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電気オタクと錬金術  作者: 御手洗 千加志
一章
15/50

1-15 トリストス

四日目の午前中には、もう間もなく資材が到着すると連絡があり、汽車の乗客たちは身支度を整え始めていた。


そんな中、双子の強い希望で僕たちは復旧作業を手伝うことを志願し、他の乗客よりも一足早く鉄道会社陣営の連中と共に汽車へ戻った。

『これ以上手を煩わせるわけにはいかない』と、あの気がよさそうな車掌だけは最後まで食い下がったが、双子の熱意に根負けしたようだった。


そして、双子の尽力の甲斐あってか、まだ日も沈まぬうちに線路の修復は完遂された。


僕が元居た世界では考えられないほどのスピードだった。

言ってみれば、現場に部品を高精度かつ高速で製造できる3Dプリンターが複数あるようなものであり、そんな環境はこの世界でなければ在りえなかった。


さしもの双子も疲れていたが、雑用という名の肉体労働をするしかなかった僕はさらにへとへとだった。


線路が復旧する見通しが立った段階で村から乗客を移動させていたため、その日のうちにトリストスへの運行を再開できることになった。

夜間の運行になってしまうために、平素よりも運行速度を落としての走行になってしまうことは仕方がなく、トリストスへの到着は明朝ということになりそうだった。


例の六足獣の遺骸は当然のごとく腐敗が進んでいて、そのままその場に捨て置いておくことも出来たが、双子は錬金術省に届けると主張し、線路づくりで余った鋼で石棺、密封する形で貨物車両に積載した。


疲れ切った僕たちは、座席で眠りについた。

汽車は特に大きなトラブルもなく夜通し走ってトリストスへ到着したのだった。








「うわぁ。すっごい。」

駅から出た僕は辺りを見回してそう言った。


石造りの建築物がずらりと軒を連ね、木の枠をはめ込んだ観音開きの窓がいくつもある。

それらは赤色のとんがり帽子、すなわち円錐状の屋根をちょこんと頭の上に乗せている。

この街はこれまで見てきた墓石のような簡易的な建造物では及びもつかないほどに情緒と歴史に溢れていた。

道や駅の構内にはとんでもない数の人々が往来し、その身なりから感じさせる気位の高さはカルンの街とは大違いだった。

この広大なトリストスは、その中心地に巨大な運河がながれ、この土地の暮らしに大きな恵みを与えていた。

東西に走る鉄道と、南北に流れる運河の交わる場所、物流の要。



『ケイ!・・・・・ケイ!』アルメルが困った顔で僕を見ていた。


「あっ、ハイ。」


『あんまりキョロキョロしてるとおのぼりさんだってバレるよっ?』

じとっとした目で僕を見ながら彼女は言った。


『仕方ありませんよ、本当に田舎者なんですから。』

クロメルが冷めた様子で言った。


「君たちだって田舎出身だろ!」

都会人ぶりやがって、と僕は思った。


『あたしたちはもう何度も来てるからね~。』


アルメルの言葉にクロメルは目を伏せて頷いた。


『ケイ、これからあたしたちが下宿させてもらえるところへ行くからはぐれないようについてきてねっ!』


「子供扱いするなっての。」



僕たちが下宿するホテルは市街地の真っただ中にある、それはそれは立派な建物だった。

双子の話では、経営が錬金術省と契約を交わしているらしく、認可を受けた者なら空いてる客室を無償で提供するというのだ。




『おや。お嬢様方、お帰りなさいませ。』


ホテルのエントランスに立っていた、姿勢よく正装を着こなしている白髪の紳士は双子にそう言って軽く会釈をした。


「お嬢・・・様・・・?」


『あっ。アルフ!久しぶりだね!』


『アルフレット様、ご無沙汰しております。』


そう言って双子は紳士に歩み寄って挨拶をしていた。


『やや。もしや、男連れでございますか?お嬢様方もすみにおけませんな。』

紳士が僕をちらと見て双子をからかった。


『ちがう、ちがう!ケイはあたしたちの助手になるの。』


『ほう!まさかお嬢様方が助手を雇われるとは・・・それでトリストスへ手続きに来られたわけでございますね?』


『あたり~!』


紳士はコツコツと革靴のかかとを鳴らしながら僕の方へ歩み寄ってきた。


『ケイ様、ご挨拶が遅れまして大変申し訳ありません。わたくし、クロメル様とアルメル様のお世話をさせていただいております、コンシェルジュのアルフレットと申します。何かお困りのことがあればいつでもお申し付けください。』


そう言って彼は僕に深々とお辞儀をした。


「えっ、あっ、こちらこそよろしくお願いします!」


『ケイ、アルフレット様は私たちが子供のころから昇級試験や技能講習でトリストスへ来るたびにお世話になっている方です。粗相や失礼のないようにお願いしますよ。』

とクロメルは僕に釘を指した。


もともと丁寧な口調のクロメルだが『お嬢様』と言われたからか、少しそちら側に話し方を寄せていっているような気がした。

一方、対照的にアルメルはいつもと全く変化がないように見えた。


"コンシェルジュ"というのは何なのかよくわからなかったが、ホテルに宿泊している間に色々と世話を焼いてくれる執事のようなものだと理解することにした。

それからアルフレット氏は僕たちひとりひとりに部屋を用意し、ほかの従業員をともなって客室に荷物を運んでくれた。

そして、まだ顔立ちにあどけなさを残した僕を見て、助手という肩書を知ってもなお、少しも侮る様子はなく敬意をもって接してくれていると強く感じた。

やはりプロは違う。



僕は部屋でぱんぱんになった鞄を開けて、持ってきた衣服をクローゼットに一通り収納して一息ついていた。


コン、コンと部屋をノックする音が聞こえた。

扉を開けると双子が立っていて、アルメルの手には一枚の書簡が握られていた。


『ケイ、申し訳ありませんがゆっくりしている暇は無いようです。これからすぐに錬金術省の本部へ向かいます。』

クロメルはいつもより一層毅然とした態度で言った。


『実はね、錬金術省からあたしたちに出頭命令が出されてるみたいなの。』

アルメルは面倒くさそうに言った。


「出頭…?何か悪いことでもしたのか?」


僕の中の"出頭"のイメージは、悪事を冒した者が警察に自ら身柄を差し出すという行為のことだった。


『うーん。そんなはずは無いけど、なんとなく察しはついてるんだ~。』


『十中八九、()()()の件でしょうね。』


クロメルとアルメルは汽車が立ち往生した翌日に、レール補修の資材を要求するために近隣の街へ派遣されていった鉄道会社の人間に一通の封筒を託していた。

その書面には大きく分けて3つのことが記されていた。


ひとつは、トリストス行きの汽車が立ち往生してしまい到着が数日遅れてしまうことが予想されるため、勤務先と便宜を計って欲しいという内容だった。


ふたつめは、例の不可解な六足獣を検分した情報を記した報告書である。


みっつめは、線路が復旧したあかつきには六足獣の遺骸を石棺して汽車に載せてトリストスへ持ち込むので、それを搬送する手筈を整えておいて欲しいという内容だ。


錬金術関連における緊急性を要する連絡は、各地の錬金術省支部に飼われている伝書鳩によって、ここトリストスにある本部に速達されることになっていた。

そして、彼女たちが書いたものもそれに類するものだった。


以上のことを、彼女たちから僕は説明された。


『つまり、事情聴取ってところだろうねー。』


「なるほど。話をきかれるだけか。」


『厄介なことになりました。』


『はあ。また、あの年寄りの相手をしなきゃいけないのかあ…』


アルメルはひときわ大きなため息をついた。



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