師匠の威厳
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「遅いぞ、ナギ」
教会の外に出ると、黒い外套で顔を隠した小さいてるてる坊主が待ち構えていた。
まぁ、もちろん師匠なんだけど。
「すみません、サリアちゃんに捕まっちゃって…」
「あの小娘…本当にお前のことが好きじゃなぁ…。思えばお前の周りにはちっこい娘っ子ばかりじゃし…」
師匠が妙なことを言い出した。
「変な誤解はやめてください…。俺もその事については疑問に思ってますって。偶然ですよ…」
てかこの人さらっと自分も含めなかった?
「まぁ、冗談はさておき…行くとするかー」
「そうですね」
師匠は軽く伸びをして先を歩く。
目的地は冒険者ギルド。
目的はアンクとレイブに会うため。
事件の後、2人はしばらく教会にいたが、意識が戻ってからは冒険者ギルドに預かってもらっている。
その時聞いたのだが、今回の件、アンクが言っていた通り、ギルドからの正式な依頼を通して起きたことらしい。
つまり、アンクは依頼を失敗しただけ。
ギルド的に言えばそういう扱いしかできないそうだ。
だからギルドから直接彼らに対して何らかの処罰を与えることはないらしい。
当の本人たちでの解決を。とのことだ。
まぁ、解決も何も俺的にはもう関わって来なければそれでいいのだが、口約束だけというのも不安だ。
だがそこに関して言えば以外にも簡単な解決策があった。
問題はその策を実行出来る人間にあるのだが…。
「師匠…。本当にあいつ頼りにしていいんですか?」
「んー?まぁ、大丈夫じゃろ。あいつは儂の可愛さにメロメロじゃ」
「それこの間も言ってましたけど…あんなにしといてよく言え…痛っ!!!師匠!!」
「何じゃ?手を繋いだだけでそう興奮するな。愛いやつめ」
俺が言い終わる前に俺に指と指の間に師匠の細くて柔らかい指が滑り込んできて…そして万力のような力で俺の手を握った。
…握りつぶされたかと思った。
こんなにときめかない恋人繋ぎ初めてだよ…。
「師匠…?離してください…」
「はっはっは!照れるな照れるな」
師匠は俺の手を握ったまま、文字通り大腕振って歩く。
どうやらギルドまでこのままで行くようだ。
まぁ、傍目からみたらせいぜい兄妹くらいにしか見えないだろうし、大した問題は無いんだけど…。
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石造りの大きな建物に赤い旗。
ここに来るのも久々な気がする。
あんまりいい思い出はないけど。
「師匠はギルドマスターと知り合いなんでしたっけ?」
「まぁー、そうじゃな。あの小僧には昔貸しがある」
ギルドマスターに貸しがあるか…。
相変わらず師匠の底がしれない。
「おいナギ、刀は右腰に差しとくんじゃ」
「え?でも俺右利きですよ?」
「だからじゃ。礼儀じゃよ、礼儀」
「あー、なんか聞いたことあります。相手に敵意がないことの証明でしたっけ?分かりました」
師匠も礼儀とか気にするんですね。
そう言いかけたが言葉を飲み込んだ。
また手を握りつぶされるのはごめんだ。
刀を右腰に差し直し、ギルドの扉を開ける。
相変わらず物々しい扉は1人だったら開けづらいことこの上ないが、前回はルーナ、今回は師匠と一緒なのでそこまでの躊躇いは感じなかった。
ギルドの様子は前回来た時と変わらないようで、ごつい冒険者たちの喧騒に、仕事の出来そうな受付嬢たちがカウンターで愛想のいい笑顔を浮かべている。
俺と師匠は真っ直ぐ受付嬢の所へ向かった。
「すみません、ギルドマスターに用があって来たんですけど…」
前までだったら言葉が分からなくて大抵こういう時は置物と化していたが、言葉がわかるようになった今、そうなることも無い。
「マスターに…?お約束はされていますか?」
あれ?どうなんだろ?
「師匠?約束してます?」
「そう言えば適当に来るとしか言ってなかったの」
「……すみません…。約束はしてないみたいです」
受付嬢は少し困った顔をする。
俺もなんて言ったらいいか悩んでいると、師匠が口を開いた。
「小娘よ、ススギが来たとアステロのやつに伝えてくれ」
「アステロ…?ギルドマスターを呼び捨てにするなんて……それもこんな子供が…」
受付嬢は聞こえるか聞こえないくらいの小さい声で独り言ちる。
師匠には聞こえてしまったようで、ぴくっと反応する。
ま、まずい…!
「すみません、お姉さん。伝えて頂くだけでいいんでお願いします。ダメだったらまた出直しますんで」
「は、はぁ…。かしこまりました。少々お待ちください」
受付嬢は渋々と言った具合でカウンターの奥へと消えていく。
ふぅ…。
「ギルドマスター、会ってくれますかね?」
「あの小僧には貸しがあると言ったじゃろ?儂がわざわざこんな所まで来てやったんじゃ。面会を断るようなことがあれば…」
タダじゃおかないというわけですか…。
「でも適当に来るなんて言われてもギルドマスターも困るんじゃないですかね?」
「しょうがないじゃろ。お前がいつ動けるようになるかもわからんかったし、そもそも儂は時間感覚には疎いんじゃ。1日でも1年でもそう変わらん」
「は、はぁ…そんなもんですか……」
さすがに1日と1年じゃだいぶ違うと思うけど…。
師匠は吸血鬼の末裔かなんかなんだろうか…?
師匠とお喋りして待っていると、カウンターの奥からレイブ以上の髭面の大男が慌てた様子で現れた。
記憶に間違いがなければ、彼がギルドマスターだったはずだ。
しかし以前見た時はもっと不遜でふてぶてしく、正しくこのギルドのマスターといった風格だったのだが、その顔には明らかに焦りが見える。
ギルドマスターはその表情のまま、カウンターからこちら側へ出てくる。
「ス、ススギ様!!わざわざすんません!!!」
お、おう…。
師匠すげぇー…。
ギルドマスターは、普段絶対見せないであろう彼のそんな態度に驚く周りの冒険者たちの目も気にせずに、師匠に深々と頭を下げた。
それに言葉も共通語ではなく、イチノミヤ語だ。
すっかり忘れていたが、ギルドマスターはイチノミヤ語を話すことが出来ることを思い出す。
「ふむ、まぁよいわ。アステロ、息災だったか?」
「は、はい!ススギ様も相変わらずお元気そうで」
「お前は相変わらず図体だけは立派じゃのぉ」
俺は普段のギルドマスターを知らないが、1回会った印象からして、こんな姿を見ることはまず無いのだろう。
周りの冒険者たちは目を丸くして師匠とギルドマスターを交互に見つめる。
会話は全てイチノミヤ語なので冒険者たちには何が何だか全く分からないのだろう。
言葉がわかる俺は少し面白い。
「立ち話もなんですので、こちらへどうぞ」
ギルドマスターは師匠をカウンターの奥のマスター室へ案内する。
師匠がそれに従い部屋へ向かった。
俺もそれに習い部屋へ入ろうとする。
「おい、なんだお前…ん?この間のやつか?」
「あ、はい。その説はどうもお世話になりました」
どうやら俺の存在は眼中になかったらしい。
「アステロ、そやつはナギ。儂の弟子じゃ!」
胸を張って師匠が自慢気に言ったので、あははと愛想笑いしながら頭を下げた。
「ススギ様のお弟子さん!?…失礼しやした。さぁ、坊ちゃんもこちらへ」
ギルドマスターは態度を急変させる。
坊ちゃんって…。
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挿絵を描いてみましたので、宜しければそちらもご覧下さい!




