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電気オタクと錬金術  作者: 御手洗 千加志
三章
42/50

3-4 ルキオ


エヴァンの採掘所から鉄が流通するまでには、通常三つの関門を通過する必要があった。


ひとつめは各採掘所に置かれた計量所だ。

この計量所は公的な第三者機関が担っており、鉄の原料である鉄鉱石がその日どれだけ採掘所から持ち出されたかを管理している。


ふたつめは都市内のいたるところに置かれた抽出所である。

ここも計量所と同じく公的機関であり、抽出専門の錬金術士が鉄とそれ以外の不純物をより分けて、残った鉄の重量を計る工程だ。

この時点で純粋な鉄塊になったものに認証済のタグがつけられ、生産者は税を納めて流通可能となる。


みっつめは鉄道会社が輸送資源に対しておこなっている検閲である。

認可を受けていない指定課税物資がないかを確認する作業だ。

それに含まれる鉄の場合は、抽出所でつけられたタグを確認して輸送の運びとなる。



ひとつめの関門は正式に通過し、ふたつめの関門を通さずに、独自に錬金術を用いて鉄の抽出を行い、みっつめの関門は抽出した鉄に石材のコーティングを施して非課税である石材に偽造することにより、鉄道会社の検閲を通り抜けられるというのがルイスの推理だった。





『にゃぁんか、よくわからないけどズルしてるやつらがいるにゃ?』


『さすがターニャ、とてもわかりやすい要約をありがとう。そういうわけで、君達はこれから言う採掘所へ直接出向いて調査してきてほしいんだ。もしかすると行方不明者の件や、君達が追っている女の件と関連性が見つかるかもしれない。』


『わかりました。もともとそのつもりでこちらに来ていますから、協力しましょう。』


『ルイスはどうするの?』


『彼らに逃げ道を与えたくはないので、僕は錬金術省に要請して石材店の方をおさえるから挟み撃ちの格好になるかな。』


「よし、そうと決まれば善は急げだ。」


『何があるかわからないからくれぐれも慎重にね。僕も石材店の方を片づけたらすぐに向かうよ。』


そう言ってルイスは僕に一枚の書状を手渡した。

それは錬金術省から採掘場に対して書かれていて、調査に協力することを求めるものだった。


それにしてもルイスの推理は理路整然としていて、それはまだ推理という域を脱してはいないはずなのに、僕たちに真実を語ったかのように信じ込ませる説得力があった。

ルイスの閃きも大したものだったが、ターニャがその一助になったことは素直に嬉しかった。

給金に見合った働き以上のものを彼女は与えてくれたはずだ。

鉄を石ころに変えるなど、砂を黄金に変えるのと大差はないと思っている双子や僕からは出てこない発想だっただろう。







───採掘場



『ついたけど、なんかパッと見は普通の採掘場って感じだね。』


「うーん。とりあえず事務所に行って責任者の人と話してみようか。」


採掘場の出入り口にはルイスが言う通り計量所が設けられていて、すり鉢状に掘り進められた窪地で作業する採掘夫たちや、物資を荷下ろしする大きなクレーンなどが遠目からも見えた。

そして、その少し離れた場所にに事務所と思われる建物をいくつか構えていた。

正直に言ってそれは僕たちが今まで見てきた採掘場の姿と見比べても相違ないものだった。


僕は事務所の木製扉をノックした。

すると中から『どうぞ』という声がしたので四人で中へ入った。


『どちらさまでしょうか?』


背の高い男が僕たちにそう問いかけた。

年齢は二十代半ばといったところだろうか。


「突然お尋ねしてすみません。僕達は錬金術省の者です。」


『錬金術省・・・でございますか?』


男はあっけに取られたような表情をしていた。


「はい。今エヴァンで資源の不正な横流しが行われている疑いがあるので調査をしているのですが、協力していただけますか?」


僕はルイスから託された書状を彼に見せた。


『左様でございますか。もちろん応じさせていただきます。申し遅れましたがわたくし、この採掘場の管理者をしている、ルキオと申します。どうぞよしなに。』


物腰が柔らかい様子で男性はぺこりと会釈をした。

思っていたより数段丁寧な挨拶に僕達は焦って挨拶を返した。


『どちらからご覧になりましょうか?』


「じゃあ二手に別れよう。僕は採掘場の方を見るから、三人は建物の中を調べてもらえる?」


『うん!』


『では採掘場の方はわたくしが、そちらの三名様の方には案内の者をお付け致しましょう。』


ルキオ氏は双子とターニャに二人の案内役を付け、採掘場へと僕を(いざな)った。


僕は事務所で書状を見せた時点で何らかの抵抗に遭うかもしれないと危惧していたのだが、礼儀正しく僕らを迎えるルシオ氏の対応は、いい意味で想像とはかけ離れていた。

だが、僕たちが見極めるべきなのはそこじゃない。

この事業場で不正が行われている痕跡を見つけることだ。


『失礼ですが、クロシル様はその若さで錬金術省のお役人様になられたのでしょうか?』


「あ、いや、僕達はルイスという上官の命令でここへ来ています。」


『そうでございましたか。わざわざご足労いただいて申し訳ございません。』


「いえ、こちらも仕事ですので。」


『見えてまいりました。こちらが採掘場でございます。』


僕とルキオ氏は事務所から少し坂を下って採掘場の出入口まで歩いた。

それは先程遠目から見た時よりも一層大きく見えた。

円形に拓けた地層が、横から見ると階段状に掘削されている。

それはちょうど観客席を備えた競技場のような形状だ。

ピッケルを持って作業をする従業員やトロッコが目に入ったが、僕達が見た事のある他所の採掘場とさして変わらない様子だった。


『どこかご覧になられたい場所はありますでしょうか?』


ルキオ氏は改めてそう僕に訊ねた。


「えーと、とりあえず最初に上段から採掘場全体を見せてもらってもいいですか?」


『もちろんでございます。ではあちらの階段から一番上段まで上がることが出来ますので参りましょう。』


僕とルキオ氏は一緒に採掘場の一番外側に位置する場所へと階段で登った。

全体を見渡すと採掘夫たちが作業している姿を全て視界に収めることが出来た。

全ての従業員が集中して自分の仕事に取り組んでいる様子が見てとれたし、私語などは全く聞こえてこなかった。



「ここの従業員の方はすごく能動的に働いてらっしゃるんですね。」


『ええ。勤務態度のよい者ばかりでございます。ところでシオタ様、競馬はお好きでしょうか?』


「競馬?競馬場には行ったことはありませんね・・・なぜですか?」


『おお。それはちょうどようございました。もうすぐご覧になれますよ、()()でね。』



ルキオは全く言葉に抑揚をつけずに、僕のことを採掘場の中心に向かって蹴り落とした。


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