はじめて
今日は投稿休むと言ったな。あれは嘘だ。
ルーナはやはり見られると恥ずかしいのか、俺が声をかけると顔を真っ赤にしながら少しそわそわしている。
具体的には耳がぱたぱたしてしっぽが右へ左へ揺れている。
その姿を見るとなんだか非常に申し訳ない気持ちにもなるのだが、俺が自分で考えて分かることはもうないように思えたので、ルーナにこの世界について色々教えてもらわなければならない。
俺のいる方が風下で、さっきから少し煙たかった。普通にそこにいるだけならまだ我慢できるのだが、ちゃんと話をするとなると違ってくる。
なので少しずれて、先程までよりルーナの近くに座った。
「あ、あ、あぅ…」
俺が近寄った瞬間、ルーナは今にも泣き出しそうな顔で俯いてしまった。
あ、あれぇ…?これって俺、もしかしなくてもすごく怖がられてるよなぁ。
確かに、少ししか話してないが、ルーナからはかなり大人しくて控えめな印象を受けるし、多分歳も俺より少し下くらいだろう。いくら人畜無害が服を着て歩いているような俺でも、会ったばかりで、なおかつルーナの今の格好では怖がられて当然かもしれない。
勝手な想像にはなるが、ルーナの格好や先程の出来事から察するに男性に対して(というか人間に対して)そもそもいい心象を抱いていないのでは無いだろうか。
どうしたものか…
「あっ、あの、で、できれば、やさしく、おねがい、します」
意を決したようにルーナは言う。
「え…?う、うん?」
「わ、わたし、はじめて、、なので」
「はじめて…?」
何だろう、何だかとても勘違いされているような気がする。
やさしく…?はじめて…?
うーん………?
「って、違う違う!!そんな事しないよ!」
「ふぇ…?」
「あぁ、ごめんごめん、俺、普段妹とくらいしか話さないから、分かりづらい話し方しちゃったね」
「こ、こちらこそ、ごめん、なさい。てっきりそういうことされる、かと」
とても気まずい沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、意外にもルーナのくすっとした笑い声だった。
「くすっ、ナギさん、ふしぎな、ひと」
「そ、そうかな?」
「きゅうに、おそら、から、ふってくる、し、おめしもの、も、かわってる。ナギさんは、やっぱり、*****から、きた?」
「その何とかっていうのはわからないんだけど、多分近いとこなんだと思う。だから、その*****?の事、知ってたら教えて欲しいんだ」
ルーナは図らずもこちらの聞きたいことを逆に聞いてくれた。
やはり発音が難しいので上手く伝わったか分からないが、聞いた感じでは、他の言葉のよりは発音が日本語よりというか、かろうじて真似できそうな感じだった。
ルーナのたどたどしい日本語もだいぶ聞き慣れてきた。もうちょっと円滑なコミュニケーションができそうだ。
「*****はナギさんや私のような、髪と瞳が夜に染った人達のいる国です。*****の東の果てにあって、とても閉鎖的な暮らしをしていると言われています。私のおばあちゃんやお母さんは*****の出身ですが、私自身は*****には行ったことがありません。なので、あんまり詳しいことはわからないです。ごめんなさい。あっ、でもナギさんの話してる言葉は、おばあちゃんとは少し違いますけど、*****語だと思います!」
なるほど。おそらくどっかの東の果てとか言ってたところがこの世界の名前で、やはり*****とは、この世界における日本に位置していそうだ。
「そっか、なるほど、ありがとう」
「い、いえ、あんまり詳しくなくて…」
「ううん、俺よりは随分詳しいみたいだから、助かるよ。というか俺はここら辺についてなんにも知らないんだ」
「ナギさんは何故ここに?」
「あー、ごめん、それもよく分からない」
「迷子ですか?」
「迷子…。確かに迷子といえば迷子なんだけど…。ちょっと事情があると言いますか…。さすがにこの歳にもなって迷子は嫌だなぁ」
「ナギさんはおいくつなんですか?」
「ん?18だけど?」
「えっ!私より2つも歳上なんですか!?…てっきり私より幼いかと思ってました…」
「あぁ…。よく言われるよ。という事はルーナは16歳か。こっちはおおよそ想像通りかな」
「うぅ、なんかより恥ずかしくなってきました…」
「…なるべく見ないようにしてるから許してください」
「だ、大丈夫です!それにナギさんになら…」
語尾はよく聞き取れなかったが、許してくれそうだ。
ルーナにはまだまだ教えてもらいたいことが沢山ある。
そう、例えば
「ルーナ、レベルとか熟練度とかステータスとかスキルみたいな言葉に聞き覚えない?」
そう、この辺りの有無についてだ。
俺はどうするにしてもしばらくこの世界にいないといけない。
ここはどう考えても俺が生きてきた現代日本よりは幾分か危険なところだと思って間違いないだろう。
現にあの男にはぶっ飛ばされたし…
武術の経験といえば中学の体育でやった剣道くらいなのでほぼ無いと言っていいし、まともな喧嘩すらした事ない俺には厳しい世界だろう。
そこで、この世界にレベルやスキル等の異世界お約束の概念が存在していれば、多分俺もその恩恵を受けられると思う。というかそうであって欲しい。
「ごめんなさい…。そう言ったものは聞いたことないです」
「そっかぁ…」
これは厳しいことになりそうだ。
「あっ、でも街に行けば知ってる方はいるかもしれないですよ!」
「街か…」
そりゃあるよね、街くらい。
ルーナを放っておくわけにはいかないし、俺も言葉がわからないのはとても困るので一緒にきてもらおうと思うのだが、それには色々と問題がありそうだ。
さて、どうしたもんかなぁ…。
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