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電気オタクと錬金術  作者: 御手洗 千加志
二章
24/50

2-3 カンフースター


ピエラ砂丘を目指す旅の二日目。

カルンの街を出発してから二十四時間が経過する頃──


馬車は山間(やまあい)の街道を東へ進んでいた。

真っすぐ南に進路を取りたいところだったが、《ダリヴィエ山》という標高二千メートルを超える休火山が行く手を阻んでいた。

ダリヴィエ山の山肌は、大昔に噴火した時に流れ出た溶岩が冷えて固まった花崗岩(かこうがん)によって覆われていて、馬車では到底踏破できる場所ではなかった。

この険しい山脈を迂回するため、僕たちは一度東に進路を取らざるを得なかったのだ。


野営地を早朝に出発し、起伏に富んだ迂回路を行く馬は、もうすでにかなり体力を消耗している様子だった。

アドルは日暮れまでになるべく遠くまで足を延ばすためにこのようなスケジュールを組んだのだが、それには理由があった。

次に補給が出来そうな街までは、距離的な問題で一日では絶対にたどり着けそうもなかったからだ。

ちんたらしていると野営をする回数が増えてしまうし、馬に餌を与えたり休ませたりすることが困難になる可能性があったからだ。


『よォし!このあたりで昼飯にしよう!!』

街道の開けた場所に行きつくと、アドルは道の脇に馬車を止めた。


「ロイ、お疲れ様。午後からも頼むぞ。」

僕は積み荷から水と干し草を降ろし、それを与えて彼の(たてがみ)を優しくなでた。


アドルが連れてきたこの馬は名前を《ロイ》といって、非常に気性がおとなしく賢い馬だった。

僕が首をなでようとすると、頭をこちらに預けるように向けてくる可愛らしいやつだ。

錬金術省が僕たちの調査遠征のためにわざわざ買い取ったそうで、この調査の重要性がうかがえた。







『はぁー!お腹減った!』

アルメルは昨晩、農村で調達したパンを荷物の中から探していた。


『私はいりません・・・』

クロメルは相変わらず具合が悪そうだ。


「クロメル、乗り物酔いが酷いのはわかるけど、なにか食べないと。」

珍しく僕からクロメルにたしなめるようなことを言った。


『見ただけで出そうです。』


「ば、晩御飯はたくさん食べような・・・」

僕は気の毒そうに笑いかけた。




『お前らァ!!ロイを護れェ!!』


僕らが昼食をむしゃむしゃ頬張っていた頃、怒号のようなアドルの声が響いた。


さしもの双子も何が起きたのかよくわかっていない様子だった。

というかクロメルに至っては、それどころじゃないとでもいうように馬車にもたれかかったまま動かなかった。


あたりを見回すと、どう見ても友好的ではない六人の男たちが馬車の少し遠巻きから前方を取り囲んでいて、六人とも刃渡り三十センチほどのサーベルを手にしているのを確認した時、やっとアドルの言った意味がわかった。

こいつらは追いはぎ、つまり盗賊団だ。

僕とアルメルは盾になるようにロイの前に立ちはだかった。

ロキはというと、現状を理解しているのかいないのかわからなかったが、とても落ち着き払った様子だった。


『おい、ハゲのおっさん。服は勘弁してやる。それ以外全部置いていきな。そうしたら命まではとらねえ。』


追いはぎのうちの一人が、さも譲歩してやっているという口ぶりでそう告げた。


『ダメだァ!!それは困るなあ!!』

アドルは即座にそう答えた。


追いはぎのリーダーとみられる男は、額に手を当てて侮蔑するような笑い声を響かせた。


『交渉決裂だな。』

男はサーベルを持っていないほうの手で仲間に合図をした。


ニヤニヤ笑いだった彼らの表情は、それを機にけわしいものになり、アドルに向かって一斉に斬りかかってきた。


何かしなくては。

加勢に入らなくては。

そう思って僕が右足を前に一歩踏み出した瞬間だった。


『助手う!!そのままそこに居ろォ!!』


アドルはそう叫ぶと、左右のズッシリとした金属製の肩当てを錬金術で結合させ、棒状に変化させた。


僕は少しも身じろぐことなくその場にとどまるしかなかった。


アドルは一人目の太刀を地面に鉄棒を立てた状態で受け止めると、それを支えにして両足で背後の一人もろとも前方に強く蹴り飛ばした。


攻撃はそれだけにとどまらず、追いはぎが左右から斬りかかる。


今度は立てていた鉄棒を水平に持ち替え、すばやく回転して彼らの振り下ろしたサーベルの横腹をとらえると、巻き取るようにそれらを吹き飛ばしてしまった。

そしてアドルは間髪入れず、左右の男たちの水月を鉄棒で強く突いた。


水月を押さえて(うずくま)る三人の男。

蹴り飛ばされた仲間にぶつかり後頭部を地面に打ち付けて悶絶する男。

それらを見て尻込みしてしまっている男。

口を半開きにしているリーダーとみられる男。

彼らは数秒前とは違い、明らかに追い込まれていた。


僕も一級錬金術士の華麗な棒術を見て口を半開きにするしかなかった。

映画で見たカンフースターのスタントを見ているような気分だった。


『ひとつ言っておくが俺は二十六だぞ!!』とアドルは言い放った。


「はぁ!?」

正直に言って目の前で起きていることよりもよっぽど現実味がなくて、僕はつい情けない声を出してしまった。


『お前たちでは俺には勝てないなあ!!』

(おど)しでも驕りでもないであろう言葉を彼は追いはぎに対して言った。


『オアアアアア!!』

やられてしまった仲間を見て尻込みしていた一人はやっと決心がついたのか、半狂乱になってアドルに向かっていった。


『よせっ!!!』

リーダーは彼我の戦力差を察したのか、彼を制止したがそれは無駄に終わった。

数秒後には、サーベルが弾き飛ばされる音、男がどさりと地面に倒れこむ音だけがその場に響いた。




唯一無事である男は一拍置いて小さな声で『見逃してくれ。』と言った。



『いいだろう。ただし、服以外は全部置いて行ってもらうぞォ!!俺はお前たちのような輩が大嫌いだ!!他人を獲物にすると言うのなら、自分自身も狩られる覚悟を持て!!!』


当然の論理(ロジック)だった。

その不当な要求を武力によってまかり通そうとしたのだから、それが失敗に終わったからと言って何も差し出さずに引き下がることを彼は許さなかった。


『あぁ?調子に乗るんじゃねえぞ?』

リーダーと見られる男は一瞬だけ難色を示した。


『そうか、交渉決裂だなァ!!』

アドルが手に持っている金属製の棒の先端が槍のような形状に変化した。

明らかに生命(いのち)まで届く形だ。



そのあとの追いはぎたちは、一切の戦意をなくしてしまった。

サーベルはもちろん、腰のベルトにひっかけていた革製のポーチやサーベルの鞘、略奪した物品を入れるために持ってきた大ぶりな袋など、衣服以外の全てのものをその場に残して速やかに引き上げていった。



『すごい。確かにアドルは強そうだけど、まさかこんなにすごいなんて。』

アルメルはあまりのことに完全に語彙力を失っていた。


『錬金術の水準が高いというよりは、単純に生き物として強いですね・・・』

クロメルは最早、乗り物酔いしていたことなど忘れてしまっているようだった。


『賊が飛び道具を持っていなくてよかったなあ!!ハッハハハ!!』


確かに彼らが弓矢などの飛び道具を持っていて、背後の僕たちを狙ってきたら彼も少し厳しい戦いを強いられていたのかもしれなかった。


『悪いなァ、ロイ!少し荷物が増えてしまった!!ハッハハハハハ!!』と彼は困ったように笑った。

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