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電気オタクと錬金術  作者: 御手洗 千加志
一章
13/50

1-13 残り香


僕とアルメルはクロメルの妙案に乗ることにして、彼女の指示に従って準備を進めた。



『よーし、これでどんなケモノが出てきても撃退しちゃうからなーっ!』

アルメルは手に持った金属製の杖をぶんぶん振り回していた。


『この杖を持っていけば、私たちの錬金術で状況に応じて形状変化させることで、脅威に対してある程度は抵抗できるでしょう。』とクロメル。


『そして、もしあたしたちでも手に負えないヤツが現れた場合は、ケイがあたしたちを守ってくれるってわけね!』


『そういうことです。』クロメルは自信をもって肯定した。


「なあ。ほんとにこれでいくのか・・・?」

僕は、その場でガシャンガシャンと音を立てて足踏みをしながら不満そうに言った。



その時の僕は、青銅製のすね当て、青銅製の鎧、青銅製の小手、青銅製の兜、青銅の剣を装備していた。


『それだけ武装していればケモノに飛び掛かられても一撃で死ぬことはないでしょう。もしそうなったら逆にしがみついてその剣を突き立てて、例の()()()を使ってください。』


双子は僕がエナを電気に変える力を説明した時に便宜上使った「動電気」という言葉からとって、この能力のことを"動電術"と呼ぶようになっていた。

僕からすると"導電術"のほうがしっくりくるのだけれども、細かいことは言うまい。



クロメルは金属が電流を通しやすいという性質を覚えていて、それを利用した攻防一体の電流プレートアーマー作戦を思いついたのだった。

思いついても普通はやらない、と僕は強く思った。

青銅は銅とスズの合金で、電気をよく通す。

実は非常に身近な存在で、日本貨幣の十円玉がこれにあたる。


『でもさあ、それってこないだキミが溶かした針金みたいにすぐドロドロになっちゃうんじゃないの?』とアルメルは僕に質問した。


非常に鋭い質問である。

僕が「それはね──」と言おうとした時にクロメルがその先を答えた。


『ケイの動電術で起こる熱は、その影響下にある金属の断面積が少なければ少ないほど大きくなる性質があります。つまり、針金は極細だったためにすぐに溶け落ちてしまったのです。』


『え!なんでクロメルがそんなこと知ってるの!?』とアルメルは驚愕した。


「確かに一度言ったかもしれないけど、よく覚えてたな・・・」


初めて動電術を披露したあの晩、僕のことを徹頭徹尾、質問漬けにしただけはある。


『アルメルが寝てしまっている間にケイに聞きました。』クロメルはふふんと鼻を鳴らした。


『あの時かぁー!だって眠かったんだもん・・・』


クロメルを徹頭徹尾と形容するなら、アルメルは竜頭蛇尾だな、と思い浮かんで僕はクスリと笑ってしまった。


『さて、行きましょう。()()()()()()()()()()()()。』とクロメルは出発を促した。


僕達はファーストミッションとして裏山の調査が課せられているが、セカンドミッションとして、この()()()()()()()()()()をお返しするということも必要だった。


グラウス村の外れには3メートルはあろうかという巨大な女神像が建てられていて、おそらく村民の信仰の対象になっているであろうその女神様は、彼女にとって不運なことに青銅製で出来ていた。

双子が持っていく金属製の杖も、僕のプレートアーマーも全て青銅製で、僕たちが彼女から授かった恩恵とはまさしくこの青銅だった。


クロメル女史はこの女神様の内側から青銅を拝借して僕らの装備を整えたのだった。

スカスカになってしまった女神様のためにもかならずミッションを達成させなければならない、そう誓って僕達は森へ出発した。




重い。とにかく重い。

材料不足なこともあり、クロメルはこの装備をかなり軽量に作ってくれてはいたが、それでも重い。

これよりともっと重いであろう装備を身につけて、遠征したり、闘ったりしていた旧時代の兵士たちは相当に鍛えられた身体を持っていたのだろう。


僕は置いていかれたくなかったので、先頭を歩くことを志願した。




宿からそう離れていないこともあり、例の兎はすぐに見つかった。

僕とクロメルがその場を離れてまもなくその兎は死んでしまったらしい。


『うえ~っ。気持ち悪うぅ。』と、その(むくろ)を見たアルメルはたじろいだ。


『この兎はこの道の右手の林の方から這い出してきました。そうでしたよね、ケイ?』


「うん。間違いないよ。」


最早、道と呼べるものは足元にはなかったが、僕達は足元に茂る草を杖と剣でかき分けて林の奥へと進んで行った。

僕を先頭に小道を縦列で歩いてきた時から薄々感じてはいたが、某有名RPGみたいだな、と思った。




ある場所で不意に、カーンという金属同士が衝突する音が響いた。


「止まって!」

僕はとっさに双子に歩みを止めさせた。


罠だった。

金属音は僕の足元から聞こえていたし、嫌な振動が身体に伝わってきていたからすぐ察しがついた。

野生動物を捕獲するために仕掛けられた金属製のトラバサミに右足をやられたようだ。


僕は真後ろをついてきていたアルメルに、ゆっくりしゃがんで僕の右足を見て欲しいと頼んだ。


『ケイ!大丈夫!?』

僕が罠にかかったことに気づいたアルメルが大きな声を出した。


それを聞き付け、最後尾を歩いていたクロメルも僕の足元を覗き込んだ。


「アルメル、悪いんだけどこれを錬金術で外せないかな?」


『すぐ外したげるから待ってて!』


アルメルは手早く錬金術でトラバサミの仕掛けを分解した。


「ありがとう、脚はなんとか無事みたいだ。」


金属製のトラバサミは大型の野生動物用のもので、すね当てに食らいついたために僕自身は無傷で済んでいた。

正直気が進まなかった電流プレートアーマー作戦だったが、これが無ければ僕は今頃右脚のすねから下を失っていたかもしれない。

この加護を授けてくれたもう1人の女神様は、僕の無事を確認し、最後尾でホッと胸を撫で下ろしている様子だった。


「2人とも聞いてくれ。」と僕は切り出した。


僕はたまたま助かったが、こんな罠に後ろの双子がかかってしまえばひとたまりもない。


「ここから先は僕が歩いた場所以外は絶対に歩かないで欲しい。」


『はい!』

2人は声を揃えて返事をした。


それから僕はアルメルに2つのお願いをした。


ひとつは足首まできっちりガードできる形に、すね当ての形状を少し錬金術で変えてもらうこと。


もうひとつは、今僕がかかった罠を錬金術で、先の尖った細長いポールに錬成してもらうこと。


前者は僕の脚を確実に罠から守るため。

後者は罠のあった位置にそのポールを立てて、ある程度遠くからでも見えるようにするためだ。

罠を打つ者の気持ちになって考えればすぐ近くに別の罠を仕掛けたりはしないだろうと推測し、そのポール付近を比較的に安全な地帯としての目印にしたかった。

それにしても今更ながら錬金術とは便利なものだ。

不測の事態にもこうして柔軟に対応出来る。



幸い、それから僕たちが罠にかかることは一度もなかった。

しかし、作動する前に見つけた罠の数は4つにものぼり、その度に例のポールを立てて僕達は歩を進めた。

普通にまっすぐ進んだだけでこれだけの数の罠が仕掛けられているんだから、恐らくもっと大量に置かれているに違いない。



僕達はすっかり深い森の中に足を踏み入れていた。

暫く歩くと木々が少なく、ある程度拓けた場所に出くわした。


そして、先頭を歩いていた僕は双子に言った。

「多分ここだ。」


その空間は背の低い雑草などもあまり生えていなかったため、先程のようなトラバサミは無さそうだった。

しかし、安全そうな場所かと言えば全然全くそんなことはなかった。

むしろこの世で一番危険な場所では無いのかと、地獄にでも迷い込んだのかという様相だった。


まず、辺り一面に飛び散ったおびただしい血痕。

引きちぎられたような、野生動物の死骸。

それらは既に腐敗が始まっていて、辺りに大量のハエが飛び回っていた。

捕獲した野生動物を入れておく為の簡易的な檻がいくつか放置され、岩石を集めて小さな住処を錬金術で作って壊した痕跡、焚き火の跡などが見つかった。


『ひどい。誰がこんなことを…』

アルメルが酷く傷ついた様子でこぼした。


『二人とも、こちらに来てください!』

クロメルが叫んだ。


「うっ・・・!!」

僕は込み上げる吐き気を必死に堪えた。


『ウソでしょ・・・』

アルメルは口に両手を当てる仕草をして顔を背けた。





そこへ転がっていたのは、その他の動物達と同じように腐敗が始まっている、熊の腹から下と、馬の首だった。



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