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電気オタクと錬金術  作者: 御手洗 千加志
三章
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3-7 査収と死臭


────採掘事務所




「案内役の二人に襲われたのはこの建物の中であってるんだね?」

僕は扉に手を掛けながら双子とターニャに問いかけた。


『うん・・・中に入って少ししたらいきなり。』


「ルイス。この中にはターニャが撃退した男が二人、まだ伸びてるのか起きてるのかはわからないけど居るはずなんだ。もし襲い掛かってきたら僕たち二人で取り押さえよう。君らは後ろに下がっていてくれ。」


『承知したよ。』


「開けるぞ!」


扉が開かれると、虚ろな目をした男が二人立っていた。

その二人は僕とルイス越しに後ろのアルメルたちを見つけると突然僕たちに向かってきた。


「来たぞルイス!!」


僕とルイスはあっさりとその二名を羽交い絞めにして拘束した。

それらは身動きが取れなくなってしまってからも、あくまで機械的に女性陣の方へ向かおうとしていた。


「ルイス、これが操られている状態だ!こいつらは単純な動きしかできない。だから今も僕と君に危害を加えたりせずにとにかく双子やターニャのほうへ向かおうとしてるんだ!!」


『それはわかったけれどこの男たちをどうすればいいんだい!?』


「見ていてくれ。」


僕は自分が羽交い絞めにしている男にごくごく低い電圧を印加した。

すると男は一切身動きをやめ、その場に膝から崩れ落ちた。


「このとおりだ。これでこっちの男はもう洗脳されていないし、おそらく少し待てば起き上がってくると思う。」


『ケイくん、それが動電術とか言っていた君の能力か!?』


「うん。」


『なるほどね。早いところこっちの男にもそれを使ってくれると助かるんだけど、どうだろう?』


「あぁっ!悪い悪い!」

ルイスが取り押さえている男にも同じように電圧を印加した。


焦って取り乱し気味のルイスを見るのはなんだか新鮮だった。

それからしばらくすると二人の男は目を覚ましたので、事件に巻き込まれたことを説明して錬金術省の職員が待機する採掘場の方へ行くように促し、僕たちは引き続き建物の中の調査を続けることにした。


『驚いたよ。まさかさっき君から聞いた話を目の前で実演してくれるなんてね。』


「もうこれで間違いないな。僕の電撃にはその威力にかかわらず、彼らを正気に戻す効果があるらしい。」


『ケイくん、この調査が終わったら・・・』


「ああ。わかっているよ、一緒に錬金術省へ顔を出してほしいと言うんだろう?行くよ、僕もトリストスに向かう用事がひとつできたからね。」


『にゃぁんかここ、嫌にゃにおいがするにゃ。』


『キャァッ!』


アルメルが不意に悲鳴を上げた。


『ねえ。なんでこんなことができるの?』

アルメルは怒りで肩がわなわなと震えていた。


『・・・酷いことをするね。』



それは、建物の床を大きくくりぬいた窪みで、その中にあるものは(おびただ)しい数の炭化した白骨だった。



『採掘場にいた方たちだけでは、行方不明者の頭数と合わないとは思っていましたが・・・』


「人間のすることじゃないよ、こんなのは。」


そこにある大量の仏は、洗脳されてここへ連れて来られ死ぬまで働かされた者たちの亡骸に違いなかった。

もはや原形をとどめているものはひとつとして無く、身元も確認できそうにはなかった。


まるで物のように使い果たされて利用価値が無くなれば焼却処分する、そこに人間の尊厳はひとつとして残っていなかった。





その日から二日間、僕たちは重要参考人として拘束された。

拘束と言っても自宅での軟禁状態であり、牢に入れられるわけではなかったが。

トリストスから官職の連中が来て僕らを取り調べするまでは仕方のないことだった。

件の採掘場は錬金術省が多数の人間を動員して正式な調査が入り、洗脳を受けていた採掘夫たちからもひとりひとり聴き取りが行われていくらしい。

やがて僕たち四人の身柄が解放され、すぐに新聞を確認したが思った通りエヴァンは大変な騒ぎになっているようだった。その新聞の見出しは"洗脳の悪魔"だ。

採掘場の遺体を調べた結果、少なく見積もっても百余名は犠牲になっていることが判明し、ここ半世紀で最も残虐な殺人事件と言われていた"十七人殺し"を軽く凌駕する未曽有の凶悪犯罪として報道されたが、錬金術省から圧力でもかかったか予想した通りその詳細は伏せられていた。









────汽車




「なあ、聞いてくれ。」


『なぁに?』『なんですか?』『にゃ?』


「君達に謝っておかなきゃいけないことがあるんだけれどいいかな。」


僕はトリストス行きの列車から流れる車窓を眺めながら、そう切り出した。


『話してみてください。』


「もしかすると僕は君たちをとんでもない危険に曝してしまうことになるかもしれない。」


『んー?どういうこと?』


「あの時ルキオは言ったんだ。"必ず僕たち四人を殺す"ってね。これまでシャールやフューラーを追って色々と調べを尽くしてきた僕らだけど、それと同時に追われる立場にもなってしまったかもしれないってことなんだ。僕のせいでね。本当にごめん。」


『なぁんだ。そんなことかあ!そんなこともうとっくにわかってたことじゃん!』


『ええ。些末事(さまつごと)です。』


そんなこと?些末事?

もしかしたら命を落とすかもしれないという言葉に対しての反応としてあまりに不適切ではないのか?


しかし、僕は思い出していた。グラウス村でアルメルが僕に教えてくれた過去を。

この双子はシャールとその謎を追うために一般人の到達点である二級錬金術士を目指し、ここまでやってきた。

殺人鬼を追う覚悟をした彼女たちにしてみれば織り込み済みだったのかもしれない。


『ターニャ?どうしたのですか?』


ターニャは僕の話を聞いて、困惑とも狼狽(ろうばい)ともとれる表情をしていた。


『・・・にゃ、にゃんだかわからにゃくにゃってきちゃったんにゃ。ご主人にはまた会いたいけど、今回みたいにゃ酷いことをさせてるのがご主人にゃんだとしたら、わたしはそれでもご主人を好きでいられるのか・・・』


失念していた。

ターニャがこの調査に協力してくれているのは、クロメルに雇われているからというのが半分で、もう半分は彼女がご主人と仰ぐフューラーという女に再会するためだということを。


ターニャ、これは僕個人の意見なんだけれど、と前置きをして彼女に僕は言った。


「もし、もしだけど、辛いのなら無理して僕たちに協力することはないと思うんだ。別にクロメルだって君が協力してくれなくなったからって見捨てるような子じゃない。僕たち三人にとってフューラーは"敵"に類するものだということは確かだけれど、君にとっては必ずしもそうではないだろ?」


『うー・・・でも、それでも、わたしはお前らと一緒に行くにゃぁ・・・もう独りは嫌にゃ!!』


ターニャは今にも泣きだしそうな顔をした。


『ターニャ、おいで。』

アルメルは両手を広げてターニャを胸の内に導いた。

そして自分の胸に顔をうずめるターニャの前髪を優しくなでていた。


なんて愚かな問いかけをしてしまったのかと僕は反省した。

ターニャにしてみれば初めて主従関係でない居場所を見つけたに他ならないはずだったのに、それを彼女自身から自発的になくしてしまうことなどできるはずがなかった。


「ごめん、ターニャ。僕の言い方が悪かった、一緒に来てくれるか?」


『・・・しょうがにゃいにゃぁ。』


アルメルの胸に顔をうずめながら、彼女はそう返事をしてくれた。




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