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電気オタクと錬金術  作者: 御手洗 千加志
二章
30/50

2-9 後門の獅子

──地下一階 エントランス





一対一になったアドルと猫耳娘は膠着状態に陥っていた。

アドルの棒術による攻撃は全て回避され、猫耳娘の短剣による攻撃も全てさばかれていた。



『おい猫!!同じことというのはどういう意味だァ!?』


『下にはわたしにゃんかより獰猛な獣が待ってるにゃ。だからあいつらが死ぬのは変わらにゃいってことにゃはは!』


『それは困る、なあッ!!』

アドルは金属製の棒で再び攻撃を加えたが、またも避けられてしまった。


『にゃあん!女の子(おんにゃのこ)に暴力振るうにゃんてサイテーだにゃ!』


『自分の生命を獲ろうとする相手に、男も女もあるものか!』


この女の強みは跳躍力と反射の速さ、そして獣並の動体視力、この長物では懐に入られるとちと厳しいかもしれん。

アドルはそう考えた。


『へぇ。賢明にゃ判断じゃにゃいの。』


アドルは金属棒を分解し、小ぶりな双剣に錬成し直した。


『いくぞッ!!』


それは舞踊(ぶよう)を思わせるような剣戟だった。

滑らかな光沢の刀剣が、たまに陽光を受けてギラギラと反射光をそこらじゅうに撒き散らしていた。

先程までは終始回避されていたアドルの攻撃だが、手数が増えたことにより、彼女が短剣で防御せざるを得ない機会も生まれてきていた。


『今度はこっちの番にゃ!』


猫耳娘は後方に大きく跳躍し、距離を取った。


まただ。

この女の攻撃パターンは、中距離から十分に加速して懐に入ろうとしてくる。

加速度を利用すればあの短剣でも一撃で俺の生命を断つこともできるかもしれんな。

だが速さゆえに軌道は直線的、ならば受けた上で捕える。



猫耳娘は前傾姿勢をとり、そのしなやかな脚にエネルギーが蓄えられている様子がうかがえた。

そして、それは解き放たれた。


アドルは格子状に穴が空いた盾を錬成し、突進の軌道上に構えた。


あの猫耳は短剣を順手で握っていた。

刺突を盾の格子に誘い込み、腕ごと嵌め込んだ状態で攻撃を受けたあとに錬金術によって()()()()()()ことで身動きと武器を同時に封じる。


しかし、彼女の狙いはアドル本体ではなく、アドルの背後にある壁面だった。

アドルの脇を通り過ぎ、壁面に両手両足で着地すると、そのエネルギーをバネの弾性力のように跳ね返し、死角からアドルにむかって再び跳躍した。



アドルはとっさに背後へ振り返ったが盾は間に合わず、脇腹に短剣が突き立てられた。

その衝撃で彼は盾ごと前方に吹き飛び、冷たい石英の床の上に転がり動かなくなってしまった。


『狸寝入りはやめるにゃ!!』


彼女の短剣にアドルの血は着いていなかった。


『ハッハハハ!バレたかッ!』

アドルはそう言ってムクリと起き上がった。


『にゃにをしたにゃ・・・?』


『危ないところだなァ!』


アドルは服をたくしあげて鎖帷子(くさりかたびら)を見せた。


『にゃるほど。見かけによらず器用にゃやつにゃ。』


アドルが着用している鎖帷子は右脇腹部分だけ不自然に丈が短くなり、硬質化していた。

刺突を受ける際に防御しきれないと悟ったアドルは、盾に腕を捕らえるために高めていたエナを急遽、この鎖帷子の装甲強化に使用したらしかった。


『こうでもしないと、刃は刺さらんにしても肋骨をバキバキに折られそうだったのでなァ!!』


錬成量、錬成速度、戦闘センス、そしてパワー。

神はこの男に二物も三物も与えてしまった。

ただし、髪だけには愛されなかったようだが。



『お前のルールだと今度はこっちの番ということになるが準備はいいかァ!!?』















──地下二階





その四足歩行の巨大な獣は茶色い体毛で覆われていて、ライオンのメスを何倍も大きくしたものに一番近かった。

頭には山羊の角と思われる堅牢な巻き角が生えていて、尻尾は蛇のように鱗で覆われていた。


そして今の僕たちはというと、その獣が鉄格子を鋭い爪で何度も引っ掻く姿を呆然と見ているだけだった。

その度にものすごい音で鉄格子がひしゃげたり削れたりしてはいたが、こうして檻に入れてしまえば所詮は獣、どうということは無い。


「なあクロメル。この檻はあとどれ位もつと思う?」


『この調子なら数分もあれば完全に鉄格子を壊してしまうでしょうね・・・』


『ケイ、あたしたち死んじゃうのかなあ?』


「おちついて。みんなで考えよう。」


否、檻に入っているのは僕たちの方だった。

この獣の威容に根源的な恐怖を覚えた僕達は、最も近くにあった檻に逃げ込んだのだ。


考えてもみれば、僕たちが檻に入っていようが、この獣が檻に入っていようが大差はない。

檻に入っている方がそこから出ることになった時、僕たちが死んでしまうという一点においては全く同じだ、という解釈は(いささ)か負け惜しみが過ぎるだろうか。




「クロメル、アルメル、この檻を錬金術で何かに変えることはできる?」


僕はこんな身なりだけども一応、年長者だ。

絶対に弱音を吐く訳にはいかない。

そう自分自身に言い聞かせ、必死に声の震えを抑えて発言した。


『二人でならなんとか!』


僕は意を決して「よし、じゃあこうしよう」と切り出した。


「僕が前に出る。君たちは自分自身を護る壁と、僕が使う武器を錬成してくれないか?」


『ですがそれではケイが・・・』


現状を鑑みて、双子はそうする他にないということを薄々気づいている様子だった。


「いい?よく聞いて。僕たちはこのまま何も行動を起こさなければ近いうちに死んでしまうんだ。ひとりずつね。そうなってからでは遅いんだよ。もし三人で立ち向かえばこいつを倒すチャンスが生まれるなら、賭けてみるべきだと思う。三人とも死んでしまうとしてもその順番だけは絶対に譲らないよ、僕が一番だ。」


一拍置いてアルメルは静かに口を開いた。


『・・・わかった。ケイ、戦って。』


普段の朗らかさは一切どこかへ消え失せてしまい、静かな闘志が瞳に宿っていた。


クロメルは目をまん丸くして驚いていたが、僕は()()()()()()()()な、と思った。


アルメルは普段こそ優柔不断で朗らかな性格だが、追い込まれた時の思い切りの良さと、腹のくくり方はぶっ飛んでいる。


『ケイを絶対死なせたくない。クロメルも協力してくれるよね?』


『は、はい!もちろんです!』

クロメルは姉の威圧に気圧され気味に返事をした。


檻の耐久も限界に近そうだったので、僕は二人になるべく手短に作戦を説明した。




「よし、恨みっこなしだ。始めてくれっ!!」


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