温かさ
ゆらゆらと揺れている焚き火を見ていると、おばあちゃんのお家を思い出します。
ここは森の中なので、おばあちゃんの作ってくれたシチューのいい匂いも、おばあちゃんの安心出来る温もりもないですが。
それでもレイブ様の所にいる時よりは随分マシです。
毎日のように殴られたり蹴られたり、酷いことをいっぱいされました。
何より時折彼のお客さんが来て、私をあのおぞましい目で見つめる際には、いつも体が強ばって、自然と涙が零れてしまいます。
毎日逃げ出したくて逃げ出したくて、たまりませんでした。
私の元いた村でも、私は厄介者で、皆から嫌われていましたが、少なくとも私に直接手を出してくる人はいません。
あんなに嫌だった村でさえ、帰りたくて仕方がなかったです。
その日は、いつものようにお客さんが来ましたが、少し様子が違いました。
いつも以上にレイブ様はご機嫌で、お客さんに愛想のいい笑顔を浮かべているのです。
どうやらそのお客さんは私を買いに来たようでした。
チラチラとこちらを見るその視線に、私はいつも以上の恐怖と絶望を感じました。
お客さんに買われた子達がどうなるのかは、他の子達によく聞かされていたからです。
また明日迎えに来ると、私に向かってお客さんが言った途端、泣いてしまって、レイブは私を怒鳴りつけました。
もう限界でした。
その夜、身請けのために体を清めることになり、外の井戸に連れていかれました。
そして私は、レイブ様の見ていない隙を見計らって逃げ出しました。
いつも以上にボロボロの薄着で靴も履いていませんでしたが、気にしている余裕はありませんでした。
運良くその日は月のない日でしたが、それでもレイブ様はすぐに私を追いかけてきました。
捕まった時には目の前が真っ白になって、もうだめだと、私の人生はここで終わりなんだと覚悟しました。
しかし実際は、そうはなりませんでした。
「ルーナ?大丈夫?さっきからぼーっとしてるけど」
「あ、はい!大丈夫!です!」
そう、今私の目の前にいる、私やおばあちゃんと同じ髪や瞳を持ち、おばあちゃんと同じ言葉を話すナギさん。
彼が私を絶望の底からすくい上げてくださいました。
お空から急に落ちてきたナギさんは、私にとってまさに、いつも憧れていた、突然現れて私を救ってくださる救世主様のお姿そのものでした。
ナギさんは、図々しくも助けを求めてしまったのにも関わらず、華奢な体躯で、レイブ様に恐れず向かっていき、そして私をここまで連れてきてくださいました。
私の貧相な裸を見られてしまったのはとても恥ずかしかったですが、着ていた衣服までくださり、とても私を気遣ってくださいます。
呪われた子、背信者だと罵られ続けてきた私にそんな優しさをむけてくれたのは今までおばあちゃんだけでした。
不思議なことにナギさんが纏う雰囲気は、いつも私を優しく包んでくれたおばあちゃんの雰囲気にとてもそっくりです。
やはりナギさんも極東の国、イチノミヤの出身なのでしょうか?
私にくださった上着も、彼がまだ着ている服も見たことの無い変わった形をしていますし、極東語もおばあちゃんが話していたものとは少し違う気もします。
いきなりお空から落ちてきた事だったり、レイブ様から逃げる時に使っていた光る板の事だったりと、ナギさんは不思議なことばかりです。
こうして一緒に焚き火を囲むことでわかったのですが、なにか深く思い悩んでいるようでもあります。
私があんまりナギさんを見ていたせいか、こちらに気付き、目が合ってしまいました。
恥ずかしくってすぐに目を逸らしてしまいましたが、ナギさんが声をかけてきます。
「ルーナ、君さえ良ければ色々教えて欲しいことがあるんだけど…いいかな?」
「は、はい!どんな事でもします!!」
ナギさんはとても真剣な顔で、まっすぐ私の目を見て言いました。
あぅ…。こ、これはもしかして、そ、そういうことなのでしょうか?
つい勢いでどんな事でもすると言ってしまいましたが、ど、どんな事をされてしまうのでしょう!!
そ、そういえば、私の耳や尻尾をじっと見ていた気もします…
レイブ様が言っていましたが、男性の中には私のような獣人を好む方もいるそうです。
顔がとても熱くなって、多分真っ赤になってしまっているでしょう。
し、しかし、ナギさんがどんな方であろうと、私を助けてくださり、そして、温かさをくださいました。
それだけで私にとっては…十分です。
だって、ナギさんは私の―。
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