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夢埠頭2  作者: 平田俊彦
夢埠頭2
1/1

夢埠頭2

ー1-

海から吹き込む風が心地よい、田原功介は倉庫裏の空き地で、担当車のエルフ2tを洗車している。

ADIDASのTシャツに作業ズボン、175cmの功介は長い手足で、

洗剤付きのブラシと水が吹き出すホースを巧みに操り、くまなく汚れを落としていく。

いつもの素早い動きだが、能天気な日焼けした顔が、今日は少し硬い。

水洗いが終わりフロントガラスから拭き取りを始めると、全身から汗が吹き出してくる

トラックの音が聞こえてきた。

一年後輩の武井亜美21才が、アトラス2tで入庫して来る、看護師の勉強をしながらトラックドライバーをしている関西娘だ。運転席から滑り降りた亜美はNIKEのスポーッウェアーに作業ズボン

、スリムで長身に見えるが功介より10cm低い。

真面目な顔をして功介の所まで来ると「すいませんでした。」と栗色のショートヘアーの頭を下げた。「やっちまったらしいな。」首にかけたタオルで、汗を拭きながら功介が笑う。

二人でアトラスの左側まで来てしゃがみ込んだ、功介はタバコをくわえたまま、

ひしゃげた前輪泥除けと曲がったバッテリーを覗き込む。「頭は抜けてたんだな。」

事故箇所を見ながら亜美が、

「横から一時停止せんと飛び出してきよったからなー。」川崎市中原区の配達帰り、

亜美の運転するアトラス2tが、信号機の無い交差点を通過する際、

一時停止を無視して、遊び帰りの学生達が乗っていた、赤いVOLVOが左側に衝突した。

功介は事故処理とアトラスの修理を社長の寺田に頼まれて残っていたのだ。

「社長はおらへんの。」二人して事務所に向かう「おやじは家庭と酒が大好きだから5時になったら、とっとと帰ったさ、事故係は俺だと。」亜美は事務所に2つしかない机に座りながら

「怒られる思って、ドキドキしながら帰ってきたんよ。」功介が亜美の前に事故報告書とファイルを置いた「やっちまった事はしょうが無いって人だからな、早く処理と修理して

、仕事に支障無いようにする、で、二度とやんねー事だ。」

落ち込んていた亜美に妙に頼もしい功介だった。

「このファイルはなんな。」ちょっと照れる感じで「それは過去に先輩とか俺が書いた事故報告書、似たようなのを見本にして書いたらいい、頑張れ。」優しく言うとタオル片手に事務所を出て行く

功介、多分シャワーを浴びに行ったに違いない。亜美は関西から来て寺田商事に入り三年、

大きな事故は初めてだった、それにこの事故の相手、贅肉の太りの学生が言った

「なんだよ女の運ちゃんかよ。」馬鹿にした態度、その後のニヤけた顔が気しょく悪く

印象に残っている。

事故報告書を書き終えバージニアスリムライトを吸っていると功介が戻ってきた、

短く逆立った頭をタオルで拭いている、白いポロシャツに着替えていて、

黒い顔に似合いすぎている。

「出来たか、よしゃ。」冷蔵庫から缶ビールを出しプルトップを引いた、報告書を確認すると、

ビール片手にFAXを送る。「これで事故処理は保険会社がやってくれる、アトラスは俺が今日

修理屋に放り込んで、月曜日に乗って来る、土日休んで、仕事に支障なしだ。」

美味そうにスーパードライを飲み干した。「そんな悪いわ、私のせいなんに。」タバコを消しながら立ち上がる亜美

「いいって、修理屋は鈴ヶ森だ、うちからすぐだぜ。」大森海岸に住んでいる功介は顔見知りだ。

しかしお互い譲らず結局二人で行く事になり、単車通勤の亜美を功介が拾いに行く

「シャッター閉めるから先にどうぞ、市場中の所で待っててなな。」

鶴見市場に住んでいる亜美が先に、車庫からHONDA DIOで飛び出して行く、

功介に向け左手の親指を立てる。

ー2-

アトラス2tを倉庫から出しシャッターを下ろす、大黒埠頭の黄昏時が闇に包まれて行く、

功介の好きな瞬間だ。NIKEのジャンパーをはおり、ドライバーズシートに乗り込むと、

バージニアスリムライトに火を付ける、イグニッションを捻りアイドリングの音を確かめて

クラッチつなぐ。

衝突事故を起こしたアトラスだが、足回りは大丈夫そうだ。首都高5号線の桁下を走り、

産業道路の取り付け超えR15を右に巻く、鶴見川超えた路地を左折すると市場中が見えてくる。

待ち合わせの場所に行くとスリムなOLふうな女性が立っていた。ブルーのサマーシャツに

ベージュのミニタイト、ポーチ片手にローパンプスで走り寄って来る。

「なに、これが亜美かよ」

初めて見る女らしい服装に「スカートってか」トラックの中、一人で声に出してつぶやいた。

いつもの様にサイドシートに乗る亜美「功介さんゴメンな、修理屋さんにも挨拶したいしな、

土日に動いてくれるんやろ。」スカートから伸びたストッキングに包まれた足が気になる功介。

胸ポケットからCDを出しカーナビに差し込む、スティービーワンダー「可愛いアイシャ」

が車内に流れ出した。何とか自分を取り戻しクラッチをつなぎハンドルを切た。

細い路地からR15に出ると、

思ったより渋滞も無くスムーズに走れるようだ。六郷橋を渡り、環八を超え、平和島の高架橋で

環七をまたげば、首都高鈴ヶ森入口が右手に見えてくる、修理工場「虎ノ間」は

二個の先の信号を左折した所だ。工場の入口をバック入り、アトラスの両ドアから功介、

亜美が降りると事務所から、

カメラ片手に所長の山口がでてきた。「所長、すいません、また土日でお願いします。」

功介と亜美が頭を下げる「かまわんよ、寺田さんのトラックは全部うちで買ってもらってるからな。」所長は左側の事故箇所にカメラをむける。「優先道路で横から突かれたんだよな、

8:2か9:1かな、保険使わん方が良いかもな。」うなずく功介「赤いVOLVO乗った遊び帰りのおぼっちゃま学生だって、俺だったらブッ飛ばしてるよ。」ポラロイドカメラから出した写真3枚をカウンターに並べる所長。「功ちゃんじゃなくて良かったよ、まあ任しな明日の晩までには上げとくよ、

日曜は休んでプレーさ。」カメラをゴルフクラブ代りにスイングする所長に

、手形を切る功介、軽く頭を下げる亜美、二人は「虎の間」を後にした。

肩を並べて京急線沿いを大森海岸駅に向かい歩いていた時。「功介さん、お礼におごらしてくれへんか。」照れを隠す功介「お、武井のおごりか、よしよし。」大森海岸駅から徒歩5分の所にあるjazzbar「door」は生バンド演奏も入る功介のお気に入りだ。店の窓側ボックス席に向かい合わせ、

功介はウォッカトニック、亜美はソルティードッグで乾杯した、ツマミは生ハム、チーズ、

手詰めソーセージだ。

バージニアスリムライトに火を付けた功介が口を開いた「武井、学校は?」

フォーク片手に亜美が。「あ、看護学校なあ、後1年ぐらいかな。」

ウォッカトニックを飲み干した功介、おかわりを頼んだ。「なんで看護師を?」

一瞬考える顔をした亜美だが笑顔にもどって。「お母ちゃんが看護助手でな、休みも取らず遅くまで働いとった、看護師の勉強してたけど無理してたからなあ。」

目を伏せて死んだ母の事を語る亜美、グラスを右手に持ったまま、氷は溶けてしまっている。功介はソルティードックのお代わりを頼んでやる。

「お母さんのリベンジつう、わけだ、親父さんは?」気がついてグラスを空けた亜美。

「お母ちゃんの影響やろうな、お父ちゃんは競馬狂いで酒飲みで借金して、家に寄り付かんかったわ。」

母親が死んでから家に戻った、父親との中が上手く行かず、高校を卒業すると関東に来た亜美、

2才下の妹は親戚に預けられた。フォークで刺したウインナーを口に運ぼうとした功介、

店のウィンドウの前を走る、グレイのフレアスーツの女性、何か叫んでいる、

右手にポーチを持ち裸足だ。

その後ろを若い男二人が追いかけている、長髪の男はブルーのアロハに白いスラックス、

刈り上げ男は赤いTシャツにGパンだ。「それはまずいだろう!」立ち上がった功介、伝票ホルダーに一万円札を挟み駆け出した。「あかんわ!」ソルティードッグを一気飲みして追いかける亜美、

店の裏の公園の所で功介に追いつき、目で合図を送る。

ー3-

暗い街灯に照らされた裏通り、功介は後ろにいたTシャツ男の頸部に肘打ちを叩き込む、

公園の植え込みに横倒しにすると、みぞうちを蹴りつけた。その時アロハが、女性の上着の襟首をつかみ、

引きずり倒した、馬乗りになり、殴りつけようと構えた顔面に、「何しょんの!」と、

スラリと伸びた亜美のボレーキックが入る。(スゲーェ!)一瞬、美脚に見とれた功介だが、

アロハの胸ぐらを掴みあげワンツーを叩き込む。「お前ら二人がかりで、痴漢か?」

戦力を失ったアロハに聞くが、首を横に振るだけで返事をしない。その時公園反対側の、

一方通行で急ブレーキの音がした、赤いVOLVOが止まり3人の男がバラバラにこちらに駈けて来る、

ガリガリのノッポとチビと大柄なデブだ。

「いくぞ!」女性の肩を支えている亜美に叫ぶ、(いくらガキでも5人に増えたら危険だ)。

功介は走り出す、ついてくる亜美と女性の様子を見ながらだ。「見た、あのVOLVO。」

後ろから亜美が囁く、右に左に曲がりながら功介、「赤いのなあ、まさか事故の車とか。」

亜美がうなずく、ジグザグに駅前に出る、まだ追手は来ていないようだ。

運良くバスターミナルにビックファン行きのバスが止まっていた。「よし、あれだ。」

功介が小声で言う、目で合図をして亜美は、女性の手を引き3人でバスに滑り込む。

「おー功介。」運転席には、カンナで削いだようなアスリート顔の名波がいた。

「あ、先輩、3人頼みます。」功介に頷く名波、車内には他に客が居ない、裸足の女性と功介の顔を見ながら。「トラブルか?どこでだ?」と聞いてきた。名波の感の良さに頭が下がる功介。

「ベルポートの裏の辺です。」左手の親指を立てた名波の声が、「発車します。」

と車外に流れると、ドアが閉まりバスが走り出す。「3人とも伏せて。」名波が言った後、

車内灯が消え真っ暗になった。前方に光る停名表示が回送に変わる、あっけに取られる功介達に。「安心しろよ、直行バスは客が居なきゃあ、回送になるんだ。」暗い運転席で、

たくましい腕がハンドルを切っていく、バスはコースを外れ大森銀座の方向に進んで行る。

「いつもすいません。」闇の中、感心する功介の声がする、名波には族の時代、

何度か世話になり、今も交流が有る。八幡通りに曲がって緩やかに走るバス、

街灯に照らされた運転席の大きな影が言う「相手は何人だ?オレこれがラストランだぞ。」

仕事が終わり、やる気になっている名波に、功介がいきさつを話す、女性を追いかけて来た2人の男達を、やっつけた所に車で応援が来て、相手は5人全員学生風「そいつら巻いて、

駅前で拾って貰ったから、まだ何も分かんないですよ。」R15から平和島入口を左折してクワハウスに入ると3人を降ろして、バスはUターンしハザードをたいて走り去った。

亜美が下を向いている女性を連れ二階にいく時に「あのひと、男ぽい人やね。」

と言った。ドンキホーテに向かう功介、足を止めて。

「あれはゴルゴだぞ!」何故だか亜美が他の男に好意を持つと面白くない功介、

名波のあだ名を叫んで、店に入っていく。(なんか怒っとうし。)亜美は苦笑いした後、

喫煙所のベンチに並んで腰掛け、バージニアスリムライトに火を付けた。

「ちょっとは落ち着いたん、ここなら大丈夫やから、

話してみたら。」うなずいた女性、亜美にすがるような視線で「アイツ等、弟の友達なの、

あたしもタバコ貰えますか。」驚いた亜美、「なんでなん」

と言いながらバージニアスリムライトに、火を付けてあげた、女性が話し出す。「

私は中嶋多恵子、弟の新時がここんとこ何日も外泊して、

お父さんもお母さんも心配してたから、私、自分の仕事終わってから、分かる範囲、

新時の友達の家を回って、心当たりを聞いて歩いたの。」一日1軒ずつ今日で五日目だと言う、

「あんた、偉いなあ。」微笑みながら、様子を伺う亜美。「それで今日

、釜田って子の家に行ったら、二階がたまり場みたいで話し声がしてて

、玄関に出てきた山本君に新時の事、

最近見てないって聞いたら、様子がおかしくなって俯いて、下を向いて、

そのとき靴だらけの玄関に、新時の履いてた靴を見つけたの。新時は何処なのって問い詰めていると、二階から贅肉太りの釜田がドカドカ降りてきて「俺を疑うのか、このやろうって」

顔とお腹殴られて、しゃがみこんだ所を担がれて、二階に連れ込まれ手足押さえつけられて犯された。」話しているうちに目じりに涙がたまっている多恵子、

それを聞いていて指先に力が入り吸いかけの、バージニアスリムライトを

折ってしまった亜美。「まって釜田ってVOLVOに乗ったデブよね、それであいつ等、皆なん?」涙をごまか

タバコの灰を落としながら多恵子「贅肉のブタだけよ、手足押さえてた子らは

、命令聞いてるだけみたいで、目つぶってる子もいた。」トイレに行くと一階に降りたときに、隙を見て逃げ出した、ドアの音に気がついて追って来たようだ。「おまたせ。」

両手にレジ袋を抱えて、くわえタバコの功介が歩いてくる。二人にスーパードライを配り

、多恵子にASICSのジャケットをはおらせ、足元にミュールを揃えてやる。

「話はしたの?」

プルトップ引く功介、小さいレジ袋を多恵子に渡す。亜美がうなずき多恵子と同時にプルトップを引いた。「うちの事故とかぶってるみたいなんよ。」あと多恵子に聞いた話は功介の耳元で囁いた。

三人で五分も話さないうちに名波が自転車で現れた、スーパードライを差し出す功介が事の流れを話す、少しずつ名波の顔がゴルゴに変わっていく。

-4-

「そのブタは大森町か、弟の無事優先で、多恵子ちゃんの怨みはその後はらす。」

名波は言うと、

350缶を一気に飲み干し握り潰した。残りの三人も立ち上がり空き缶をゴミ箱に捨てる

、多恵子は自宅に連絡を入れて鶴見市場の亜美の所に泊まる事になった。

「連絡入れるから、気をつけてな。」タクシーを止めて亜美と多恵子を乗り込ませ、親指を立てる功介。「行くぞ。」

自転車に跨り怒鳴る名波、「エ、コレ」呆気にとられている功介「早く乗れ。

」功介が乗ると徐々にスピードが上がっていく、事故報告書の住所を思い出しながらスマホのマップで場所を探る。

「R15と鬼足袋線の間ですね。」二人乗りの自転車は物凄いスピードで走っていく、

大森町商店街のコンビニの横の路地を入った所に釜田の家があった。

降り立った功介と名波、空きの駐車場、玄関、窓をさり気無く探った、まだ9時を少し回った所、人通りはまばらだ。

「俺、二階見てきます。」うなずいた名波だが、台所の窓に嵌る鉄格子を揺すぶり始めた。

「小さい事からコツコツとな。」功介は通行人が途切れるを待ち二階の屋根に上がった、

影に入れば通行人からは見られない、下では住人を装った名波が鉄格子を揺する音と時折、

ビシッと変な音がする、三箇所の窓を調べて下に降りると、名波が鉄格子を外すのが同時だった。「ギェ、それ器物破損って言うか。」人通りが切れた所で右上の小窓を、名波が肘打ちで割った

、右手を突っ込んで鍵を空ける。「功介頼むわ、俺、鉄格子直しとくから。

」功介が窓から滑り込むと、鉄格子がはめられネジが指で刺されていく。(恐ろしい、ジェイソンかつうの。)

玄関に回って扉を開ける、作業を終わった名波が立っていた、肩と腕の筋肉が異常に張っている、

功介は無言で家中の電気を点けて回った。「一階は何も無いようですね、二階になんか有ればいいけど。」二人で二階の扉を空けると。「んー、ハーブとマリファナだな。」名波が嫌な顔をした、

窓際を探っていた功介、カーテンの後ろ幾つもの鉢を見つける。「鉢植えが有るから栽培してたんかな?」押入れ、本棚、机、変わった物は何も無い。「行こう,だけどこいつ等

、何処行ったんだ。」不機嫌そうに階段を降りていく、電気を消しながら功介も続いて、

玄関を閉める時に表札の横に産業廃棄物 釜田実業の看板を見つけた。

「あ、待ってよベルポート裏の暗闇で亜美に気が付がついていたら、ヤバイ、

事故報告書有れば、マンションばれるよな。」うなずいた名波はもう自転車に乗っている、

功介が跨ると走り出した、何度か亜美の携帯を呼び出し「名波さん、ダメだオレやっちまったかな。」二人乗りの自転車はR15を爆走、六郷橋を渡り旧東海道に入る、

さすがの名波も少し息が切れている。「大丈夫だ、釜田実業調べてみろ。」川崎警察の前を通り八丁畷の踏み切りを通れば鶴見市場だ、功介はスマホのネットで釜田実業を調べている、市場中学校を回り込んで亜美のマンションにつく手前、功介が飛び降りた。「あ、これ」落ちていたバージニアスリムライトを拾った、

その先に「door」のライター、マンションの入り口にはHONDA DIOの鍵が落ちている。

「亜美のサインだ、間に合わなかった、

釜田実業は大森町が本社、工場は多摩川沿いのガス橋の近くに1コだけです。」

功介は駐輪場に止めてあった亜美のDIOを出してエンジンキーを差し込む。

「2ケツで行きますか?」首を横にふる名波「すぐに追いつく、お前だけのせいじゃないぞ。」うなずいた功介、セルを回すとDIOに飛び乗り、

加速しながらアウトインアウトで路地を曲がっていく、旧国道の直線に出て、いつまでも鳴り響くフルスロットルのエンジン音は悲鳴のように聞こえた。

-5-

「押さえろって言ってんだろう。」贅肉太りの釜田が怒鳴っている、上着とズボンを脱いでいるが、腹の脂肪でパンツが半分隠れている、目の前にいる亜美に手が出せないのに苛立っている。

もう10分も立っている、アロハと赤シャツが亜美の両手をPPバンドで後ろ手で縛り、服を抜がせようとした時から暴れだした。ミニタイトは脱がされ、サマーシャツとストッキングはビリビリだが、動かせる足で転がり、蹴りつけ抵抗している。ノッポとチビは多恵子をPPバンドで縛ろうとし、

要領が悪く悪戦苦闘している。国道から離れた川沿いの、釜田実業ガス橋工場は、

近くに民家も無く多少の物音など気ずく者はいない。釜田が目で合図をして、

3人で亜美を押さえつけた時、バイクのエンジン音が表で止まった。

工場の周りは3m程の入り口を除いてコンクリート塀で囲まれている、右側にVOLVOが突っ込んである。DIOを降りた功介、建物の入り口付近には廃材や木片などが転がっている、

目に付いた角材を片手に正面のドアを開けた。目に入った光景に巧介の怒りが爆発した、

亜美の左足を押さえていたアロハの顎を思い切り蹴飛ばし、

左足を持ちのしかろうとしてた釜田の後頭部を角材で殴りつける。

首を押さえていた赤シャツの顔面を角材で打ちつけると、後ろにいたノッポとチビが左から応援に来る。功介は素早く亜美の後ろ手のPPバンドをカッターで切り、作業服の上着を肩に掛けた。

その時だった、窓と窓枠をぶち破りドラム缶が飛び込んできた、ノッポの側頭部に当たり壁まで吹っ飛ばした。力を失ったドラムカンはチビの足の上に落ち「ギク」と嫌な音がし転がった。

驚いた功介(ドラム缶かよ)赤シャツの喉を蹴飛ばし、アロハのみぞうちを踏みつけ、

角材を握り直しのびている釜田めがけて振り上げたところで、腕をつかまれ我に帰った。

「あかんよ、それ以上は、死んじゃうよ。」振り向くとミニタイトを履き、

功介の作業服を羽織った亜美だった。「すまない酷い目合わせて、大事なもん守れない奴って最低だよな。」功介が角材を下ろし亜美が受け取とる。

「バタン」とドアが開き、大股で名波が入ってきた。「間に合ったみたいだな、功介、後は俺にまかせて後かたずけしてくれ。」ニヒルに笑うと足を押さえて転がっているチビに横蹴りを食らわし、

アロハ、赤シャツにとどめの膝蹴りだ。功介と亜美は多恵子の所に行きPPバンドを外し、

三人で奥にある川沿いの部屋のドアを開けた、むっとする草の匂い、

部屋中プランタンだらけの日当たりの良い部屋、奥には足カセでチェーンに繋がれた新時が

全裸で転がっていた。

「大丈夫か?」功介が抱き起こすと、焦点の合わない目でうなずいた。様子がおかしいのにきずいた功助「おまえ葉っぱ吸いながら葉っぱの栽培か?」アザだらけの顔で新時が呟くように言う

「枯らしたら殴れる、葉っぱ吸ってれば痛くないよ。」よく見ると体じゅう痣とタバコの火傷の後が有る。「わかった。」そう言って功介は携帯武史に連絡を取りながら、入り口に有った工具箱から、

鉄鋸を持ってきて足カセを切りだした。亜美と多恵子は濡れタオルで顔と体を拭き、

探してきた新時の服を着せている。釜田と仲間たち4人PPバンドで縛り上げ、

新時を葉っぱ部屋から連れて出した、

5分ほどすると今田組若頭の武史がベンツ2台とハイエースでかけ付けた、12時を回っている。

ネイビーストライプのスーツを着て後ろに5人狂犬のような連中を連れている。

「功介ご苦労さん、後はうちに任してくれるんだな、、きっちりとやらしてもらうよ。」

武史は功介と名波と握手してから、亜美と多恵子とハグして座っている釜田の、顔面を思い切り蹴飛ばすと、狂犬に指示して釜田たち5人をハイエース詰め込んだ「「皆さんは埠頭に送るから単車もチャリ積んでくし。」それぞれ2台のベンツ乗り込み、功介は武史の隣に座っていた。

「とんでもない学生が居たもんだな。」武史が呟く「亜美も危なかったよ。」

功介は2本のバージニアスリムライトに火をつけて1本を武史の口に押し込む。

「今、青木後組長が釜田の処分を考えてる、30分もすれば埠頭倉庫来るよ。

「なるほど。」功介言った時は倉庫に付いていた、ベンツは倉庫の入口左右に止まり警備体制を取り、組員は車内で待機している。「事務所のソファー出そうや」功介が名波と動き出す、新時も手伝う、亜美と多恵子は台所にいた。「多恵子ちゃん嫌なことは早う忘れてな。」意外に明るい多恵子「デブで油ぽくて臭くて小さく、あたしも初めてじゃあ無いから痛そうにしたら直ぐに終わったわ。」あっけに取られる亜美。「亜美ちゃんよく頑張ったよね、功介さん来るまで。」亜美が笑顔で「あん時な、功介さん来た思ってお腹へこめたよ。」焦り顔の多恵子「あの時裸同然だったのに。」「だからよ。」亜美と多恵子の笑い声が聞こえる、ほとんど、音もなくベンツsカスタムがバックでシャッター下をくぐって来た。運転席からいかつい男が降り後部座席のドアを開ける。

「やあ、、久しぶり功介、名波ちゃんもいるんだ。」後部座席から異常に肩幅が広いシルバージャケットの青木後組長が降り立った。「わざわざどうもありがとうございます。」

功介がソファーおすすめる、ティーブルの上にはビールとつまみがのっている。

ビールを一口飲んだ青木「大森町の家はうちの組で使わしてもらう、ガス橋の工場は縄張りが違うから平間組に譲る、後被害にあった多恵子兄弟にはお見舞金を出そう、あの餓鬼どもは東京には入れないから大丈夫だ。」青木は胸ポケから封筒を出して多恵子に渡す、ビールを飲み干して立ち上がる「功介早くうち来いよ、名波ちゃん、もう札作って有るからな、」功介と名波がイヤイヤのてを振り頭を下げるとベンツsカスタムは、音もなく消えていく。「じゃあ俺も帰るぞ、もういいよな。」

名波がチャリにまたがる、亜美と多恵子が手を振っている「ありがとうございました。」

功介も頭を下げる。名波が親指を立てて走り出す、横にいた亜美が功介を見つめる。「大切なものってなに?」笑顔の功介はビールを置いて。「ごめん」と亜美を抱きしめた。

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