別れの夜
今日も今日とてすっかり慣れてしまった孤児院での生活を終えて、自室へ戻ってきた。
いつもだったらシスターに貰った服に着替えるのだが、今日は久々に制服へ袖を通す。
なぜかと言うと、今日の夜シスターに時間を貰い話を聞くことが出来るようになっているからだ。
シスターに話を聞いたらそのまま旅に出ようと思っているので、そのための制服だ。
ワイシャツのボタンを閉め、上からブレザーを羽織る。
制服を着るとなぜだか身の引き締まった思いになると同時にらこのブレザーを見ると、ルーナと初めて会った時のことを思い出す。
裸同然の格好にボロボロの体で助けを求めてきたあの少女も今や子供たちのしっかり者のお姉さんだ。
何度も助けてもらったし、ルーナがいなければ、俺はこの世界で生きていられたかすら怪しい。
感謝してもしきれない。
彼女はこの孤児院で自分の居場所を見つけたように思える。
子供たちと過ごす彼女は本当に楽しそうだし、幸せそうだ。
そんな彼女をこれ以上俺の都合に巻き込む訳にはいかない。
未だに詳しいことは何も分からないが、鳴神を、そしてこの世界を救うというのが一応俺の使命と言えるのだろう。
それはどう考えても楽なはずがないし、命に関わる危険を伴うはずだ。
ルーナに何も言わずにお別れになるのは心苦しいが、彼女の性格を考えるとその方がいいだろうと判断した。
この世界に来て初めて会った獣人の女の子
ルーナ=フォールド。
彼女に会えて、本当に良かった。
「ナギー?今日も一緒に寝よ?…あれ?何その格好?」
「サリアちゃん…。ごめんね、今日の夜はちょっと遅くなりそうなんだ。今日はみんなと先に寝てて」
一人感傷に浸っているとサリアちゃんがいつものように部屋にやってくる。
サリアちゃんともこれでお別れだ。
サリアちゃんは時を除けば俺を最も好いてくれた女の子だろう。
出来れば今後彼女が一体どんな風に育っていくのか見守っていきたかったが、しょうがない。
大人になれば、さぞかし美人になることだろう。
お婿さんにしてもらえるらしかったが、本当に残念だ。
「えー、サリア待ってる」
「んー、そうは言ってもなぁ」
「ねぇ、いいでしょー?」
「でも暗い中1人で大丈夫なの?」
「うっ、それは…」
「ははっ、今日のところは我慢して貰えないかな?」
不満顔のサリアちゃんの綺麗な金髪を撫でる。
柔らかくサラサラでとても気持ちいい。
「うん…。わかった。でも明日は一緒だからね!約束!!」
「……」
何も言えなかった。
その代わり…いや、代わりになるとは思えないが、いつもより長く頭を撫でてあげた。
サリアちゃんは目を細め頭を押し付けてくる。
いつまでもそうしていたいが、ある程度で区切りをつけてみんなのいる部屋まで送る。
「ナギ、一緒に寝られない代わりに今日は抱っこで部屋まで連れてって?」
「え、えぇ…?しょうがないなぁ…」
歳下の女の子のおねだりには弱いナギさんだ。
サリアちゃんを抱きあげようとする。
「違うよ、そうじゃなくて……こう!」
「おわっ!全く…わがままだなぁ」
サリアちゃんのご所望は、抱っこは抱っこでもどうやらお姫様抱っこだったようだ。
お姫様抱っこなんて初めてするんですけど…。
俺の初めてをサリアちゃんに奪われてしまった…。
……なんかとても危ない感じになったから今のなし。
腕が攣る寸前まで行ったが、何とかサリアちゃんをお姫様抱っこのまま部屋まで送り届けることができた。
具体的な時間は約束していないが、そろそろシスターの所へ行ってもいい頃だろう。
元来た道を戻り、礼拝堂の近くにあるシスターの部屋へ向かう。
「ナギさん!」
「あれ?ルーナ、どうしたの?こんな時間に」
「あ、いえ、先程ナギさんとサリアちゃんの声が聞こえたので」
「そっか、ごめん、うるさかった?」
「大丈夫です。ただ、どうしたのかと思いまして」
「あぁ、今日はシスターに話を聞きに行く約束をしてたから、サリアちゃんとは一緒に寝てあげられなくてさ、送ってきたところ。…お姫様抱っこで」
「そうだったんですね。…お姫様抱っこって何ですか?」
「えっとー…。結婚式の時にする抱っこ…かな?」
「あぅ!?け、結婚ですか!?!?サリアちゃんにはまだ早いと思います!!!」
「……くっ、あははっ…落ち着いて落ち着いて。別にサリアちゃんと結婚するって話じゃないから」
「あ、あぅ…すみません…」
「何ならルーナにもしてあげようかー?」
「あぅ!?もう!ナギさん!!いじわるはやめてください!!」
「はははっ、ごめんごめん」
「私はもう寝ますから!ナギさんもお話は程々にして早く寝てくださいね!」
「わかったよ、…おやすみ。ルーナ」
「はい!おやすみなさい!また明日!!」
また明日…か…。
呼び止めてまだ話をしたい衝動に駆られるが、何とか堪えて再びシスターの元へと歩みを進める。
彼女との会話を胸に刻み込むことを忘れずに。
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