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電気オタクと錬金術  作者: 御手洗 千加志
二章
38/50

2-17 モラトリアム

一夜明け、双子は調査任務の依頼を引き受けるために再び錬金術省へ出向いて行った。


一方、アドル邸に残された僕はというと、久しぶりに工場勤務者らしい仕事をしていた。


『おーい、助手う!こっちの継ぎ目も頼むゥ!』


「はーい!」


僕が右手に持った金属製の棒を鋼材同士の継ぎ目に近づけると、先端からまばゆい光がほとばしった。

そんな具合に、近づけては離す、近づけては離す、ということを数回繰り返すと、継ぎ目は半円状の波紋を残して滑らかに結合されていた。


『ほおおお!!まるで魔法だなァ!!』


タクトの先から激しい光を放ち、あっという間に金属同士をくっつけてしまうなど、彼らにとっては魔法に見えたかもしれない。

でも僕から言わせてもらえば錬金術の方がよっぽど原理不明で魔法じみている。


『綺麗だにゃあ・・・』


「二人ともこの光はなるべく見ない方がいいよ。あと、出てきた煙も吸っちゃダメ。」


僕が鋼材同士をくっつけている技術は"アーク溶接"によるものだ。

加工したい金属を陰極、特別な金属で出来た棒を陽極として直流電圧を印可する。

その状態でそのふたつを近づけると、接触する瞬間に火花、つまり"アーク"が発生する。

アークは激しい熱をともなうために、接触した部分の金属同士が溶け合って結合するのである。

この際、加工部から放たれる強烈な光は紫外線や赤外線を多分に含んでおり、肉眼で見続けると網膜にダメージを負う。

それを防止するために本来は"溶接遮光面"と呼ばれるお面を使って作業するのが基本である。

溶接によって発生した煙は"ヒューム"と呼ばれ、金属が煙状になったもので、吸い込むと呼吸器が侵されてしまう。

本来ならば"防塵マスク"の着用が必須だ。


「雇い主さまについていかなくてよかったのか?」


『クロメルはここにいていいって言ってたから問題にゃいにゃ。ていうかそれはお互い様だにゃ!こっちでにゃにか楽しそうにゃことやってるしにゃ!』


「手伝ってくれてもいいんだぞ。」


『にゃはっ!お断りにゃぁ。可愛い女の子(おんにゃのこ)が話し相手ににゃってあげてるだけありがたいと思うにゃ!』


「はいはい、どうもありがとうございます。」


ターニャの自由気ままな雰囲気や、自分自身の可愛さを理解した上での振る舞いは、まさに猫そのものだった。



なぜ僕がアドル邸の庭でこんな仕事に従事しているかというと、それは彼が持ちかけてきた"交換条件"によるものだった。

アドルは先日までの任務を終えて、二週間ほどの休暇を取ることができたらしく、それを利用してロイがくつろげる馬小屋を作ってやりたいと考えていた。

昨晩ロイが宿泊した小屋は、倉庫として使っている場所に臨時でスペースを作っただけのものらしかった。

それを建てるのに協力してほしいというのが、()()()()に対してアドルが提示した交換条件だ。

そして、僕がアドルにした要求というのは「戦いの技術を教えて欲しい」というものだ。

施設の地下二階で、アルメルの背中越しにあの猛獣の剛腕が振り下ろされるのを見送るしかなかったとき、多分僕は男として死んでしまったんだと思う。

死ぬ順番だけは譲らないなどと大言を(うそぶ)いておきながら、結局力及ばない自分がたまらなく情けなかった。

もうあんな思いは御免だ。




『よーし!今日はこんな所でいいだろう!』


アドルの錬金術はやはり圧巻だった。

鋼材屋が運んできた金属塊(インゴット)をいくつもまとめて部材に錬成し、日も沈まぬうちに馬小屋の鉄骨は完成させてしまった。

それらの部材を繋ぎ止めるのに、僕の溶接技術が多少なりとも役に立ったようで良かった。


「いやぁ、いい汗かいた!」


『お(にゃか)ぺこぺこにゃ~!』


「何もしなくても腹は減るんだな。」


『やかましいにゃ。今日はどんにゃごはんかにゃぁぁ♪』


彼女は施設から出てきてから食の楽しみに目覚めたようで、食事の度に大騒ぎしていた。


『では始めるとするかッ!!』


「え?何を?」


『戦い方を学びたいんじゃなかったのかァ!?』


「いや何も今からしなくても・・・」


『時間は有限だぞ!付いてこい、地下に練武場がある!』


「は、はいぃぃ・・・」



こうして僕は短い間ではあるが、アドルから戦いの技術を学ぶことになった。

技術にしろ、知識にしろ、身につけるというのはそんなに甘いものではない。

きっと二週間足らずでは何も実るものはないだろうが、種を巻いておかねば何も芽吹かない。

基礎を知ると知らぬではそこからの成長に大きく差が出ることは明らかだ。

その"畑を耕す"作業をアドル・メーターに師事できるというのは非常に幸運なことかもしれなかった。






『腹減ったに゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!』


『ただいま~。外、立派なのが出来そうだね!ていうかあれ?ケイとアドルは?』


『おかえりにゃ。地下室で男同士、お互いの棒でにゃんかやってるにゃ。』


『えっ・・・?』


「おい、ターニャ!なんて人聞きが悪い言い方をするんだよ!木刀と言えよ。」


タイミングよく僕とアドルは地下室の階段を上がってきた。

危うくとんでもない誤解を許すところだった。


『ちっ。』


『ケイ!!どうしたの、その顔!!』


僕の顔や身体にはくっきりと何かで殴打された腫れがいくつも残っていた。


「アドルにやられた。」

僕は眉をひそめながら精一杯恨めしそうに言った。


『ハッハハハ!人聞きの悪いことを言うのはお前も同じじゃないかッ!避ければ良かろうに!!』


『あぁ、稽古をつけてもらってるんだったね。怪我だけはしないようにね。』


「稽古をつけてもらう前から怪我はしてるんだけどね・・・」


キマイラの尻尾にやられた僕の左腕は折れてこそいなかったものの、まだ動かせば鋭い痛みが走る。

しかし、アドルが稽古をつけてくれるのは今しかない。

万全でないにしても、この猶予期間(モラトリアム)で何か彼から盗み取らなくてはならない。


「あれ?クロメルは?」


『あぁ、クロメルは今日市街地に泊まってくるって!ふふふ。』


「なんだよ、その笑いは。」


『ケイは知らなくていーのっ!』


「まあいいや。とりあえずご飯にしよう。そこにいる腹を空かせた獣に食われちゃたまらないからな。」


『がぶっ』


「い゛っっってぇ!!」

僕は痛みに耐えかねて右腕を振り払いながら絶叫した。


『不味いにゃ。』


「お前、飼い猫になったんだから甘噛みを覚えろよな!!」


僕は犬派だけれど、別に猫が嫌いなわけじゃない。

猫より犬が好きなだけだ。

でも、それも今日までかもしれない。


『アドルもケイも疲れてそうだし、今日はあたしが腕を振るってあげちゃおうかなっ!』












~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


読んでいただいてありがとうございます。

ブックマーク、評価など非常に励みになっています。


二章はこの投稿で終了になります。


お気づきの方もいらっしゃたかもしれませんが、二章で主人公たちと旅をした馬の名前は《ロイ》です。

登場時の投稿からずっと間違えて記述していましたことを訂正してお詫びいたします。

私が見つけた範囲では修正しておきましたが、混乱させてしまって申し訳ありませんでした。


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