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電気オタクと錬金術  作者: 御手洗 千加志
一章
17/50

1-17 ルイス・アラストル

僕達は執務室を出たあと、逃げるようにして錬金術省本部の建屋から外に出た。


『あーもう!あのジジィ~!!!!』


「ちょっと二人とも!なんであんなこと…」


『ごめん、ケイのこと侮辱されて我慢できなかった…』


『私もいざとなったらアルメルをなだめるつもりでいたのですが、あの男の言い草に辛抱がなりませんでした・・・』


「あれだけ僕に色々指示したくせにさぁ…」

と言いながらも僕は内心、ジーンと胸にくるものを感じていたのは確かだった。


『やあ!相変わらずだねぇ、君たちは!』


建屋の出入口へ続く階段の上から男の声が響いた。


『ルイス!』『ルイス!』

双子は同時に彼の名を呼んだ。


彼はゆっくり階段を下って、僕たちのもとへ降りてきた。


『驚いたよ。君達がクリウス大臣の前であんな()()()()()をするとはね!』


『ごめんなさい、ルイス。助けられました。』

クロメルが申し訳なさそうに言った。


『ナイスタイミングだったよ!』

アルメルはそう言って親指を立てた。


『君たちは本当にいつもヒヤヒヤさせる。ケイくん、だったかな?』

ルイスはそう言って僕の方へ向き直った。


「はい。」と僕は答えた。


『僕はルイス・アラストル。宜しくね。』

そう言って彼は握手を求めてきたので、僕はそれに応じた。


『ルイスはね、あたしたちが子供のころからお世話になってる人だよ!』とアルメルが説明してくれた。


どうやらこの男は双子の古い知り合いらしかった。


「さっきは助かりました。あなたが割り込んでくれなければこの双子はどんな罵詈雑言を、あの大臣に浴びせていたか…」

僕は感謝を込めてそう言った。


『ハハハ!そうかもね。だから僕もやむを得ないと思って飛び込んだんだ。』


執務室で鶴の一声を響かせたその男は、先程までの堅苦しい印象とは違う様子だった。

爽やかで、思いやりがあって、礼儀正しく社交的で、なんというか有り体に言ってしまえば"モテそう"だった。



『さて、この可愛らしい双子と一緒にいる権利を得ている君は一体何者かな?』


「…僕が何者かは僕にもわかりません。今はこの双子にお世話になっている、ただの男です。」


本音と建前が入り交じったような台詞を僕は口にした。


『なるほど。それはさっきも聞いたけど、僕にはそんなふうに思えないけどなあ。』


僕はなんとなく、この男の慧眼に全てを見透かされているのでは無いかという気分になった。


『ねえ、ルイス。あたしたち何も考えないで飛び出して来ちゃったけど、実はケイの助成金手続きしてくるのすっかり忘れちゃってて…』


『僕にやっておけと言うんだろう?お易い御用さ。上手いこと通しておくよ。』

彼は白い歯を見せてにこっと笑った。


爽やかだ。

そして仕事もできる。

僕も、こいつに生まれればよかったのに。


『さっすがぁ!』とアルメルは煽てるように言った。


聞けば、このルイスというハンサム顔は、堅物揃いの錬金術省の人間の中で唯一この双子の味方とも言える存在のようだった。

例の17人殺しの事件の事後、カルンの街へ視察官として若かりし彼が派遣されたことに端を発していた。

双子から聴取をしたり、メンタルケアを行なったりしてくれたのがルイスだったらしい。

今回双子がトリストスでおこなう建設関連業務の日程もルイスが担当になって調整してくれていて、すでに着工はしているが、双子に任せたい部分は残して作業を進めているらしい。

到着したばかりの今日は色々と慌ただしいだろうということで、双子が現場に入るのは明朝からということにしてくれていた。

汽車の中で多少眠れたとは言え、彼女たちが疲弊しているのは明らかだったので、このはからいは実に有難いものだった。

さすがルイス。と僕も心の中でつぶやいた。


僕たちはルイスを交えて少しの間、雑多な話をして錬金術省を後にした。






『いらいらしたら、お腹すいてきた!』

アルメルが歩きながら突拍子もなく言った。


『少し早いですが、昼食にするのもいいかもしれません。』とクロメルは同意した。


「確かに朝ごはんたべてないもんなあ・・・」


『じゃあ決まりだねっ!帰り道のどこかでたべよ!』

アルメルは嬉しそうに言った。


ついさっき、怒髪が天を衝く勢いで怒鳴り散らしていたとは思えないほど、その足取りは軽快だった。

こういう切り替えの早さは僕も見習わなければならないと素直に感心した。

クロメルはというと、声を荒げるところを見たことがない。

先ほど大臣に食って掛かった時も落ち着きはらった様子だったし、やはりこの子は感情の起伏が極めて小さく見える。


『ね、ここにしない?』

アルメルは大通りに面したレストランの前で足を止め、僕らの方を振り返って言った。


『私はどこでもかまいませんよ。』


「僕も。」


『じゃあここにけってーい!』


彼女はウキウキしながら店内に入っていった。



料理が運ばれてくると、ムール貝やジビエなど、日本人の僕としてはあまり馴染みのない食材を使った料理が円形のテーブルに並んだ。

どれも洗練された印象で、とても美味しかった。

どうしても、エスカルゴだけは抵抗があって食べられなかったが…






『はー、お腹いっぱい!』

アルメルは路地を歩きながら下っ腹を掌でぽんぽんと叩きながら言った。


『アルメル!はしたないですよ。』


その時、先頭を歩くアルメルのチェスターコートのポケットから何かが地面に落ちた。


「あっ。何か落ち──」

僕が言いかけた時、近くを歩いていた男性がそのハンカチを拾い上げた。


『落としましたよ。』


ボロきれを羽織ったような薄汚れた身なりをした男がそれを彼女に手渡した。


『あ!ありがとうございます!』


すると彼はアルメルの顔を見るなり一瞬硬直して、僕たちと反対方向に走って行ってしまった。


『えっ?あれっ?あたし何かした?』


『今の方はなんだったのでしょう…』

クロメルが不思議そうに言った。


僕は、彼が立ち去る時にすれ違ったので、深々と被ったフードに隠された素顔を少しだけ見ることが出来た。


「顔にすごい火傷のある人だったよ。」


『身なりを見る限り、恐らく路上で暮らしている方なのでしょう。あんな思いやりのある方が恵まれないとは嘆かわしいことです。』


確かに都市部になれば、ああいった境遇の方は一定数いるのは仕方の無いことだ。

しかし、今の僕にはどうにも他人事に思えなかった。

自分の場合は運良くこの双子に出会えたから文化人的生活が出来ているが、そうでなければ彼のようにとても厳しい生活を余儀なくされていただろう。



今日、僕はやっと本来の意味で職に就くことが出来たということに今更気づいた。

明日からこの双子の助手としてしっかり役に立てるように頑張ろうと思った。

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