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第3話 生への渇望

 どうすればいいか解らない。

 逃げればいいのか? 逃げるってどこへ? 外へ?

 足が動かない。震えるでもなく崩れるでもなく、ただの棒になってしまったみたいに全く動こうとしない。

 今ここに残ってる奴は、全員同じらしい。まるで呆けた案山子のように、ただ黙って怪物を見つめている。


 怪物の手が、もう声も出せない様子の女子の頭に伸びた。そして鷲掴みにし、そのまま宙吊りにする。


 ――グチャッ。


 まるで熟れたトマトでも握り潰すみたいに、呆気なく掴まれた女子の頭は壊れて消えた。血と、赤いのかピンクなのかよく解らない肉片が辺りに飛び散り、無惨な光景を作る。

 それでも、誰も動かない。現実感がなさすぎるからか、それともとっくに思考が麻痺してしまったのか。


 床に落ちた首なし死体を容赦無く踏み越え、怪物が近付いてくる。怪物? ……怪物?

 アレは本当に怪物なのか。だってさっきまで、普通の人間だったじゃないか。

 じゃあ人間? ……アレが?

 冗談じゃない、あんなモノ人間な訳がない。じゃあ、一体、アレは何なんだよ!


 混乱する俺の目の前で、ソレはまた、一人の男子に手を伸ばす。ゆっくりとした動作なのに、男子はそれでもやっぱり動こうとしない。

 駄目だ。このままじゃ皆殺される。このままじゃこのままじゃこのままじゃ……。


「……っワアアアアアアアアアッ!!」


 気が付くと、そんな大声が口から出ていた。そしてあれほど動かなかった足が勝手に動き出し、よりにもよってアレの方へと駆け足で向かっていく。


 ――ドカアッ!


 まるで固い壁にでもぶち当たったような衝撃に、一瞬息が詰まる。自分がアレに体当たりしたのだと気付いたのは、一拍置いてからの事だった。


「う……うわあああっ!!」


 俺の行動に、やっと体が動くようになったんだろう。その悲鳴を合図にするように、棒立ちになっていた奴らは蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げ去っていった。


「あ……あっ」


 早く俺も逃げないと。そう思った時、俺の両肩をとても強い力が掴んだ。


「いづっ……!」


 顔を上に上げると、アレが俺の肩を鷲掴みにし、ジッとこっちを見下ろしていた。反射的に身動ぐけど、肩を掴む力は欠片も緩まない。


「は、離せよ……」


 震える声で、拒絶の意を示す。それでもアレの手が、緩む事は全くない。

 俺を見つめる黄色く濁った目から、感情が読み取れる事はない。やがてソレは、ねばついた唾液の滴る口を大きく開けて――。


 俺の左肩を、大きく噛み千切った。


「あ"……あ"あ"あ"あ"あ"っ!!」


 自分のものじゃないみたいな悲鳴が、口から飛び出した。最初は激しい熱、そこから少し遅れて強烈な痛み。

 痛い……痛い痛い痛い痛い痛い! 何だよこれ何なんだよこれ!

 何で俺がこんな目に遭うんだよ。俺が何したって言うんだよ!

 俺……死ぬのか? こんな所で、無様に死んじまうのか?


 ……嫌だ。


 ――ドクン。


 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。


 ――ドクン。


 俺はまだ……死にたくない!!


 そう願った瞬間。

 まるで全身の血液が沸騰するような感覚が、全身を包んだ。

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