一息
区切りの関係で短いです、すみません。
少女も俺も満身創痍で、全力で走ってもそこまで速度は出ていなかったはずだが、男に追いつかれることなく、身を隠せそうな森へと逃げ込むことに成功した。
授業の体育以外ではほとんど運動することのなかった俺にとっては余りにも過酷だったため、森を少し進んで見つけた腰をおちつけられそうな開けた場所に出た途端、バタッと倒れてしまった。
息を整えながら少女の方を確認する。
少女も相当に堪えたようで、同じように肩で息をしている。
しかし何とか逃げ切ることは出来たみたいだ。
「大丈夫?」
寝そべったまま視線だけ投げかけて声をかけてみた。
少女は一瞬体を強ばらせたが、俺の声だとわかると力を抜き、ゆっくりと頷いた。
「*****」
少女は俺の分からない方の言葉でなにか言うと泣き出してしまった。
意思の疎通があまり上手くいっていないせいで俺が泣かせたみたいでバツが悪い。
「ご、ごめん、出来れば日本語で、俺のわかる言葉で話してくれると嬉しいんだけど…」
少女ははっとして泣きべそをかきながらも再び口を開く。
「ありがとう、ございます」
今度は日本語でそう言い、ぺこりと頭を下げた。
少しほっとした。どうやら早とちりで余計なことをした訳では無さそうだ。
ほっとしたと同時に新たな問題に直面していることに気がついた。
とにかく逃げることに必死だったため気にしている余裕はなかったが、彼女はボロボロの布切れみたいな、もはや服とは呼べないものを身にまとい、その上顔は血に汚れている。
よく見ると靴も履いてなかったようで、足の裏も擦り切れて血が滲んでいた。
慌ててポケットからハンカチを取り出して渡し、ついでに羽織っていたブレザーもあげた。
彼女はまたたどたどしい日本語で礼を言ってからハンカチとブレザーを受け取る。本当は靴もあげたいところなのだがサイズが合わない靴を履くのはかえって良くない気もするので我慢してもらう他ない。
絶対消毒とかした方がいいんだろうけど、消毒液なんて持ち歩いているわけがなかった。
体の汚れを拭ったり着替えたりするのをまじまじと見る訳にもいかないので、少女に対して背を向け、少しほかのことを考える。
自分の置かれている状況の整理だ。
正直なところ、俺は鳴神を助け、屋上から落ちた時には死を覚悟した。しかし幸運なことに俺はまだ生きている。
だがここはどこだろう。
鳴神の様子と今後ろでごそごそやっている少女だけでも判断材料としては十分すぎるほどかもしれないが、まぁ、恐らくここは俺の知っている世界では無いのだろう。
今どき流行りの異世界転生ってやつかな?
いや、生まれ変わってはないから異世界転移ってやつか。
どちらにせよ俺の置かれている状況は芳しくない。
後ろの少女が落ち着いたら色々話を聞かせてもらおう。
多分今俺自身が気づいていない問題も大量にあるだろうが、真っ先に思いつくのは―。
「あ、あの…」
「あぁ、終わった?…って、おわっ!」
目に入った光景が余りにも衝撃的ですぐに顔を背ける。
てっきり血を拭き終わり、着替えたのかと思い振り返えると、少女は何故か一糸まとわぬ姿でそこにいた。
「あ、あ、ごめんな、さい」
「こ、こちらこそ、ありが…じゃなくて、ごめん」
反射的にお礼を言いそうになってしまったのは愛嬌だ。
「これ、わたしがきても、いい?」
「だ、大丈夫、むしろ早く着て」
健全な男の子である俺にとっては刺激が強すぎる光景だったが、一応脳裏に焼き付けておくことにした。
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