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電気オタクと錬金術  作者: 御手洗 千加志
二章
29/50

2-8 殿(しんがり)


「君はさっきの犬達の主人か?」


『だったらどうするにゃ?』


『どちらにせよ、お前を拘束させてもらうことには変わりないなァ!!』


『にゃあんだよぉ。からかい甲斐がにゃいにゃあ!こにゃいだ来てくれた人達はちょっと誘惑したら、鼻の下を伸ばしてついてきてくれたのににゃあ。』


あの性格破綻者の大臣といい、役人というのは頭が腐ってないと就けないのかと僕はドス黒い気分になった。

しかし涼風のような男、ルイス・アラストルのがことが頭をよぎりなんとか思い直した。


『うわぁ。あたしちょっと助ける気無くなってきたかも・・・』


『そうも言ってられませんよ。ここで彼らを見捨てるようでは、彼らと同じ呪われた魂に身を(やつ)すことになりますから。』


やはり黒髪の方はクズに対しての風当たりが一層強い。


「彼らをどこにやった!!」


『質問ばっかりでうるさいやつらだにゃぁ!君たち、自分の立場わかってるかにゃ?』


「わかってるよ。これから君を拘束しt」


否、わかってなどいなかった。

金属同士が衝突する音が地下室内に響き渡り、気がつけば僕の視界は広い背中で埋め尽くされていた。

その頼り甲斐のある背中の向こう側に例の猫耳娘を確認した時、やっと僕の脳は自分が()()()()()()ということを理解した。


『オジサンのくせにわたしの速さについてこれるにゃんて、にゃかにゃかやるじゃにゃい。』


信頼を寄せる僕達の上官は猫耳娘の跳躍に反応し、一瞬で右の肩当てを盾に錬成して短剣の一撃から僕を護ったのだった。


猫耳娘は再び後方に高く跳躍し、丸めた身体をくるくると縦に回転させながら元の位置へ戻った。


『俺は二十六だぞォ!!』


『にゃはははは!!どれだけ苦労したらその歳でそんにゃ頭ににゃるんにゃ!』


残念ながらこの場にいるオジサンは僕だけなんだ。

でも身体は十代の頃に戻っているはずなので、彼女の攻撃に反応できなかったのはそれが原因ではない。

その証拠に双子も攻撃に反応できずに言葉を失っていた。

猫耳娘の敏捷性も脅威だが、一瞬にして盾を錬成して僕の前に立ちはだかったアドルも百戦錬磨に違いなかった。


「ありがとう、アドル。」

僕はしみじみと言った。


『死なれると持って帰る荷物が増えるんでなァ!!だが次は護ってやれるかわからんぞォ!!』


なかなか気の利いた冗談だったが、僕と双子は笑っている場合ではなかった。

なにしろ、アドル以外の三人はこの猫耳娘に生殺与奪の権利を握られているようなものだということが浮き彫りになったからだ。



『どうしよう。あたしも全然反応できなかったよ!』


『私たちはアドルほど錬成速度も速くありませんし、このままでは・・・』


「あの()()的な速さは猫の能力(ちから)ってことなのか?」


『おんにゃぁ?今、()()と聞こえたかにゃ?脚の次は胸なんていい加減にして欲しいにゃーもぉ!』


いい加減にしてほしいのはこちらの方だ。

双子の冷たい視線を再び浴びながら、僕は必死になって考えていた。


その結果、非常にシンプルな作戦が思い浮かんだので、すぐさま僕はアドルに耳打ちをした。


『ハッハハハ!それはいい作戦だなァ!!許可するぞ!!』


「ごめん!!」

僕は双子の手を取り、真っすぐ階段へ走った。


『えっ、ちょ、ちょっと!どこ行くの!』


『引っ張らないでください!自分で走れます!』


殿(しんがり)は任せろッ!!』

アドルは得意の棒術で猫耳娘に殴りかかったが、すばやい身のこなしでかわされてしまった。


『へえ。そういうことするかにゃぁ。』


「アドル!!あとは任せたよ!!」


僕たちはアドルの攻撃をさばくのに手一杯になっている猫耳娘を尻目にそのまま階段まで駆け抜けていった。




『やけにすんなり通すじゃないか!』

アドルは肩当てから錬成した金属製の棒を肩に背負って言った。


『追おうとした瞬間に追撃を加えてきてるくせによく言うにゃ。まあ、それでも同じことにゃ。どうせなら出口の方へ逃げればまだ助かる可能性はあったかもしれにゃいのににゃあ。』






現状、あの猫耳とまともに闘えそうなのはアドル・メーターその人だけだ。

しかし、誰かを庇いながらでは、さしもの彼も旗色が悪いだろう。

一番最悪なのは僕たちのうちの誰かを庇って、最高戦力であるところのアドルが戦闘不能になるというケースだ。

あの熱血漢ならばそれもあり得ない話ではない。

そうなれば間違いなく全滅だ。

ならばいっそ彼に猫耳を食い止めてもらっている間に、階下へ向かうのが、アドルにとっても僕達にとっても一番リスクが低いと考えたのだ。



『待ってよケイ!アドルが・・・っ!』


「あのままじゃアドルは僕たちを庇いながら戦うことになる。残酷だけど今はこれがベストなはずだよ!下に降りたらまず要救助者を探す。あの女の話が本当ならしょうもない奴らだけど、腐っても錬金術省の調査員だ。連れて戻ればそれなりに戦力になるかもしれないだろ?」


僕は階段を駆け下りながら双子に言い聞かせた。


『せめて弾避けくらいにはなってもらわないと困りますね。』


『そっか。確かにそのとおりだね!あたしたちはあたしたちにできることをしよう!』


双子を説き伏せたつつも僕たち三人は長い長い階段を下った。

後になってから思い返せば、この時の判断こそが結果的にリスクを助長するものであったと自戒せざるを得ない事態に発展することを、僕たち三人はまだ知る由もなかった。





たどり着いた部屋は地下一階とは違って非常に天井が高くて広大な空間だった。

片側の壁はびっしりと大小の檻で満たされていてた。

その檻には不自然な特徴があった。

扉も錠も見あたらず、()()()()()()()()のだ。

収容されているものはひとつも無く、全てがもぬけの殻だった。





『ねえ?あたしたち・・・やばいかも。』


アルメルが指し示す方角を見ると、四足歩行の獣の姿があり、それは檻の外に出ていた。


『大丈夫ですよ、アルメル。落ち着いて対処すれ・・・ばっ』


その獣はのらりくらりと強者にのみ許されるような足取りで一歩ずつこちらに向かってきていた。


「おいおい。」


僕はクロメルが言葉を途切れさせた理由を束の間遅れて理解した。

あまりに部屋が広大過ぎて遠近感が掴めず、近づいてくるまでその大きさを認識できなかったのだ。




それは体長が八メートルはある獅子だった。

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