぎらいの言葉だった。


『お前たちにこれを与える。』


クリウス大臣は、枠がついた薄い木製の板を差し出した。

枠内のベルベット生地に錬金術省のエンブレムと同じ形をしたバッヂのようなものが人数分差し込まれていた。


『メルディブス様、これは・・・!』

そのバッヂの正体を知っていそうなルイスが声を上げた。


『第三種栄誉勲章だ。お前たち、新聞は見たか?』


『何日か前のものは見ました。』とクロメルが答えると、クリウス大臣は僕に今日の新聞を差し出した。


「なんてことだ・・・」


『見せて見せて!』


そこには僕たち五人の氏名が載った記事が掲載されていた。


『九十六人もの人間を救い出したお前たちは今や国民的な英雄に仕立て上げられつつある。そこで我が省では非常に不本意ではあるが勲章の授与に至ったのだよ。こうでもせねばこちらが逆風を受けかねんからな・・・』


『君達、これは凄いことだよ!勲章は国家に対して著しく貢献した者にのみ与えられるものなんだ。』


ルイスは柄にもなく興奮していた。


『へぇ、こんにゃバッヂがにゃぁ。』

ターニャは人差し指でパチンパチンと勲章を弾きながら言った。


『ターニャ、勲章授与者には一時金も出ますよ。お金がもらえます。』


『にゃんだって!?』

ターニャは勲章を急いで懐にしまいこんだ。


『ケイとやら』

有頂天に近い僕たちに水を差すようにクリウス大臣は言った。


『貴様なぜ自分の能力のことを偽っていた?』


「"錬金術が使えない"と言っただけです。偽りはありません。」

僕はたった今思いついた言い訳で返した。


『はん、まあいい。全て説明してもらうぞ。貴様自身の能力のことも含めてな。』


僕はその場で簡潔明瞭(かんけつめいりょう)に動電術やルキオが言った"コネクト"のこと、フューラーとの関連性などを話した。


『ワハハ!!すると貴様がいなければ九十六人の人質たちは解放できなかったとでもいうのか?』


『メルディブス様、それは真実です。僕はこの目で彼が洗脳を解くのを確認しました。』


『ますます気に入らんな。本当は貴様の身体を隅々まで調べて、その動電術とやらの正体を暴きだしてやりたいところだが、残念ながらそれを世論は許さん。アドル殿の手前もあるしな・・・』


アドル・メーター、彼はいったい何度僕たちのことを護るのだろうか。

そもそもアドルが教えてくれた技術がなければ僕は今頃採掘場で粉微塵になっているところだ。


『もっと気に入らんのは、二級錬金術師士の双子ではなく、貴様とそこの猫耳が特に英雄視されていることだ。』


それは僕とターニャが錬金術を使えないからだった。

この世界で落伍者(らくごしゃ)の烙印を押されているエナ欠乏症患者が、九十六人もの人命を救うという偉業を成し遂げたことによって、いわゆるアジテーション的な影響が生まれているらしかった。

つまり、どうやら僕たちは副次的な効果で恵まれない境遇の人々に少なからず希望を与えてしまったということであり、錬金術至上主義の大臣にしてみればそれが気に入らないのだろう。


『わかっていると思うが、件の真相も全て秘匿事項だ。口外することは許さんから肝に銘じておけ。お前たちの処遇はまた追って通達する、下がれ。』




ルイスを除く四人は大臣の言う通り錬金術省を後にした。




『ねぇ、あのジジイの顔見た?』


『ええ。なんだか胸がすく思いです。』


「胸がすく思いってこういう時に使う言葉じゃないだろ・・・君たちはあの大臣に対してだけは容赦ないな。」


『でもやっぱりあのジジイは碌なもんじゃないって!ルイスが根回ししてくれなかったら今頃・・・』


僕たちが一躍有名人になったのにはカラクリがあった。


件の採掘場と石材店への調査は警察の介入を許さず、錬金術省が独占しておこなったために僕たちの情報は世間にはほとんど伏せられていた。

それでも保護された百人弱の採掘夫たちは僕たちの姿を直接確認しているので、人の口に戸は立てられぬ以上、その風貌だけは噂になってしまっていた。


ここからが敏腕ルイス・アラストルの所業である。

彼がどういう手段をとったのかはわからないが、立役者である僕たち四人と自分自身の情報を匿名でエヴァンの地元情報誌にリークしたのだ。

もちろん秘匿されるべき情報をそっくりそのまま抜き取ってのことだ。

双子の助手になる前の僕とターニャの経歴は誰が調べても出てくるはずがないし、対照的にクロメルとアルメルには二級錬金術士というオフィシャルな地位がある。

とどめになったのは"黒髪と銀髪の一卵性双生児"という彼女たちの強烈なキャラクター性だった。

見まごうことなどあるはずもないそのビジュアルは、採掘夫が見たという人物像とぴったり符合したことによってさらに信憑性を強固なものにしていた。

この策には、あえて注目を集めることにより錬金術省から不当な扱いを受けにくくする目的があった。

ルイスもここまで顕著(けんちょ)に影響が出るとは考えていなかったが。



「でもなんか動きづらくなっちゃったな。」


『秘密裏に事を運ぶのは難しくなってしまったかもしれませんが、これでむこうから私たちに近づきやすくなったと言うなら、それはそれでありがたい話です。』


淡々と恐ろしいことを話すクロメル女史と、それに頷くアルメルはやはり大変肝が据わっているな、と僕は思った。


『わたしはにゃんか少しだけ嬉しいかもにゃあ。これでわたしと(おにゃ)じ境遇の子供たちを勇気づけられたにゃら。』


「ははは!いいやつだな、お前は。」


『ふん。』

ターニャは斜め下を向きながら決まりが悪そうに鼻を鳴らした。


『ところであたしたちはどこに向かってるの?』


『ああ、説明してなかったね。僕たちがこれから行くところは()()()さ。』


『にゃんだ?ついに出頭する気ににゃったのかにゃ?』


「違うよ!まだ捕まる気はない。ていうかこれからも無いよ!僕は何も悪いことしてないだろ。」


『じゃあいったい何のために刑務所などに行くのですか?』


「会いに行くのさ。僕と同じで何も悪いことをしていないであろう人間にね。」


『あっ!!』


「思い出したかい、アルメル。()()()()いただろう。コネクトの影響下にあったかもしれない人間が。アランという男がね。」




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